米国海軍艦艇 祝日メニュー

アメリカ海軍艦艇の士官室での感謝祭のメニュー 1967年

軍の士官は士官室で食事をします。給仕とお品書きが付いてきます。お品書きには調理師の名前なども載っています。クリスマスや感謝祭、建国記念日や艦長の誕生日、歓送迎会、来賓や家族を艦に呼んでのパーティなどの場合は表紙をカラーにしたりデザインに凝ったりしてかなり豪華っぽいパンフが配られます。といっても食事をするのはいつも同じ場所ですし、行って食事を詰め込み終わったらさっさと立ち去るタイプの人間が多いのでそんなものの存在に気がつくかどうかは別です。今はどうなんでしょう、あったとしてもデジタルになってそうですが。
ともあれなかなか面白いものもありますのでいくつか御紹介を。



アポロ10号の宇宙飛行士向けの食事メニュー USSプリンストン 1969年
朝も夜もなかなか豪華かつアメリカの定番な内容。まさか打ち上げ日はこんなの食べないよね?
アポロ10号搭乗員向け 艦上メニュー

上海での士官お別れ会 温冷前菜8種に続きフカヒレ鴨アワビ魚ハム鶏羊に蓮の実とエスニックな主菜8品。
本格中華@上海in 1937

感謝祭やクリスマスの豪華な表紙付きメニュー。最後のは晩餐を三幕ものの劇に見立てたパンフレット。キャストは食われてしまう運命を察してか全員ビビりながら登場する、と書いてある。どんなト書きだよ怖いよ(泣)
海軍歴史文化図書館に寄贈された個人コレクション


内容はごくノーマルな感謝祭/クリスマス兼用*メニューだけれどデザインが凝っているもの。
クリックでメニュー全貌が。


他にも見てみたい方は大元のオリジナルページでご覧下さい。
米国海軍歴史文化図書館 祝日メニューコレクション

*陸軍だとこんな感じ:よく考えたら自分で七面鳥捕まえるとこから出来るじゃんねー。地の利(違
多色刷りの凝ったものからそれはムゴい(涙)なお姉さんと一緒写真まで



祝日の献立

*地域やご家庭によって祝日の主菜が違ったり、個人の好みもあるのでよくありがちなのがハムと七面鳥を両方出す献立。クリスマスはハムとビーフが主流ですがたまに七面鳥ガチ派がいるのでこれならどちらも納得します。肉料理は多ければ多いほど喜ばれるので問題ありません。

またとりあえず何の日でも最初にシュリンプカクテルとオリーブの類が出るのは間違いないところ。 酒は一応士官以外には出ないことになっているし調理用のものも鍵を付けた収納場所に隠してあるが、料理酒の名目で船に載せられた酒が全て煮切られて出てくるとは限らないらしい。これはアメリカ海軍の艦艇では大罪なので、鍵の管理人が自分で飲んでるのでない限りは必死で犯人探しに目を光らせることとなる。しかし酒の入ってないエッグノッグなんて飲まされてもねえ。。。

感謝祭の献立

感謝祭はほぼどこでもターキーとパンプキンパイが出ます。付け合わせは肉にクランベリーソース、マッシュドポテトに臓物グレービーソース。スタッフィング。スイートポテトの焼きマシュマロがけ、付け合わせバター温野菜、スープ、サラダ、パン、アイスクリームにパイナップルパイやケーキ数種、アップルサイダー(ノンアルコールの甘酸っぱい飲み物)コーヒー紅茶に葉巻と煙草。(現在は禁煙です)
ちなみにここに掲載されているお品書きのいくつかには牡蛎ドレとか牡蛎スタッフィングと出ておりますが、現在はほとんど見られません。ワシントンポスト紙によれば大昔には一部の地域で牡蛎が豊富に取れたので増量材だった、ということらしいですが、いまどきの普通のアメリカ人でその存在を聞いたことがある人は限られます。この他にもライスの増量剤に真菰の実(ワイルドライス)が産地の中西部で使われるなど、地域によって細かい違いは出てきます。自分的に一番好きなのは栗スタッフィング。鶏の皮と肉の間に厚く敷き詰めて蒸し焼きにするという手間のかかった品。作者は日本の超セクシーな70代の金髪おばあさま。後ろから見たら服もスタイルも20代でよくナンパされてましたね。Wさん、ごちそうさまでした。変な意味じゃありませんよ!

