美食よさらば: 予算と健康食の狭間で
ロハス?そんな暇あるか!

陸軍士官学校食堂・ワシントンホール

士官学校の食事。どんな味かとの御質問を戴いた。大変嬉しゅうございます。でも…味?英米ですよ?日本人が寸評すると一言で終わってしまう。本国人に聞いた。が、士官学校の人間はほぼ男。女も趣味が食べ歩きなんてのはいない。黙って出されたものを平らげるのみ。
そもそも士官候補生は政府お墨付きの健康体で毎日の必須運動量がハンパない17-22歳。食物アレルギーなどあれば入学もおぼつかず、入学したらしたで好き嫌いがバレたらプリーブ時代を生き残れない。食事が口に入れば御の字な毎日。細かい事など覚えていない。手当り次第に聞いたが不毛な結果だった。

空母に補給物資を積み込む係サルサの補給完了、オーバー

仕方ないので士官以外の方々にも聞いた。もしかしてそっちのギャレーの方がおいしいもの作ってるかもしれないじゃん?・・・無駄だった。革命やら政情変化に応対し政争地域に急行したせいで輸送船がついて来れず野菜はおろかミルクまでなくなり、コンデンスも粉ミルクも底をついてシリアル食えなくなったとか、そんな話ばっか。病院と航空関係の基地は割とおいしいとか、意外と中東の基地がイケるだの、日本に昔いいシェフがいて、なんておぼろげな話はあっても。病院?でもそういえばアメリカの民間病院のカフェテリア結構豪華だよな、縁はないけど。退役軍人局病院はまあその、ご想像にお任せします。。。

だがしかし。いろいろ調べてるうちに恐ろしい事実が浮かび上がって来た。90年代を境にして、士官学校の食事内容に大きな違いがあったのだ。質量ともに。

公式発表1日4000カロリー(希望)

英国王立海軍大学の食堂
ミルク(失笑)ラム入りだよな?
王子誕生でラム支給確実な英海軍

例えば「美食の報酬」記事。キングホール(米海軍兵学校の食堂の名前)の写真に一食4000キロカロリーとキャプション付けた。昔はカロリーの4割が油脂由来。今だってアメリカのピザは油が滴ってる。士官候補生はみんなピザパイ1つ丸ごといくからそれだけでも4000カロリー楽勝。それに兵学校専用の酪農場でホルスタインさんが347頭、毎週18000リットルのミルクとクリーム1000リットルを生産して下さってたので消費は義務だった。朝ご飯にアイス、昼にミルクシェイク、夜は両方。それでも太らないのが摩訶不思議。 だが今は一日4000カロリーに抑えているという。良いことだ。フットボール選手など運動選手は倍量とある。えーと、運動選手じゃない奴なんているの?まあいい。たとえほとんどの人間が特盛りでお代わりしているとしても、公式発表を尊重しようじゃないか。キャプションを直した。21世紀だもんね、健康にも気を使わなきゃ。えーと、それから。フットボール選手はギフトでステーキ食べてる、と。何だギフトってのは。なんで全員ステーキじゃないんだ?

米海軍士官学校の売店で食べ物を買う候補生アナポリスの候補生用売店 奥が菓子の棚 真剣に物色する候補生が引きも切らない理由を今理解した

ググった。すると、2007年頃の噂では海軍兵学校で食事の量が足りず痩せる奴続出、実家からの仕送り食物と金の続く限り出前で食い繋いでいた時期があり、親が怒ってスキャンダルになりかけたらしいのだ。副校長が公式に「そんな事実はありません」声明を出してやっと終息したとのこと。は?量が足りないだと?どこの国の話だ、スーダンじゃあるまいし。

つまり、士官学校の食費を軍が決めた予算の範囲内でやりくりし、ついでに残飯廃棄量とカロリーもカットしようとした結果、チャウホール(食堂)に来るであろう人数や肉などの主菜の摂取量を低く見積もり過ぎたのが裏目に出た日があったらしい。サラダやスープ、パン果物などの副食は栄養バランスよく十二分に余っていたようなのだが。最近はエコとかもったいないとかベジタリアン食がどうとか外野がうるさいから士官学校も気を使うのだろう。その前に頭使えよ。アメリカの十代後半がブロッコリーとアスパラガスで皿を埋めると思うか?肉がないならサラダを食べればいいじゃない、とはマリー・アントワネットでも言わなかった。肉がなきゃ食事とはカウントしない親御さん世代もまだ多いというのに。

士官学校の厨房&食堂スタッフに拍手!

アナポリス海軍士官学校の食堂

ここでまず士官学校における食事の用意に関するチャレンジの数々をおさらい。食欲旺盛な若人4600人。テーブル数400から500。毎日決まった時間に一斉に食事。制限時間30分。うち配膳時間5分。実質食事時間25分以内。全員座っての温かい食事、完全給仕付。ビュフェじゃない。(現在導入テスト中)
アメリカ海軍の空母は5000人、一日4食だが24時間稼働。決まった時間に20分で全員に食べさせる必要はない。厨房だってひとつってことはない。

陸軍士官学校の食堂 テーブルクロスあり

この点について士官学校は極め尽くしている。世界中から食の関係者が見学に来る。巨大イベントのケータリングのプロや高名なシェフがストップウォッチ片手に口を揃えて褒めそやす、驚くべき統制の取れた工程(しかもこの予算でよくこれだけできますね!との悲しい賛辞付き)。前日から朝食等の仕込みが始まり、当日未明には100名近くによる調理が始まる。出来た順に保温・保冷。全てをテーブルに出すだけに整え、その時を待つ。
食事前、その日のお知らせなどの15分アナウンスが終るまで士官候補生は直立不動。巨大保温カートを従えた給仕係も脇に控えている。「着席」の号令がかかるなり各テーブルで一斉に給仕が始まる。5分以内に配膳が完了していなければならず、20分後には全生徒が退出し、片付け、残飯廃棄、清掃、毎食4万点の食器洗浄作業が始まる。作業効率は感動的ですらある。

