伝統のアメフト対決: ARMY-NAVY-GAME

NAVY Midshipmen's player

秋。それはフットボールシーズンの始まり。そして冬。今やシーズンもたけなわ。大学チームの勝率やどのプロチームがプレーオフに出るかが一般人の興味の的となる。だが一部の業界とその周辺ではたった一つの試合が注目の全てを占める。アーミー・ネイビーゲーム。陸軍士官学校と海軍兵学校のアメフト試合はそれだけでひとつのシーズンとも言える。12月初旬、たった一度の週末に全てが始まり、そして終わる。

歴史が舞台:陸軍士官学校vs.海軍兵学校

海軍兵学校フットボールチームのロゴロゴだけは怖そうなNavy Midshipmen

その対決の歴史は19世紀にまで遡る。昔々、1893年に初めて皮のヘルメットを被ったのは兵学校の選手。1926年、シカゴのソルジャーフィールド。海軍兵学校がシーズン無敗、陸軍士官学校がノートルダムに一敗で迎えたナショナルチャンピオンシップ決勝。10万人の観客の見守る中、試合は21−21の同点に終わるも、海軍兵学校が全米一の称号を獲得。1944、45年にも1位2位で決戦となり名試合が続く。
「世紀の対決」と言われた45年度には7勝0敗1引き分け(対ノートルダム)の海軍兵学校を陸軍士官学校が32−31で下し勝利を飾る。

陸軍士官学校フットボールチームのロゴArmy Black Knights

全米最高の大学選手に贈られるハイズマン・トロフィー獲得数は陸軍士官学校3人海軍兵学校2名。’65のロジャー・スターバックはアメフトの殿堂入りは無論の事、スーパーボウルに何度も出場しMVPも獲得しているダラス・カウボーイズのQB。彼が75年の試合の最後時間ぎりぎりに投げたパスはHail Mary (神頼み)パスと名付けられて今でも普通に会話で使われているくらいである。ちなみにハイズマン・トロフィー大学別獲得数の最高記録はノートルダムの7人(とオハイオの6人で7個)。え、ノートルダムの方がすごくないかって?それにゃ裏があるんだよ。あとで詳しく暴いてやるからな。

最近の対決でいうとアナポリス海軍兵学校がウエストポイント陸軍士官学校に十連勝中。過去の対戦成績は56−49−7だ。陸軍士官学校の黒騎士団は現在完全に名前負け状態。対する海軍兵学校のチーム名は素直に海軍士官候補生ズ。もーちょっとひねってもよかったような気がしないでもない。

フィラデルフィア美術館前でロッキーごっこをする海軍士官と候補生ロッキー階段で集合写真:脳内BGMよろ

フィラデルフィア美術館ロッキー階段から遠くに移されてしまったロッキー像ロッキー像はロッキー階段に置け!

ウエストポイント陸軍士官学校はニューヨーク州、アナポリス海軍兵学校はメリーランド州にある。そこで真ん中らへん取ってフィラデルフィアのスタジアムで陸海対決試合をすることが多い。113回目の対戦である今年もです。フィリといえばロッキー。美術館正面の大階段でロッキーごっこ、します。公式な試合前のイベントです(笑)。
前はロッキーの銅像がこの"ロッキー階段”にあったのだが、美術館にふさわしくないという意味不明な理由で今は別の場所に移動。何考えてんだか。これほど社会に浸透した現代美術の真髄である映画の、誰でも知ってるフィラデルフィア名物のロッキー・バルボアの銅像を、象徴的なトレーニングシーンの現場に置くことのどこが「芸術」でないのか理解できない。レベル低いなフィリ美術界。とにかく、朝から頑張りますよ、士官候補生も卒業生も。対抗戦だもん。

観戦するならスタジアムで!