クリスマスの献立

クリスマスは七面鳥、ハム、ローストビーフ、ヨークシャプディング(ポップオーバー。おいしいけど空気のほうが多いだろ、なパン)、パンライスポテトサラダスープ温野菜にチーズ各種、フルーツケーキともっとおいしいケーキ各種、ナッツいろいろ、エッグノッグ、コーヒー紅茶など飲み物各種。いわゆるクリスマスケーキというのは日本のものです。ちなみにイブはカップルのデートの日ではなく滑り込みショッピングの日*。アメリカのクリスマスは子供だけでなく知り合い全部にギフトを渡しまくるリキの入ったイベントなのです。でもユダヤ教徒の人はツリーすら飾りません。あんなに楽しいのにぃ。宗教に毒されない日本人でホント良かった。
余談ですが、ユダヤ教徒の皆さんはクリスマスに中華料理を食べるそうです。その日に開いている店が他になかったからだとか。今は都会なら開いているレストランもたぶんありますが田舎やバイブルベルトあたりでは厳しいかも。ていうかそれ全米規模なのかなあ。あの人達食べ物には小うるさいから何聞いても驚かないけど、自分で作らないんですね。。。

非常に定番なクリスマスの献立例 @USS Cavalla in 1982
さやいんげんとアーモンドの炒めものはだいたいおいしい。アスパラ版も人気。このジャーマンチョコケーキはどんなんだかわからないが、ドイツ系のお菓子は結構イケる。

今までフルーツケーキがうまいと思ったことがないが、老人の定番。しかし日本の歯科技工士(男)が果物の皮むきから始めて2週間かけて作るやたらと凝ったシロモノはフルーツケーキの域を超えていた。アレは売れる。というか日本のパンと焼き菓子類はコンビニ製品でも充分アメリカの国賓首脳晩餐会レベルを超えているはずだ。呼ばれたことないからわかんないけど。

クリスマス商戦最後の瞬間

* アメリカの小売り年間売り上げの3割から4割はクリスマス前の一ヵ月に集中する。人気商品はすぐ売り切れるし、日本の宅急便と違い配送に2週間以上かかるとかザラなので数ヶ月前から誰に何をあげるか計画し買い置きしておくのがアメリカの普通。イブにやることと言えばせいぜい押し入れに隠しておいたプレゼントのギフトラッピングくらい。だからそんなギリギリまで国民の義務を放っとくのは男と決まっている。しかもイブの夜に開いてるのはウォルマートくらい。普段でも彼女に贈るプレゼントを買うのはためらわれる店なのにもはや売れ残りしかありません。そんな八方ふさがりの彼らの福音は、24時間営業で有名なL.L. Bean本店。ちょいとおばさん向けですがそれなりに名前も売れてるし安売り店ではないことでも有名。
で、イブの夜に本店でうろうろしているとクリスマス5分前だというのに大量の男が必死で婦人用品売り場を徘徊する光景が拝める。家に帰ってきれいに包装する時間も必要なので、さっさとなんでもいいから買えばいいのだが、サイズがわからないのである。さすが最終組、どこまでも詰めが甘い。
携帯で本人に聞ける関係なんてのはまだいい方。ほとんどの哀れな男達は危険な賭けに出るに出られず回遊を止められない。一番可笑しかったのは婦人靴売り場で女性が一人室内用の上靴を試した直後、店内のあちこちから男がわらわらと十数人集まって来て全員がその婦人靴の棚の前に並んで真剣にうわばきチェックを始めたこと。写真を撮ろうとしたのだが笑ってる時間が長過ぎて機会を逸してしまった。え、そこにいたお前も同罪だろって?大丈夫、うちの場合は家族全員駆け込み組なので誰にも叱られません。