空軍士官学校の厨房施設こちらは手動ミックス空軍士官学校

例えば翌朝パンケーキを出すとする。ベーキングパウダーを早く入れ過ぎたら膨らまなくなるので、タネを作り置きするにしても前日に済ませて寝ちゃうわけにはいかない。先に焼いて冷凍なんかしない。朝食の仕込みを始めるのが深夜12時15分。子供が溺れて行方不明になりそうな深さの230リットル桶2つににミルク120リットル、バターミルク90L、卵1440個(82kg)、砂糖19kg、塩1kg、バニラエッセンス23L、ベーキングパウダー13.6kgを二人掛かりで入れカヌーパドル大のミキサーにかける。薄力粉136kgを中速で混ぜダマを潰し強力粉41kg投入。撹拌の後ショートニング23Lを混ぜる。
タネの仕込みが終わるのが2時30分。3時30分、パンケーキを焼く作業が始まる。各グリルステーションにタネ113リットル入りの容器が置かれ、横並びグリル台に耳栓完備の焼き係17名が2L入り容器を手にパンケーキ種を直径15cmに落としひとつひとつ焼いていく。グリルの鉄板一枚につき48個づつ。焼けたものから裏返す。スタッフひとりが1時間に300枚製作、7時の朝食に出す数計8000枚。

アナポリス海軍兵学校で食事の用意をする厨房のスタッフ

 焼けたパンケーキは15枚ずつ供用の皿に盛られ、厨房の48台の保温機に直行する。各保温機にサーバートレイ10個。トレイ1つにつき1テーブル10人分がのせられる。保温カートには番号が振られており食堂の各々の定位置に待機することとなる。全てのカートにパンケーキが納まったのが5時30分。即座にステンレスグリルや用具の洗浄と使用エリアの掃除開始。20分後には全てきれいな状態に。パンケーキだけでこれ。もちろん朝の献立には他のアイテムもあるからキッチンは同時進行。

アナポリス海軍兵学校の厨房にてパドルで煮物を混ぜるおじさん確かにパドル クルーチームが筋トレできそう

コンベア式揚げ物マシンがフライドポテトを1時間に1トン調理、ドーナツマシン1万個/時。これらが複数稼働。そして昼食がバーガーなら18人が8時間交代でバン1万個を深夜焼き始めて終わるのが朝9時。その横でピザやチョコエクレアの用意も着々と進行している。また前日に解凍して挽いた牛肉1トンを5人掛かりで9000パティ焼くのに2時間。最新のベルトコンベア式ガスブロイラー2台でも1時間に3000が限界。ミルクだけでも毎朝4000リットルが消費される規模なので冷蔵庫から食堂まで全てを運ぶのに都会のアパート並みサイズの業務用エレベーターで往復。誰がいつ何をどこでするかの決定と管理は非常に重要。仕込みから洗浄まで最短でも5時間x3回x毎日。週末でも無人にはならないからだ。まあ週末の人数は各自申請しないといけないので割れてるし、大抵ビュフェなんで大変さは違うけど翌週の用意がある。裏方の苦労は尽きない。

陸軍士官学校の食堂陸軍士官学校のカデット・メスホール(食堂)

朝6時からは給仕が忙しくなる。吹き抜けの巨大食堂(ウエストポイントのワシントンホール)に集合したウエイターは部署が決まっており、6棟にひしめく465のテーブルに皿やグラス、コーヒーカップやカトラリーをきれいに並べ、塩砂糖胡椒バターマスタードケチャップシロップタバスコサラドレピーナツバタージャム等々をセットする。飲み物は水アイスティーオレンジジュースバグジュース*珈琲紅茶ミルクなどがピッチャー等に用意される。温める必要のないパンなどもテーブルに用意。


空軍士官学校の食堂空軍士官学校 所々に散らばる白い点は給仕の方々

生徒着席の合図とともに自分の背丈より高いカートに納められた料理を担当の10テーブルに6分以内に給仕。海軍兵学校は5600平米1700坪のT字型食堂にテーブル数372、1テーブル12人、配膳5分。空軍士官学校は2−3分で出来ると豪語しているが、食べ物投げてんじゃないだろな昔のアエロフロート並みに。プリーブに給仕の一部を代行させて時間短縮するらしい。「でも食べる時間はちゃーんとたっぷりあるから安心してね♡」と公式サイトにあった。丸呑みだな。

* バグジュースは虫の体液ではなく、レモンライム系の緑色の飲み物。クールエイドとかシトラスクーラーなどと呼ばれる粉ジュースの類(推定)。海軍だけかも。真鍮も磨けるという。まあ10円玉もケチャップでピカピカになるから酸性度がキツいだけで毒ではあるまい。夏はこれとかアイスティー、ハワイアンパンチなど。冬は珈琲紅茶がテーブルにセットしてある。ペットボトル全盛の今でも水はピッチャーで出すと思う。さすがにコーラとかソーダは出ない。ピザに一番合うのはコカコーラだと思うのだが。

ミルクは自分の分だけ取りましょう残すな自重警告@陸軍士官学校

少なくとも陸軍と空軍士官学校ではテーブル奉行が任命されるらしいが、単なる班長とどう違うの?で、ミニパックのミルク(スキム、低脂肪、チョコ)やらヨーグルト果物などは各自がいるだけ取るはずなのだが可哀相にプリーブがこき使われ、子供プールサイズのポリ容器で大量に先輩の分を貰って来るため、使わずに捨てられる数が増えて困っているらしい。そんなこと言っても最下級生にしてみればチョコミルクが足りなかった時の自分の不幸な立場を第一に考えねばならず、未使用分を元に戻す時間などない。先輩はもちろんそんな面倒考えてもみない。それにしても30分で腐るわけじゃなし、再利用出来ないのか未開封パック牛乳。まあ、それで誰かお腹壊したらまたスキャンダルになりかねないが。