アーミーネイビーゲームを観戦するオバマ大統領とバイデン副大統領オバマ&バイデン@Army Navy Game

ARMYとNAVYは永遠のライバル同士、その両軍の士官養成校の対戦であるから全国順位が一位だろうと最下位だろうと毎年異常に盛り上がる。民間人の常識からいうと別次元のお祭り。何しろ少なくとも大統領が来る。将来お国のために心身を捧げる若人達の対戦に最高司令官が出席するのは当たり前である。その他の政府高官ならびに陸海軍のお偉いさん達も嬉々として歓声を背に入場。政治家や官僚がこんなに観客の皆さんに暖かく迎えてもらえる場所はそうそうない。3時間前からは両校の入場行進が始まる。

ブルーエンジェルス2機ブルーエンジェルスも応援に駆けつけます

いつものことながら陸軍のアパッチヘリ編隊とブルーエンジェルスのF−18でのフライオーバーがある。両校のパラシュートチームがキックオフ30分前にスタジアムに降下する。紅白並みに南極や宇宙飛行士から激励のライブメッセージが入る。国歌斉唱の後は大砲が鳴りスタンドの全員が国旗の紅白縞ウェーブ。試合の後にはハイズマントロフィー受賞者の発表。そりゃ永遠のライバルは他の大学同士でもあるんだが、そしてそういう試合の前後にはイベント盛りだくさんで否が応でも期待を盛り上げる演出がされるものだが、ここに決定的に違うことがある。

アーミーネイビーゲームの選手と観客敬意と誠意に満ちたスタジアム空間

それは両校(観客の多くも)が整列して微動だにしない行儀の良さを拝めること。普通の大学生なんか国歌斉唱でも選手すら歌えないしガム噛んでるしそっぽ向いてるし携帯で話してるしうろうろ歩き回ってるしゴミは投げるしで、見るも無惨なカオスが展開する。しかしアーミー・ネイビーゲームは違う。8000人を越す若者が糊のきいた制服制帽に手袋着用で一糸乱れず整列し、あるいは行進し応援し、相手の校歌に敬意を表し、それはそれは清廉潔白品行方正なのである。今時のアメリカでこんな真似が出来る団体が他にあろうか。清々しくて涙が出る。日体大の「集団行動」にはかなわないがアレは期間限定・振り付け済みパフォーマンス。士官候補生は毎日4年間このレベルで日常的に生活するんだからこれ以上正確にやると死亡すると思う。

最下級生の運命は全て此の一戦に係っている!

整列したウエストポイントの士官候補生整列したウエストポイントのカデット

どういうことかというと。例えば大体からしてまともな人権のない最下級生であるプリーブは校庭(兵学校ではヤード、陸軍士官学校ではポストと呼ばれる)のベンチに座る権利すらない。もはやスズメ・ハト以下の身分。歩く時はまっすぐ直線上、角は直角曲がり、廊下や校庭を斜めに横切るなどもってのほか、正面以外に視線を向けることすら許されず、食事の時も背中は一文字、視線は正面、肘は口の高さまであげて直角食い、一口ごとに手は膝の上。毎日の暮らしが「日体大集団行動」もしくはバーチャル猫背矯正ギプス着用状態である。

打倒陸軍のプラカードを背負った海軍兵学校の士官候補生打倒!陸軍(士官学校)

そしてアーミーネイビーゲームの季節になると、誰が見ていようがいまいが角を曲がるたびに「GO NAVY!」次の角で「BEAT ARMY!」と言い続けねばならない。つまり、トイレに行く場合廊下を直進中に横にあるトイレのドアに正対するために曲がり、短い距離を直進の後小便器に向かうために曲がり、回れ右ののち手を洗うために流しの方面に向けて曲がり、洗面台に対して曲がり・・・あとはもうわかるな?これを寮のプリーブ全員がやるとうるさくて仕方がない。

試合当日弁当を配る新入生お昼のランチボックスを配るのもプリーブの仕事

そして食事時には焼きリンゴ完食未遂(関連記事:美食の報酬を参照)であるとかケチャップorタバスコソース一気飲みなどが敢行される。これはもしかすると健康によくないと今では禁止されているかもしれない。その際は某A大指導の元、醤油&チューブわさび一気口内調味に挑戦していただきたい。このように一般人の感知するところの関連行事の始まる遥か以前より意気を高めていくのである。また勝敗に賭けはつきもの。プリーブは有無を言わさず自校の勝利に賭けさせられる。運良く対抗試合に勝った年は恩赦としてプリーブに人権の一部が返還される。半日くらい。横に目玉向けてもいいとか。別に罰ではなくソレが常態なので恩赦というより特典というべきか。

打倒海軍のカードを持ったウエストポイントの士官候補生試合前にはまだ希望が

負けた方のプリーブ、しかも10年連続、がどんな悲惨な状況に置かれるかはこちらの感知するところではない。が、かつて士官候補生であった人間であれば同情を禁じ得ないだろう。もっとも10年負け続けた後に勝てば感動もひとしおだろうからものすごい特典がないとも限らない。クリスマス休暇まで恩赦が続くとか。やはり同情するには値しない。