今昔比較:過去の栄光ここに極まれり

アナポリス海軍兵学校の食堂 大昔の様子アナポリス海軍兵学校の食堂 大昔のメスホール

さて、50、60、70、そして80年代までのアナポリス卒業生達は一様に士官学校の食事について褒めそやす。質量共に満足した記憶しかない。
誰にとっても懐かしく楽しいキングホールの思い出。特に朝食はプリーブですら楽しんだ。なぜなら朝礼の前の好きな時間に行って一人でゆっくり食べられたからである。
朝はアイスクリームにイチゴ。スクランブルドエッグと鳥モモ。オムレツいろいろ。(ちなみに食べる時間節約の為ゆで卵の殻はむいてある)
思いつく限りの菓子パン。シリアル各種。

アナポリス海軍兵学校の食事 カットフルーツ

トースト、ドーナツ、ベアクロウ、キッシュ、スコーン、ワッフル、オートミール、グリッツ、ビスケットにグレービー。ステーキ、ベーコン、ソーセージ、肉やポテト系の朝ご飯定番いろいろ。
飲み物はコーヒー紅茶ココアミルクフルーツジュース、ミルクシェイク。付け合わせのアップルソースにジャム数種にバター蜂蜜メープルシロップに糖蜜にクリームチーズ。フルーツだってカット済みも丸ごとも盛りだくさん。

アナポリス海軍兵学校の食事 ミニサンドイッチスライダーはミニバーガー&ミニサンド

昼は主にサンドイッチとスープ系とはいえ豪華。ピザやバーガー、スライダー。チリにスパゲッティ、ラザーニアはもちろん、30センチホットドッグ+テキサスソース、ミートボールサブ、ルーベン、クラブサンド、ヴィール&チキンパルメジャン、付け合わせにスイートポテトとマシュマロのフライ、チーズフライ。その日のメニューが気に入らなければアメリカ人お得意のピーナツバター&ジェリーサンドイッチを勝手に作れるよう、各テーブルにはピーナツバターとジャムの瓶完備。

アナポリス海軍兵学校の食事 冷エビ前菜定番シュリンプカクテル

夜は夜とてメインの肉も魚も副食もサラダも温野菜もスープもパスタもパンもたっぷり。仔牛肉のコルドンブルー、生ハム、ローストビーフ。メリーランドフライドチキン(南部は揚げ物有名)、クラブケーキ(チェサピーク湾の名物)、生オイスター、カンザスシティステーキ+オニオン&マッシュルームソテーとベイクドポテト。ポークチョップに種々のソース。カレーに付け合わせいろいろ。チーズ各種。サリスベリーステーキ、シェフ特製ミートローフ、Tボーン、BBQリブ。毎週日曜の夜はステーキとロブスター(サーフ&ターフ)。デザートは数種のケーキやパイから好きなものをチョイス。プディング、バナナスプリットやアイスクリームも。おお、ハード(外界では酒入り)ソース掛けキャノンボールを忘れてはいけません。もちろんどれもお代わり自由。絶対食べきれない量が運ばれてくる。

ウエストポイント陸軍士官学校の食堂のグラス

銀のスプーンフォークナイフにクリーム&蜂蜜ポット、紋章入りの陶食器とグラス、布ナプキンとリング、白のテーブルクロス、ウエイター150〜300名。士官学校という「機関」ではあっても「家庭的な」温かい食事を提供するのが目標というのだが、どこの金持ちの家庭なんだか。普段でさえこれだから感謝祭(かつてはプリーブは休暇を取れなかった)やイースター、ハロウィンなど季節のイベントや、アーミーとの試合前やあとX日で卒業記念の夜など士官学校独自の行事の特別ディナーは豪華を極める。祝日なのに学校にいる侘しさを紛らわせるように。年齢によってはワイン、シャンペンなど酒も振る舞われる。ハッキリ言ってアブノーマルな食費がかかっていたはずだ。まあ人数も少なめだったんだが。

もったいないお化け・・・何それおいしい?

ナプキンをたたむ係ナプキンをたたんでリングをはめるだけでも大変な手間

確かに健康的かどうかは大いに疑問だし、そんなことに気の回らないはずの青年達でさえもったいないと思ったほどの残飯量。何しろロブスターの足やハサミの肉などという手間のかかる部位を食べる奴なんぞいない。シッポだけベロンと出して溶かしバターにダンクして食べて終り。もっと欲しければ次のをとればよい。日本人ならついミソを気にしてしまいそうだが、一言そんなことを口にしたらまわり中から頭や殻が寄付され皿が見えなくなるだろうからじっと我慢しなければならない。ステーキも皿からはみ出すサイズ。こっちも人数分以上用意されているから骨のまわりなんか無視。ナイフで切り易いとこだけ食べてお代わりする大名方式。それとプリーブは食事中は上級生からの質問攻めに遭っているので皿に何が載っていようとまともに食えてない可能性大。部屋に持ち帰りなど許されないからすべて残飯となる。

空軍士官学校のアイスてんこ盛り溶ける前に攻略せよ!アイスの山に挑む空軍士官候補生

もったいないと言えば、バニラアイスのツブツブがバニラじゃなくて黒コショウだという噂が広まり、誰一人アイスクリームに手をつけなかった日もあったそうな。4000人分の可哀相な手作りバケツアイス達…。気合い入れ直すために胡椒入りアイスクリームってどんな罰ゲームだ。味見くらいしてみろよ。
アイスクリーム専用室で二人掛かりで2日かけて作ったのに。毎回フレーバー2種類は出さなきゃってんで時間かかったそうだ。自動じゃないの?本当に手作りとか無謀すぎる。製法は知らないが現在のアイスクリーム消費量は1日あたり1200リットル。

食べ物で遊ぶなよ?! いいか絶対だぞ!

海軍士官学校のケータリングサービスの一品こんなチーズだったら自分も投げると思う
特に手前のまだらピンクの黴びたの(怖

いくらアメリカとはいえ普通小学生でも学校ではしないフードファイトもたまにあったらしい。普段は規律に阻まれそんなことは想像すら許されないが、まれにコントロール不能になる。特にイベントで盛り上がってアドレナリン過多な時期は。何しろ若い。箸、いやフォークが転げても可笑しい年頃。一番ヤバいのはウ○コっぽい外見の食物が現れた時。犬のフンそっくりなハムコロッケとか。誰かが笑ったりひとつでも空中を舞ったらもうおしまい。応酬が復讐を呼び、どんなに大人が叫んでも三次元空間がコロッケで埋まる。また息子さんそっくりの食物は誰も手をつけないので食堂の被害はないが廃棄量は抜群。でも、たまには見かけが普通なのにもかかわらず食物が宙を舞うこともある。

海軍士官学校の食堂

 アーミーネイビーゲームの直前、ピザとミートボールスパゲッティが夕食にでたある夜。巨大食堂の一角で葡萄が一粒飛んだ。それが局地的にエスカレートし始めた頃、補給士官がやおら御立ち台のマイクに向かい「民間人の皆さん、ご退出を。たまには候補生に楽しい時間を与えてやって下さい」と電撃発言。もちろん当人はそんなことを言った覚えはないと言い張っているが、ともかくそのように聞こえた。

米海軍士官学校のハットトスフード・トス=卒業式の予行演習ってことで


その後のカオスは説明するまでもないだろう。ナノ秒かからずにあらゆるものが空中を行き交い始めた。サラダドレッシングの入ったソースポット。飲み物の入ったグラスとカップ。スパゲッティ。ピザ。その日ゲストとして同席していた数学の教授が貫禄タップリのお腹のベルトにナプキン挟んだまま必死でその場から逃げようとしているのを発見した野球部のピッチャーが教授の頭めがけて渾身の豪速球でオレンジを投げる。
お約束のようにピザを踏んづけすっ転んだお陰で死亡もしくは重度の脳震盪を逃れた教授は床にしたたか体を打ちつけて呻き、一瞬前に頭が占めていた空間の背後の窓ガラスが派手な音を立てて割れる。

そんな最中ひとり身じろぎもせず淡々とコーヒーをすすり続ける冷静な奴も。そいつだけ大気を埋め尽くした食物をひっ被りもせず、奇跡的に全身きれいなまま超越した態度なのもお約束。

米海軍士官学校の食堂へのドアこのドアの向こうは地獄

その横をサービスドレスブルーと制帽白手袋に身を包んだ日直士官が「みんな動くな!今すぐ食堂から出ろ!」とまったく筋の通らない要求をあらん限りの大声で叫びながら腰の刀剣をがちゃつかせて往復持久走。ピザもスパゲティも着地するなり再雇用され空中を往復、見事なタッチ&ゴーを披露。

当然その日の後片付けは士官候補生が全てやらされたわけだが、中隊ごとに25名ずつボランティアを差し出せとのお達し。当時各中隊に人員100名超、そのうち1/4はプリーブ。さて、怒り心頭に達している食堂清掃スタッフの待ち構えるキングホールに人身御供として送られたのは誰だか、もう皆さんわかりますね?


黄金時代の終り

潜水艦の士官室で使われていた食器潜水艦の士官室で使われていた食器 銀は磨くのが大変 ステンレスやプラスチックって最先端だったんだよねきっと。戦前は。

そんな天国のような状況がどこでどうなって欠食児童を生んだのか。まず、80年代末に既に質が落ち始めたようだ。例えばステーキのグレードが一段階落ちる。プライムリブがサーロイン(ランプ)に。週3が週1に、そして月1に。ロブスターが似非エビ(エビカマ?)に。カニ食べ放題が年一回に。毎食リネンの白テーブルクロスが紙のランチョンマットに。グラスがプラスチックに。フォークがステンレスに。食器がメラミンに。木からパイプ椅子に。スタッフ数十名リストラ。伝染病対策&安定供給用士官学校専用酪農場からのミルクがガロンあたり25セントを節約するため市販品に。(紺地に黄の校章と錨マーク入りオリジナル紙パックの経費も浮きました)

アメリカ海軍士官学校で使われている食器現在・・・。

そして栄養士の導入。アメリカ人の考える所の低カロリー=量を減らせばいいんじゃん!健康食=全部野菜スティックにすればいいんじゃん!!が悪循環に加わる。食べ残しが増える。そりゃそうでしょ、野菜ファヒータなんてどこに取り柄があるんだよ。勢いピーナツバター&ジェリーサンドの人気沸騰。が、折悪しく価格の高騰したピーナツバターお持ち帰り厳禁令が。バナナもリンゴも食堂の何もかも持ち出し禁止。ヤード(キャンパス)内レストラン、カフェテリア、お菓子、外からの出前に頼る生徒が増える。廃棄量さらに増加。

陸軍士官学校の朝食陸軍士官学校のある日のある人の皿 朝からグレービー

じゃあそんなに作らなくていいよね。明日っから期末テストだし、朝食義務じゃないから誰も来ないよね?3500人分くらい用意しとけばいいんじゃない。読みが外れる。食べ物足りない。もう誰も食堂を当てにしない。苛立った校長が後先考えず無理矢理食堂での義務食事回数を増やす。一回あたりの予算が薄くなる。遅れていくと主菜が残ってないメスホール(食堂)で上級生がプリーブに自分のチキンを与える。見かねた士官学校運動競技協会からの寄付でフットボール選手が試合前にステーキ食べてる横で。ええ、もちろんそんな事実はありませんでした。よね?