得点分の腕立て伏せをするカメラ目線のプリーブ総得点分の腕立て伏せをするカメラ目線のプリーブ

プリーブの受難はそれだけで終わらない。どういうわけか、自校が得点するとその点数分プリーブがエンドゾーンに走っていき腕立て伏せをしなければならないことになっている。得点が増えればそのぶん通しでやらされる。意気軒昂なところを示すためとされる。サッカーならいいがアメリカンフットボールは1ゴールで7点入ったりする。56対13でまだ勝ちそうだと微妙に悲しい。チアリーダーまで腕立てやらされるのだからプリーブは辛い。

腕立て伏せを披露するマスコットの着ぐるみマスコットのビルも腕立ての妙技を披露

この風習は80年代初頭に一気に広まった。一度広まるとなくならないのが新入生イジメ。もちろん完璧な腕立て姿勢でなくてはならない。肘が肩や頭より上、最低でも平行。膝や腹が曲がっているのは腕立て伏せモドキ。制服に土がつくようでは士官候補生ではない。けれど家族と一緒に観戦中の生徒はこれを免除される。だからぜひともお父さんにシーズンチケットを2枚買ってもらって一般席に同伴しよう。親孝行にもなって一石二鳥ではないか。たった180ドル/人でつかの間の幸福が買えるのだ。駐車場代が100ドル加算されるが。もちろんそれは普段のホームゲームの話。アーミーネイビーゲームは別の生き物である。

試合のチケットを手に入れろ!手段は選ぶな

ショッピングモールでチアリーディング天井の高いモールなら空中技も♪

熱烈なサポーターと卒業生と在校生の家族と彼女が全員狙っているアーミー・ネイビーゲームのチケットは普通の努力では手に入らない。大統領に当選するかそのSPになれば別だが費用対効果を考えるとダフ屋から買った方が早い。
最近の新設商業スタジアムはどのスポーツにも応用できてコンサートなども出来るような形になっているため、TVの方がずっとよく見えるようなところが増えているが、現場に居合わせないと楽しめない対決というのもまだ存在する。プロフットボールなんかCM中にチア終わっちゃって映らないし。まあ、士官学校のチアにあまり見るところはない。そのかわり若い男なら腐るほどいる。
だが美人の観客には即座にズームインする局カメラマンも、イケメン士官候補生にズームする本能はまったくない。だからあなたが女性なら現地に行くしかないのである。一般人とは隔離されているので双眼鏡とハンディカムを忘れずに。

ノルウェーの海軍士官候補生背の高い北欧の交換士官候補生
お姉さん、チケット買わない?

ではどうやって席を確保するのか。まず士官学校のフットボールシーズンチケットを既に持っていて更新済みの人なら1枚限定で2月に真っ先に申し込める。次がプラチナ会員。毎年1000ドル以上を士官学校運動競技協会に寄付すればなれる。もちろん名称は海軍兵学校ならアドミラル(長いので略)メンバーとかだけどね。これがその年の3月初日朝9時に申し込み開始。一応6枚までと数制限はあるもののクラブレベル(中二階のガラス張りボックス席の”おとなり”)の席は融通可能らしい。で、次のレベルのメンバーは3月中旬、下旬と降りて来て4月は教職員と卒業生、まだ残ってれば一般人が5月。それからプリーブのパパとママが6月1日。在校生は全員無理矢理出席させられるのでチケット関係なし。普通の試合だと売れ残りがあれば8月頃バラで売り出されるので1試合の指定席35ドル駐車券20ドル、計55ドルで手に入るから高くはない。でも立ち見席まで売ってるところ見るとあんまり期待しない方がいい。

海軍兵学校の胴上げいい席が手に入るとこんな気分

当然ながらアーミー・ネイビーゲームに売れ残りなどないのでどっかコネを伝って手に入れるしかあるまい。ダフ屋の値段見てみたけど2階席とエンドゾーンは安いのは100ドルちょっとで買えるが隣同士は厳しいかも。一階のちゃんと試合の見える(たぶん)席だと300から500出せばなんとか。かなり間近なので値崩れしてるのかもしれない。飛行機の切符と一緒でタイミングは難しい。直前にダンピングの可能性もある。それに贔屓チームのサイドじゃなかったらただでもいらないだろうしな。