アメリカ海軍兵学校で食事をする大統領夫人ミシェル・オバマ大統領夫人@アナポリスの食堂

一回でもなにかあればマスコミの格好の餌食となるのが政府関係団体の中でも特に注目度の高い士官学校の宿命だとはいうものの。味や質の批判は個人的意見として退けられるが数は…。だからたとえ全員が3べんお代わりしても代替え品を出せるくらい何が何でも昔のもったいないレベルで用意すると誓ったのだろう。そのぶんどこかにしわ寄せが来ても仕方あるまい。しばらくして肉の箱に「等級D:刑務所と士官学校での消費に限る」と書いてあったとのまことしやかな噂*が。その後細かく挽き過ぎて原材料がわからないミステリー肉が主流となり、特別ゲストが来た時だけ昔のメニュー。
ついでにコーヒーをスタバに換えたら半数以上が珈琲飲まなくなったらしい(笑)

ちなみにこの特別ゲスト時の料理は今の子にも好評。入学を思案中の高校生が来る夏期講習の食事もなかなか良いらしい。詐g…いえ、素晴らしいマーケティングですね。もう入ってしまった後の祭りの生徒のご両親用の午餐の味は、言うまでもないかと。

* どこの学校にもある都市伝説。牛肉ではサシの分量や固さの違いでプライム、チョイス(士官学校御用達)、セレクトなどとランク付けされますし、豚はランクなし。鶏肉もABCまでしかありません。普通店頭に並ぶのはAのみ、加工肉でもBかCです。まあ実は牛にはその下が3段階以上あって挽肉や靴底ステーキの元であるサシなしの老牛なんかがそこに入るそうですが少なくともDじゃありません。大量購入した場合箱に業務用と書いてあるのはホテルやレストランなどでも同じですが、業務用=for institutional(機関での)use(消費に)only(限る)とも読めるわけで。軍やムショはinstitutionの最たるものですからいかにも訳ありっぽく聞こえるだけです。急に横須賀のシーサイドクラブの冷蔵庫にボディバッグ入れてたとかいう伝説を思い出した。。。

予算と健康食の狭間で

海軍兵学校で出たマカロニアンドチーズ特別ゲスト用料理かと思いきやミシェル特製レシピの
マカロニ&チーズ登場 当人の提案じゃあるまいな
量もオサレ過ぎて気分は誕生日に夜店のヤキソバ
しかもスクランブルエッグとツーショットのオヤジ演出

いくら何でも欠食は一過性だったようだが、今もチャレンジは続く。何しろ予算枠が厳しい。2013年度は一人1日12ドル弱。皿洗いの時給が12ドルの時代に朝ご飯250円昼夜460円。惨めな額である。しかもこの軍のお仕着せ年間予算(空軍は8.8億と言ってますがそりゃいくら何でも日割りで払い戻す時の金額だろ)は上級生が食堂で食べる回数週8回で計算という噂。最低でも昼5回は義務、日曜の夜もみんな帰って来てる。それだけでもう6回分。だけど朝ご飯は普通みんな食堂行くんだよね~。そのうえ食器代もマスタードも砂糖もピーナツバター代も全部そこから出すのだ。あげく特別ゲストディナーや数千人が来るパーティ食も負担。だから海軍兵学校公式サイトによれば候補生一人1日あたりの食費460円。

海軍士官学校でのコンファランス仰々しい会合の陰でチキンばかり食わされる候補生

 い、1日?!あのう、皿一杯の肉を15秒で片付けちゃうような食欲の若者だらけなんですが?もっとも陸軍士官学校の食堂の中の人によれば全校生徒数x12ドル/日で考えてると。つまり1日何人食堂に来ようと計500万円程度で食事作る。だがいくら儲け度外視の原価でいいとはいえ、いまどきのアメリカの食品価格は日本より割高に思えるくらい。それになんと言ってもお役所だからメニューは3ヶ月前から検討。栄養価と人気を考慮し1ヵ月分の献立を決めたら材料が間に合うように到着する手配をしなければならない。日本と違い業者に任せっきりじゃ危ない。消費量が多いので届かないアイテムがあったら大問題。お届けは一ヶ月前から一日前まで物により差がある。貯蔵スペースにも限度があるから安い時に買いだめも先物買いも難しい。腐らないものは20日分は備蓄出来る倉庫があるが肉は冷凍庫に4−5日分。野菜室はイモなら数トン分。だから臨機応変な対応をしたくても予算と在庫とにらめっこ。

陸軍士官学校の昼食見た目きれいな多色芋が大不評だった鶏ランチ
パフェで口直し

たとえば冷凍鶏肉を大量購入したが食べ盛りの生徒の消費量がやたら多かったとしよう。タラ肉ホットドッグが評判悪くてローテから外された分チキンで埋めたりするからね。1食でトン単位消費される肉を買い足す予算を捻出するため、まだ買ってない将来の生卵の予算を削り、粉卵で代用。どんな味なんだろう。粉末プリンの素とかそんな感じ?
生野菜はそのつど時価で市場から買わねばならないが天候1つで価格は乱高下する。カン詰めや冷凍は今ではスーパーで店晒しの生野菜よりビタミン保持率が高かったりするのだが、そこまで詳しくない外野がうるさい。

美しい吸血鬼こんなお姉様が同席の食堂なら出席率抜群 血の気は皆あり余ってますんでお好きなだけ吸って頂いて結構です

またいつ誰が食堂に来て何人がカフェテリアやレストランに流れるのか推測しなければならない。アウェーの試合やら社会福祉やらでいつも全員いるわけじゃない。メニューに魅力がない日(i.e.鱈ドッグ)は誰も来ないかもしれないがある程度多めに用意しなければならない。平均12000食/日を制作。空軍や沿岸警備隊は朝昼が義務食、夜は自由。海軍は朝と夜のほとんどが自由だったけど今は不明。某僻地の士官学校では外から出前出来る全てのレストラン(3軒くらい?あっごめん、マックとサブウェイあるし4軒か)のメニューを研究し、食堂でそれらを出せるようにした所、1500人しか来てなかったのが2500人になったと言うが…。