前夜祭で燃やすためにだけこしらえた敵の船前夜祭で燃やすためにだけ建造する船モドキ

出費は観戦チケットだけでは済まない。遠くから来るなら航空運賃とレンタカー費用。それに試合前前々日あたりからコンサート、花火、トリビアコンテストにスポーツイベント、ダンスパーティーから街中巻き込んだ宝探し(賞品はチケット)に至るまで家族みんなが楽しめるイベントが目白押しである。テイルゲートパーティー(試合前にファンが巨大駐車場なんかでBBQしてたりするアレ)だのコーチとのお食事会に出るとさらに金がかかる。

スタジアム内の飲食料金はもちろんのこと付近のホテルもぼったくり価格。フィリの治安は悲惨なので変な場所に泊まるわけにはいかない。それは駐車場も同じこと。フィリの顔役は駐車場王だったりもするくらいだ。出来ればあんなとこにいくのはお薦めできない。空気も道もイーグルスファンの態度も悪いしね。鎌倉彫と呼ばれるK市の道路よりひどいのだ。例えるなら洗濯板。まあアメリカで初めて出来たハイウェイだったりするんで技術的に古いのはわかるが掘り返しても掘り返しても直らないのはなぜなんだろう。。

Lucky13も応援Lucky13応援激励歓送会
ボールは毎年スタジアムまで第13中隊が駅伝でお届け

士官候補生達はというと、陸軍海軍対抗試合の前日にバスでホテル入りし、この日ばかりは家族とごはん食べたりパーティーに出たり多少の融通が効く。で、翌日またバスでスタジアム入りし、試合が終わるとまた家族やガールフレンドとごはんしたりダンスパーティーに出席する。パーティーは山盛りあるので好きなのを選べば良い。上級生が遊んでいて監視が厳しくないのでプリーブも命の洗濯が出来る。さすがに家族の前でパワハラはない。そして日曜の夕食には士官学校に戻って普段の生活が始まる。もちろん勝ち負けによってムードは激しく変化し、プリーブのストレスの度合いも違う。

伝統のローズボウル:カリフォルニア・ドリームを掴め!

アナポリス米国海軍兵学校の士官候補生がバスで移動する様子

長い歴史のうちにはアウェーでなく自分とこ/敵陣まっただ中で試合したこともあるわけだが、1926年のシカゴ以外でミシシッピ川の西(日本で言うと箱根越えでしょうか)で試合が行われたのは1983年のローズボウルのみ。この時は勧進元のカリフォルニア州パサデナ市が全選手とサポーター約1万人の旅費を負担したとウィキにある。

ウエストポイント陸軍士官学校の行進かかりを気にしない若旦那とお嬢

がなにぶんウィキ情報なのでその年のアナポリスのソーシャルディレクターだった奴に本当かどうか聞いたら「・・・交通費もホテル代も食費も士官候補生はいつも通り一文も払ってないけど?俺がやったのダンスとかパーティとか遊びの手配だもん、誰が金出したかなんて覚えてないよ」とのこと。役立たずめ。あいつら税金で何もかも払ってもらうのが当然だと思ってるから、金の出所なんか気にしたこともないんだろう。ま、親は税金払い戻し受けてるようなもんだから嬉しいに違いないが。
ちなみに当時海軍兵学校のイベント手配を実質的に差配していたのはベイシンガー夫人。アナポリス卒業生と結婚していたが未亡人となり、その職を与えられたわけで、士官候補生の社交行事ディレクターはこの縁の下の力持ちの夫人とそのスタッフに実務的に支えられて色々な経験を積ませてもらってたわけです。だから覚えてないと。この役立たずが。

ウエストポイント陸軍士官学校の行進副会頭の後輩達:俯瞰ショットでスタジアムの一部が
灰色に塗りつぶされたあたりに生息

なのでパサデナの方はスポーツイラストレイテッド(SI)の記事を参照。それによればパサデナ市の商工会議所副会頭が53年度のウエストポイント卒業生で、この神聖化された伝統の対抗試合を西海岸に招致するため交通費食費宿泊費を全額出して国庫にも学校にも一銭も負担をかけさせなかったとのこと。そもそもの招致の理由は、この伝統対決82年度@フィラデルフィア観客数が過去38年間の最低、7万人を切るという恥辱に耐えられず、それなら新機軸として西海岸開催を認めろ、人は呼ぶ!とペンタゴンにねじ込んだのがきっかけらしい。ちなみに試合は開始直後89ヤード突っ走ってのタッチダウンを手始めにぶっちぎりでアナポリスの勝ち。42-13。副会頭を泣かせてしまったな・・・。

View of the Army Navy Gameスタジアムで整列中のアナポリスの士官候補生達

観客は8万を超えたので入場料で元は取れたかな? 新しいスタジアムは汎用だから今ならもっと人が入るんだろうが、それでなくともアメリカで最も歴史があり格の高いローズボウル、大学チャンピオンを決める正月元日のお祭りであるからTV中継はもとよりイベント盛りだくさん観光客だらけになる。だがアーミーネイビーゲームは感謝祭のすぐあと(どっちの士官学校もお役所であるから年間スケジュールはがっちり決まっていて観光やTV局の都合におもねって変更などしない)だったわけで。全国に散った家族が実家に帰って食事する祭日の前後にホテルが空いてるわけがない。

アナポリス海軍兵学校の応援信頼厚い息子達ならレグザスの鍵を渡しても大丈夫
ついでに娘も貰ってくれないかい?

ところがそれを聞きつけた一般市民が我も我もとホームステイ先に立候補し一件落着。LA31都市の4000家庭が士官候補生を受け入れた。当の士官候補生達が他人の家にお邪魔する羽目になって嬉しかったかどうかはともかく、「息子が増えたみたい♪」と喜んでるのは娘さんのいるご家庭でしょうか。「もう車の鍵渡して、好きに楽しんでくれって言っといたよ」とのたまうのはパサデナ市警察の刑事さん。どこかで聞いたような話ですな。まさかこんなとこで裏が取れるとは。ちゅーかみんなそればっかしじゃん。そんなにお父さんから車の鍵渡されるのが信頼の印なのかアメリカ人。

West Poni Cadet夢のお相手にカデットはいかが?

そしてこれもアメリカの伝統、試合の後のダンスパーティーがパサデナ展示会議場で行われ、カリフォルニアガールズ3700人が招待されたらしいですがなにしろ「愛と青春の旅立ち」公開後ですからもう大変。「だってカデットは超優秀な男の中の男、夢の相手ですもの♡殺到しちゃうわよ。だから招待に漏れた女の子が1000人以上いたのよ」と女性選考側の担当者エドナ・クルーガーさんが自信もって言ってるようですが、もっと厳選しな。

イケメン士官候補生その1微笑むと女の子が失神します

各士官学校の生徒4000人ですから男の合計8000人。男女の釣り合いが取れないように思えますが、もちろん士官候補生にはガールフレンドがしっかりいて、クリスマス前に他の女に取られては困るのでちゃんとカリフォルニアまで来ます。のでダンスの相手の数は問題ありません。その3700人はまーはっきり言うとオマケな訳です。刺身のつま。万が一の可能性に賭けた女の子達なんです。まさに映画と同じではないですか。前に書いたでしょ、女子大生が毎週青田買いに来るんですよ、バスを連ねて。全部は無理だから断らないとなりません。詳しくは関連記事の「恋愛事情」読んでね。
読んでといえばSIの記事を例の役立たずに読ませたところ、「エドナ?んな関係者いたっけ。それよりなんで俺の名前載ってないの?」だと。女の名前だけは忘れないので有名な奴だったんだが、監修の役に立たないばかりか老化も進んでいるようである。

イケメン士官候補生その2NAPSから来たグレッグも困惑

どうでもいいけど、エドナ(仮名)がカデットカデットと士官候補生を呼びやがってるのが気に食わない。だからあ、カデットじゃなくて、海軍兵学校の生徒はミッドシップマンだっつーの。愛と青春の旅立ちは海軍でしょーが。あれは士官候補生じゃないけど、そこまでわかってくれとは言わないけど、何でもカデットってひとまとめにするのはやめてくれ。
そうやってアナウンサーやインタビュアーが間違えるたびにまわりでTV見てる連中が怒り出して、うるさくて中継に集中できません。ただでさえ「最下級生はフレッシュマンじゃなくてプリーブ!そんくらい覚えろ何年アーミーネイビーの試合中継してんだ馬鹿」などという罵詈雑言に耐えなくてはならないんですから火に油注ぐのやめて。SIが「神聖化された」試合って書くほど有名な対決だぞ?もっと勉強してくれお願いします。

アナポリス米国海軍兵学校の士官候補生はカデットじゃありません

あとね、アーミネイビーとはいっても試合するのは士官学校の学生なのね、だから水兵さんと歩兵さん達じゃないんだ。でね、学生だけど一応公務員だから生徒じゃなくて士官候補生っていうのね。んで、みんな勉強もするのね、障害物競走だけじゃなくて。わかるかな?