空軍士官学校の食堂食の色が映える空軍士官学校の青いテーブルクロス

3食全部全員で食べることにしてしまえば計算は楽だが、今度は一食あたりの費用がクラッカー1枚分になってしまう。それでなくても年間300万食とお弁当10万個。プリーブサマーだけでも15万食超。
一応ウエストポイントで木曜日、アナポリスで水曜が皆で揃って夕食の日と決まっているらしいが、その日の夕食直前にバスでどっかに出かけていく大量の候補生達は何だったのか。まさか口減らし…まあ着席人数さえ事前に割れてればよしとしよう。


未来への努力:海軍編

アナポリス海軍兵学校で改装中の臨時厨房キッチン改装中の海軍兵学校臨時厨房

実際にはアナポリス兵学校は2010年に47億円かけてキッチンを大改修し新たな調理設備を入れた。オーブンはロースト皿80枚が一度に入るサイズx2。4キロの七面鳥なら320羽焼ける。コンベア式揚げ物機 x2=海老フライ1トン/時。鍋x6=スープ3トン。またレストラン業界のプロ達を集めてメニューの改善(味や健康度も含めて)やサービスの向上のためのアドバイスを聞き入れたりと、将来のリーダーとなる若者達がよりよい食習慣を身につけられるよう頑張っている。海軍内比較だが今年は5つ星を獲得。

海軍兵学校食堂が新装オープン海軍兵学校食堂の新装オープン

新メニュー試食は生徒グループが行い、OKなら一度全校生徒に出し廃棄率25%を下回ったアイテムのみローテーションに組み込む。春巻(米国仕様)は25テーブル300人で残飯に入ったのは50本のみ、支持率83.3%。七面鳥チポトルソース、300食中173人分廃棄。これでチポ鳥は二度とメニューに現れないシステム。たとえ人気メニューでも最低6週間は間をあけ、飽きがこないようにする。(みんな大好きバッファローチキンウイングのみ2回)
また民間人並みに健康に気を使う生徒のためにサラダバー、フルーツバーなども食堂の一角にテスト稼働中。なぜ空軍士官学校のように朝夕ビュフェにしないのか。時間短縮の為もあるが実は海軍兵学校は陸の船という建前なので、艦艇で海軍士官が完全給仕されている以上その例に習うしきたりなのだ。だから簡易スタイルは週末だけ。全部ビュフェにしたかったら次のスキャンダルを待つしかない。

船の士官室で珈琲を飲む士官達

ちょっと休憩:食堂と士官室

ここで食堂の名前についてちょっと整理。メスは厨房。船のメスの隣には下士官兵用の食堂、メス・デックがあります。これはほとんどロールアウト(カフェテリア式)かビュフェ。陸上の基地には甲板(デッキ)はないので食堂はメス・ホールと呼ばれます。士官学校も軍の施設ですからこれに倣って食堂をメス・ホールといいます。チャウホールはもっと砕けた渾名です。また士官室(ウォードルーム/Wardroom)を士官用食堂と同義に使う事もあります。

USSヨークタウンの士官食堂再現展示USSヨークタウンの士官食堂再現展示

士官室は大概ラウンジエリアとダイニングセクションに分かれていて、専用の厨房から料理が運ばれます。米海軍とドイツでは給仕付きなので自分で何もしません。もちろんわざわざ給仕を呼びつけなくても自分からアイスクリームのお代わりを取りに行っても構いません。士官用食堂のキッチンはオフィサーズ・メス、オフィサーズ・ギャリーともいいます。ギャリー(ギャレー)は厨房。
そういうわけでごはん食べる所の名前はいっぱいありますが基本的に士官と下士官兵は一緒にご飯を食べません。給仕や調理担当以外の兵卒は士官室への入室も出来ません。ので何か申し送りや集会を開く時はメスデックに集合します。メスデックは大抵メインデッキの下、エンジンルームの上あたりに位置し、船の真ん中へんの広いオープンスペースなので会合に便利なのです。

未来への努力:陸軍編

アナポリス海軍兵学校の厨房の機材

陸軍士官学校の方はいまだに白クロス給仕160人の世界がかろうじて時折展開しているようだが、寮の部屋にお持ち帰りとなった食器やナイフフォークの類いを返してもらうためのお救い箱が設置されたりいろいろ大変。陸軍は片付けを自分でやるので持ち帰りも見咎められにくいのだろう。あと食費を引き出してデリでサンドイッチ買う足しにしたりしてもよい。払い戻しで貰える額は上述の日割分(陸軍と空軍共575円/日)だけど、食器やジャムの分は引かれてないとしたらお得といえる。

ウエストポイントでのランチ

もちろんWPも食事に関する生徒のフィードバックを精力的に集めて改善に取り組んでいる。デザート試食会に来てね!なんてお知らせが回ってくる。
100人近いシェフのうち21人はCIA (アメリカ調理専門学校)出。それだけでなく食堂厨房のジャーマネ30人に8週間のプリーブサマーならぬ徹底指導を授けるのはフォーシーズンズホテルマンハッタンのスタッフ教育担当コンサルタント。キッチンは1998に改装し三倍の広さに。今も新機材を導入し続けている。スチームオーブンとかね。


空軍士官学校の公式ランチ写真空軍士官学校のランチ宣伝写真
海軍兵学校の方がメシがマシらしい

1日の摂取カロリー目標は男3500女2500。陸軍からのお達しでタンパク質2割脂質2−3割炭水化物5-6割遵守。朝食時にフィットネスバー(果物ヨーグルトカッテージチーズなど)昼食用にタンパク質コーナー(肉ツナ卵豆チーズ)も作った(海から遠い土地のシーフード=マグロ缶一択)。なるべく複合炭水化物にしたり、テスト勉強のお供に健康スナック(米国基準)供与と、アナポリスより25年も前に栄養士を入れてるくらいだから陸軍は真面目である。なのにウエストポイントでは構内に酒を出す施設があるらしい。そこでカロリー取っちゃダメじゃん!そりゃあ、外で飲ませるより監視は利くだろうけど。

士官学校チャウホールの味

英海軍調理スタッフが料理合戦の準備中英国海軍調理スタッフ(暗黒面)
料理合戦の準備中

英海軍調理スタッフが料理合戦の準備中料理コンテスト出品作も段ボール色

ここでやっとリクエストに戻り、味の話。BRNC。イギリス人ですらマズいというその味とは一体。あまり考えたくない。味がないのじゃなかろうか。段ボール並みに。ないものは語れない。

アメリカ。50州から集まった候補生達。好みも食習慣もまちまち。ある人のごちそうは別の人には犬の餌。ロブスターロール(マヨ和えをロールパンにはさんだもの。ニューイングランド名物にうまいものなし)が激マズと思う人の隣は懐かしさに涙ぐんでるかもしれない。七面鳥の腹に鶏を詰めて揚げたのが大好きなのもいれば果物とノンファットヨーグルトで暮らす奴も。

アナポリス海軍兵学校のバッファローチキンウイング

総意は大変難しいが、とりあえずランチドレッシングにホットソース(タバスコ)混ぜてかければ何でも食えるようになるという点で意見の一致を見ているようだ。日本人のマヨ醤油であろうか。恐らく似た味のバッファローチキンにブルーチーズディップが今のところ廃棄量最小らしい。あとは失敗する方が難しいピザ、バーガーあたりがそれなりに捌けるとのこと。まあアメリカの学生で学食に文句付けない奴はいないと民意は一致しているのでこれは士官学校に限ったことではない。

もしもアナポリス海軍兵学校で毎日どんなものを食べているのかご興味のある方は 士官候補生作成の「Next Meal」無料アプリをどうぞ。3食のメニューが3日先まで表示されます。Google PlayかApple App Storeからダウンロードして下さい。

俺にはこれしかないんだ!だからこれが最高の食事なんだ!

プリーブサマーの食事お食事前のプリーブお勉強中

ところで味や質にもっとも体調が左右されるのは食堂行くしかチョイスのないプリーブ。下級生は電気ポットすら所持を許されないので部屋食は難しい。冷蔵庫も自室には置けないし士官室(中隊娯楽室)の冷蔵庫は何入れてもすぐ他人の胃袋に消える。プリーブじゃ入室も出来ない。構内のレストランに行ける時間も服装も制限され、親の仕送りスニッカーズくらいしか手持ちの食品がないので毎日食堂(メスホール)に行くしかないが、そこでは食べる暇がない(最近プリーブを質問責めにせず食べるのに専念しろというお触れが出たけどどこまで守られているやら)

プリーブサマーの食事スタイル 座席の前10cmのみに座ってよしお食事中のプリーブ@夏期訓練
座席の前端10cm以内限定使用

…かマズくてお代わりしたくないかどっちかなのでスムースに体重管理できる。痩せる方に一方向だが。
士官学校には拒食症対策委員会もある。以前はなんでそんなものがあるのか、やせなきゃと焦るデブがそんなに多いのかと思ったが、味も関係あったりして…。しかし、軍人たるもの黙って据え膳を食うのがたしなみ。ごちゃごちゃ文句言わずやるべきことに専念するのが苦情文化の花咲くアメリカの徒花、軍関係者の潔い所なのである。でもメシがマズいと士気が上がらないのも事実。

お持ち帰り厳禁:税金は大事に使いましょう

陸軍士官学校の食堂での給仕風景おばちゃん、もっと盛ってー
いい加減におし!
アタシの持ち帰り分削る気かい

さらに従業員の問題もある。士官学校も厨房スタッフのマネージメントを民間企業に受託することが多い。組合の仕事にどっぷり浸かってたような民間人に必ずしも職業倫理が備わっているとは限らない。ウエストポイントでは冷凍ミートボールの袋を持ち帰ろうとしたおばちゃんが逮捕された。禁固刑2年罰金2千ドル執行猶予2年。アナポリスではステーキ肉3500ドル分の箱を自分の車に積み込もうとしていた男が逮捕され、こちらは実刑2年3ヵ月を喰らった。なにしろキングホールにあったはずの4500ドル相当の47インチTVモニターがそいつの自宅で見つかったばかりか、スタンガンと複数の銃の不法所持まで発覚したので当たり前。しかもそいつには麻薬斡旋と銃の前科が。だからどうして売人雇うかなあ。ちゃんと調べてー。とにかくそのような内部消費まで予算に組み込まねばならないとすると大変だ。リネンのテーブルクロスがレアアイテムになる過程がわかってきたぞ。

イギリス軍の調理スタッフ求人広告英海軍求人広告 刃物持たせていい目つきに見えない

現在の求人広告を見るとしっかり過去を調査され薬物検査もされると書いてあった。シェフになるには米国籍と健康診断も必要。お願いしますよー。いや待て、てことはイタリアや台湾や日本の料理人雇えないってこと?レシピ指導だけでもいいからイギリス人以外の外国人にさせろ!不評な献立は大概なんちゃってエスニックフードじゃねーか。過去短期間存在したヤキソバと言う名の何かはアメリカ人ですらコレジャナイ感に悩まされたという。そーゆーのが郷土料理かと思われる外国人留学生のやるせなさ考えてみ?卓袱台*が何台ひっくり返ると思ってるんだ。あ、でもおいしすぎるとみんな食堂に来ちゃって予算が…。

* 鋼と海の管理人様曰く、戦闘糧食の中には思わずエア卓袱台ひっくり返しそうになるシロモノがあるそうです。詳しくは戦闘糧食試食レポートをどうぞ。体を張った味の解説は素晴らしくも的確。
そうか、将来の職場環境を見据えて士官候補生をMRE(Meals Refused by Everyone/Enemy)に慣らそうと軍も士官学校の食費の予算を制限しているのですね。なんと遠大な計画でございましょうか。。

御厚意に甘えたい・・・無理?