マスコット受難の歴史

海軍兵学校のマスコット・ヤギのビル山羊のビル:Bill The Goat

はるばる6千マイルも旅したこのアウェー戦、面倒なのと健康管理のため両校マスコットのヤギとラバも近所からの借り物でごまかした。ヤギのビルの影武者はテキサスから、ラバはどこぞの国立公園からレンタル。レンタラバはともかく、山羊のビルには立派に影武者が必要な切実な理由が存在する。アナポリスのマスコット、代々の「ビル・ザ・ゴート」はやたらと誘拐されているのだ。アナポリスには専用の酪農場があり、いつもはそこでのんびり暮らしているビルであるが、このアーミーネイビーゲームの前後にウエストポイントの連中が農場に侵入、ヤギを拉致して大問題になるのだ。どのくらい問題かというと、タイム誌やライフ誌、新聞紙上で大騒ぎになる規模。たかがヤギとあなどるなかれ。ビル君は海軍兵学校の象徴なのである。なんでヤギかって?訊くな。最初はゴリラだったんだ。

海軍兵学校に交換学生として来たカデット内部手引きをするスパイ

たとえば、1953年の誘拐は交換留学生のカデットが内部手引きをしてビルを拉致、夜間の逃走に車を使うもヤギの角でコンバーチブルの布屋根がぼろぼろに引き裂かれているのをガソリンスタンドで目撃され発覚。ビルが無事戻るまで授業に出ないとミッドシップメン(以下ミッズと略)がストライキを決行。ウエストポイント卒業生であるところのアイゼンハワー大統領自ら返還要請を出したにも関わらずバカデット共が断固拒否を主張したため、その騒ぎが数紙の新聞紙上を賑わす羽目に。その年NAVYが20−7で勝つ。

飛行中のB-26の乗員ヤギくらい余裕の積載量を誇るB–26

1960年には尻馬に乗った空軍士官学校の連中がヤギをB−26にて誘拐。諜報機関がコロラドスプリングスまで追いかけタイムやライフの記事にまでなる騒ぎに。1964年にアナポリスとメリーランド大学の試合で問題が起き対戦が40年間禁止される事態となった時も直後にメリーランド学生にビルが拉致された。95年には朝駆けに遭ったビルXXVI、XXVII&XXVIII世が誘拐され、ペンタゴンにまで苦情が届き公式に誘拐禁止令が出ることに。てゆーか常識的に見てそれ犯罪だろ最初から。
で、このお触れをまったく無視して2007年にはXXXII、XXXIII、XXXIV世が誘拐され、プランから実行までの全貌を記録した動画がつべに曝されるという事態に。そしてあろうことか今年、感謝祭の日に行方不明となったビルがペンタゴン前のアーミーネイビー通りの中央分離帯に繋がれているのを発見。もう24/7で警備兵立たしとけよ酪農場に。

陸軍士官学校のマスコットのラバ犯行を否認中のカデットとラバ

現在ウェストポイント陸軍士官学校は関与を否認中。「公式には何も情報は得ていない。我々は誘拐禁止令に賛同しており云々」とのらりくらり。ただ現在ビル様のおわしますサンライズ農場は陸軍フォート・ミード基地にほぼ隣接しており、職員ならびに近隣の住民が以前にも誘拐に加担しているためそっちの線も捨てきれない。しかし何だな、農場主もどっちのビル(33世か34世か)が盗まれたのかわかんなかったって言うし、いい加減過ぎないか管理体制。16世と17世は農薬をヤギ小屋の近くに撒いて死なせてるし。。。

そういうわけで普通の遠征戦には本物ビルではなく着ぐるみが登場する。胸の71はその年にオリジナルデザインのコスチュームが出来たため。ちなみにOLD BILLと呼ばれ引退して悠々自適のビル32世は2011年に御逝去遊ばされた。2001年から彼の在位中はNAVY勝ちまくり。Fear The Goat!

陸軍士官学校のマスコットのラバのお尻お尻に剃りを入れられたラバさん

ラバはなんだろね、デカ過ぎて誘拐できない*し。まあウマ並みの大きさだし馬糞掃除しなくちゃなんないしおしっこなんてホースで撒いてるのかって感じだしな。到底押し入れに隠しておけるマスコットじゃない。お尻にでっかく「A」と描いてあるから牧場に隠しても見分けるの簡単過ぎ。ウエストポイントの堅実な校風と相まってかそれほど派手なラバ事件**はない。名前はハンニバル二世とかブラックジャックとかスパルタカスとか派手だけど。

*** 実は一度誘拐されています。大変派手な事件です。詳細は伝統対決第2弾:ケネディの遺産でどうぞ。

まあ自分とこが地味な分、交換留学生がアナポリスに来て口惜しく思ったのかもな、俺絶対入る学校間違えた、的に。で、腹いせと気晴らしに誘拐でもしてみるかと。ヤギの獣権侵害は士官学校の厳しい倫理規定に背かないのであろうか。どう見ても窃盗ではなかろうか。まあ、ヤギ的には住むところが変わっただけで大して侵害はされてないような気もするが。 2012年12月追記:道路脇に捨て置くなんて危な過ぎるだろjk。負けがこむと人間ここまで堕ちるのか。。

陸軍士官学校から帰還する交換学生やっとお家に帰れるよママン

で、この両校の間で交換されてる士官候補生のことをプリズナーと呼ぶ。こいつらをアーミーネイビーゲームの時に「釈放」する儀式がある。元の鞘に戻る時も、アナポリスのミッズは喜びを満面に走って帰り、ウエストポイントのカデット達は整列行進しながら静々と帰って行く。…なぁ、時間かかるから走れば?帰りたくない気持ちはわかるけど。

Go Navy Beat Army

打倒!ノートルダム大学

ウエストポイント陸軍士官学校のフットボール選手

大昔は栄光に輝いていた海陸の士官学校がいまや大学フットボールの主役でないのはなぜか。
昔は大学行けるのは限られた人達だったが今じゃ誰でも入れる。スポーツが上手ならバカでも入れるようになった。スポーツさえしてれば勉強などしなくていい「大学生」の登場である。
しかし士官学校では運動選手といえども成績が悪ければ退学。学期末試験に通らなければ練習どころではなくなる。フリーライドな一般の大学では授業なんか出なくても教授が下駄履かせてくれる。莫大な推薦入学ボーナスと奨学金をもらって試合に勝って自校の宣伝になればそれでいいのである。ひどい時には25歳でも「大学生」という枠で出場し、体格にモノをいわせて18歳たちを蹴散らす事すら許される。在学可能期間8年の間、好きな時期に出場できる。そんな事は士官学校では出来ない。

アナポリス海軍兵学校の応援お約束のDーフェンス!一応柵の絵だったり

もともと体格制限と年齢制限があるし、留年はさせてもらえないし単位ひとつでも落とすと再履修する時間がないから授業は出なければならないし、他のカリキュラムや行事も全部こなした残り時間で練習しているのだ。だからデカイのが有利だとか小さく軽いのが有利なスポーツではハンデがある。ほぼ全部のスポーツがそうだから困る。たまに脳みそも必要な中肉中背向きの競技があるとよいのだが。

NAVY Midshipmen's player今時こんな細身でフットボールとか自殺行為(涙)

たとえばアメリカンフットボールの司令塔であるクォーターバック。これには指揮官を目指す頭脳明晰な士官候補生が向いているが、いかんせん司令官の守りの盾となる連中が全員普通サイズなため、民間校の荒くれた巨大な筋肉の塊が突進してくれば到底かなうはずもない。
そういうわけでまともな試合になるのは相手が同じ士官学校だったりアイビーリーグやスタンフォードの時だけだったりする。体格勝負じゃなくて作戦で勝てるからね。なのでたまに勝ち進むとそりゃもう大喜びである。なのに。