海軍士官学校の行進卒業生からわざわざ苦情が来た寄付元明細書の表紙
こんな足の揃わない行進写真で金をせびろうとは何事だ
まあ練兵場に向かう途中なんでそれなりかと 編集者は手前のお花に気を取られ足並みには気が回らなかったんだろう。送り先は全員軍人だっちゅうに

しっかし、そんな予算内で頑張らなくても寄付金で賄えばいいんじゃないの?と思ったが、アナポリス海軍士官学校の寄付基金はハーバードの基金3兆円には遠く及ばぬ89億円だった。無理。何しろ卒業生は主に公務員なんで、死後に全財産残した所でたいしたことはない。でもおかしいな、毎年25億は寄付貰ってるはず。うるさいほど寄付の催促DMくる(一度も開けたことない)のを今回初めて捨てずに中を見たらそう書いてあった。利息だけでいけるようにある程度までは使わずに貯めろよ!

もちろんアメリカでもハーバードは別格で、基金の管財人はウォール街からヘッドハンティングされ、教授450人のサラリー合わせたよりも多い年棒もらってる別次元。去年雇ったばかりの人材を「もっと堅実で安全な」運用する別人に1年も経たずにすげ替えるくらいお茶の子。儲からなくていいのである。もう余裕綽々。

でも士官学校もどうせいろんな名前つけて分散管理で清貧を装って見せてるんだとは思う。淡い期待でしかないけど。
ウエストポイントなんぞ基金ゼロだから皆さんの寄付が頼りです、皆様のご想像に反し国が全部払ってくれているわけではないのです、なんて訴えてるくらい。そこは本当だけど。毎年30億くらいお布施があるそうだ。でも寄付する側の昔の卒業生は食事の質が落ちたなんて想像もしないから、使い先指定する場合いつも学業とかスポーツ関係。そりゃそうだよなー。

陸軍士官学校のある日のランチメニューその3

昔の人達に「今の士官学校はテーブルクロスが」とか「ロブスター本物だった?」なんて聞いたら可哀相なものを見る目つきになってたもんな。誰一人信用してくれないんだよ現状を。今の候補生に昔の話をしても信用してもらえないだろうが。お伽話にしか聞こえないもんね。そのうえ卒業生が利用するとすれば校内のレストランやバー、ケータリングサービスとなる。予算関係ないから普通に値段相応の料理だせるんで、自分たちが昔食べてたのと大差ない。これじゃ一生気がつかないよな。たとえ自分の子供が士官学校に入って食事に文句付けても一蹴されそう。

士官学校の食の未来

船のスタッフに豚の解体法を教える調理インストラクター

厨房設備は近代化された。プロによる味つけ、盛りつけ、サービスの指導。それを時間と予算の制限内でやる。将来他人に命令する立場の人間を育てるのだ。カロリーコントロールのみでなく正しい食習慣を身につけさせ、自己管理が出来るようにさせた方がよいに決まっている。血糖値や血圧が不安定な上官@戦地なんて危なすぎる。畢竟,人間の気分や体調のほとんどは体内の化学的な均衡によって決まる。大抵は食べ物やその食べ方で左右できる。正しい食習慣は肥満や成人病による医療費の削減にもつながる。

空軍士官学校の厨房でフライドチキン製作中

だが今時の若いもんは口が肥えているというかジャンクフードに慣れているというか好みがうるさい。中には将来軍人になるという気構えが全然なくて、士官学校も単なる進学先の一つだと思っている人間も居るだろう。そういった時代の変化を認め、若者の食欲を満たし、スナック菓子やカフェテリアや出前のピザと競わなければならない。また、たとえ人気のメニューでもいつも同じでは飽きる。ローテーションから消える料理もある。

陸軍士官学校のある日のランチメニューお代わりなんて時間の無駄 盛って丸呑みして退出

さらにいくら栄養管理をしたくとも、チョコミルク毎朝3パックにバター5個とシロップ好きなだけかけて溺死寸前のパンケーキ5枚重ね大陸棚がバターのせトマトチーズスパニッシュオムレツとソーセージ山脈の隣に位置する朝食を構築する奴にどう対応するというのか。当局の予定カロリーを数倍上回るだろうがまさかそこまで管理は出来ない。え、バターお一人様一個限り?プリーブが夏期訓練中に餓死してもいいというならそれも可能だろうが・・・。

だがきっと道はある。プロも驚く作戦遂行ノウハウの蓄積に加え、味と健康面をも考慮した給食メニューが確立されればもう怖いものはない。士官学校はスーパー若人製造工場になれる。いや昔もそうだったような気がするんだけど一体何がどこでどうなったやら。。。

海軍兵学校の食堂でケーキカットをする校長大きい事はいいことだ。。。遠巻きに眺めるだけなら

現在のアメリカで肥満はエピデミック。銀行から工具屋の店先にまで無料サービスの大判クッキーやカプチーノという名の甘ったるいコーヒー飲料が置かれている。安くてカロリーの高い食品が行く先々で待っている。生クリーム100%のパイを客が断れば傷つく婆さんが大勢生き残っている。このままでは国民総短命化。だが栄養学はまだ遅れている分野。医者もほとんど勉強しない。さらに相手が人間の場合、研究に参加してもらっても個人の体質差はもとより生活環境と食物摂取の内容を完全に把握するのは難しく、結果には曖昧さがつきまとう。

陸軍士官学校のある日の夕食

だから心身ともに健康な若者を送り出すのが士官学校の使命のひとつであるなら、率先して食の研究もして欲しい。なにしろ士官学校と刑務所くらいでしょ、同意も取らずに数年ぶっ続けで夢の集団 人体実験 健康管理できるのなんて。お国の為に身を捧げるんだったよね?


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