NAVY Midshipmenフィールドゴールの行方を見守るミッズ

こないだアナポリスがノートルダムに勝ったんだけど、どっこもTV中継してなかった。ひど過ぎる。43連敗してた記録を止めたんだぜ?もっと評価されて良いと思う。それでも今年シーズン始めの対ノートルダム戦、なぜかダブリンまでわざわざ遠征しても席が売り切れるのが謎だ。アメリカ人しかその複雑なルールと毎年の変更事項がわからないアメフトのこと、地元民がチケットを買うなどあり得ない。ファンと狂信者の懐は深い。まあアメリカ東部のカソリックはアイルランド人が祖先だと思ってるから観光がてらだろうが。

激励に国防総省前を駆ける陸軍中将激励に国防総省前を駆ける陸軍中将

ところでノートルダム。カソリック大学なので生徒は大勢集まる。ビッグ10などの大学リーグにも属さず、おかげでシーズン初期のリーグ内での潰し合いに関わらなくて済む分勝ちが増える。相手は士官学校とかハーバードとかだからね。そういうわけで記録も伸び、信者が多いので「見識者」投票で決まる大学チーム順位は現実を反映せず毎年高留り。フットボール名門校のように言われているが実態は要領がいいだけである。何しろ9勝すれば自動的にボウルゲームにご招待などという条項があるのはノートルダムだけだ。しかも過去数十年たいした成績もあげず(せいぜい勝ち越し程度)、特にここ数年はかなり惨めだった。が、なぜか今年はいまだ無敗。まあ相手が士官学校とかハーバードだからね。

NAVY Astronaut卒業生が宇宙からも応援

ではなぜ他の大学も独立しないのかというと、例えば人口の多い州の州立大学はマンモス校。必修授業などは箱がデカ過ぎて教授の顔が見えないから巨大モニターやスクリーンに黒板が表示されたりする規模。州民は授業料が格安になるため生徒数は多く、当然フットボール選手も層が厚く強かったりする。アメリカではフットボールはTV放映権やら何やらで儲かるが、他の大抵のアマチュアスポーツは赤字である。その大量の生徒のほとんどがやるスポーツの費用をどこから捻出するか。フットボールチームが身売りしてどこぞのリーグに入り、見返りに収益は他の全てのチームの福利厚生に使われるのだ。それをしなくてよいのは金が唸っている宗教団体と国庫がバック*についている士官学校と寄付で大金持ちのアイビーリーグなど。

* 実際にはアメリカの士官学校のスポーツは自前の寄付基金やフットボール関連の収益で賄われています。なので国の予算がどうなろうと影響はないはずなのですが、政府機関の閉鎖となると国の管轄である士官学校のホームグラウンドでの試合は出来なくなります。士官候補生は公務員ですがアウェーでの試合は許可されましたし、さすがにアーミーネイビーゲームは中止にはならない旨が早めに発表されていましたが、それでもホームゲームで観客が落としていく収入その他がフイになったのは大打撃でした。

Commander in chief trophy仲間に入りたい空軍がでっち上げた最高指揮官賞
はっきり言って誰も気にしてないが一応貰っとく

ふつうのDV−I-Aなら勝てる相手ばかりなのに、リーグ(カンファレンス)内の似たような境遇の他校はみな強豪である。身内同士で殺し合い(例えば全国1位と3位で対決)をした後、上位1チームがなんとかボウル(杯)という名の金儲け祭り(最低10億貰える)に出場する。これは対戦相手リーグが決まっているので、たとえ無敗で全国一を狙えるポジションにいるとしても、27位と当たるかもしれないのだ。だから無敗同士の決戦や実力伯仲の対戦はめったに実現しない。ために最終順位はアンケートによって決まる。不公平である。あまり不公平なので来年からベスト4はトーナメント方式になるらしい。たとえ人気があろうとなかろうと、実力で勝負せねばならなくなる。ノートルダムの凋落が始まる。

Go Army! Beat Navy!

それにしてもウエストポイント、その弱いアナポリスに十連敗。入学から卒業まで一度も勝ったことのないカデットが何人いるんだまったく。可哀相である。判官びいきできっと今年も応援は多いだろうが、敵に情けをかけてはならない。どれほど練習の時間を割くのが難しいか士官学校の人間はみな知っている。だから手加減などしない。全力を尽くす。民間人にとっても今では珍しい本物のアマチュアフットボールが見られる良い機会だ。その試合もいよいよ明日キックオフ。どちらも悔いのない試合をしてくれたまえ。
彼らにとって一生の思い出に残るARMY NAVY GAMEとなりますように。

昔を思い微笑む陸軍将校

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