アメリカのよいところ

アメリカにもいいところはある。サラダバーの品数は豊富だし、サラダドレッシングの種類と味はそれこそ無限に広がる大宇宙。ドイツ移民系のところに行けば見たことも聞いたこともないような加工肉製品がずらっと並ぶ。まあそれ以外は日本のエスニック料理店やイタめし屋の方がずっと本格派なのだが。

ただひとつだけアメリカ人の名誉の為に言っておくと、彼らがケチャップをそのまま使うのはほぼハンバーガーとフライドポテトに限定される。自分の知る限りではほとんどのアメリカの料理にかかっている赤いものはケチャップではなく「トマトソース」である。たまにタバスコとか赤系のBBQソース、サルサその他だったりもするが、イタリア系の影響なのかなんなのか、とにかくトマト味と言えばトマトソース。肉にでもパスタにでもこれがぶっかけられ煮込まれてゆく。日本のスパゲッティソースみたいなものだが、味もバリエーションも驚くほど多い。スーパーに行けば一列50m全部の棚がいろんな種類のスパゲティソース。しかもほとんどがトマトベースで透明のビンに入っているのでウォッカソース買って来てなどというのはすぐ見つかる。

だから日本人はみんな間違えてるの!訂正して!とアメリカ人に言われた。こんな辺境のサイトで言ったくらいでどうなるものでもなかろうが一応言っとくね。日本も輸入すればいいのに。すぐ数百種のもっとおいしい日本製品になって世界はバラ色、いやトマト色になるはずだ。

異国の空の下

艦上でもプレゼント手を貸したくてしょうがない後ろの人達

今年2014年の感謝祭では海外駐留(イラク・アフガン・ヨルダン・クウェート方面)の皆さんに向け 七面鳥3.5トン、ビーフ1.85トン、ハム1.2トン、エビ1.45トン、アップル/チェリー/ピーカン/パンプキン/スイートポテトパイ1万個が送られた。もちろん他の地域の駐屯組にも。やっぱ兵站は大事だよね。みんな遠い異国の空の下で家族とは一緒にいられないんだもん、せめて母国の味で寂寥を紛らわせないと士気に関わるもんなあ。なかには西アフリカの野営病院勤めなんて人もいらっしゃるし。エボラもいつ終息するのやら見当もつかないなか、ひとときでも懐かしい味を楽しんでもらえたらと思う。

軍というと毛嫌いする人がいますが、現実に世界各地で治安がとんでもないところがたくさんあり、たとえ人道的な支援をしようにも危なくって民間人がひょいひょい行けたもんじゃない場所は多いのです。エボラの場合も激しい誤解により医師が襲われ殺されたりしています。人間の常識は世界共通ではありません。論理が通じないパニック状態のなか、秩序を取り戻すにはそれなりの武力背景が必要なケースも。また軍は機動力も高く突然の政変時にも迅速に対処できます。民間人が飛行場や道路閉鎖されたらもうどうしようもないでしょ。

軍や民間の警備会社などがいて初めて支援や救援が行える場所で自らを危険に曝しながら毎日働いている方々がおります。警護にあたる軍人はボランティアの医師と違いTVには映りませんが黙々と任務に励んでいます。なぜか宣伝はされませんが。自分から志願したじゃないかと言われそうですが、基本的には自分の国を守る為にご奉公したいというのが軍人の気持ちです。もちろん任期中にどこで何をしろと国に言われれば従うより他にありません。辞めるわけにはいかないのです。それも承知でほとんどの軍人は何かあった時の為に身を捧げる覚悟を決め、一生懸命他国で祝日も平日もなく頑張っています。どうか一日も早く皆が無事に戻り、家族やペットと抱き合い、友人知人と笑ってクリスマスを過ごせる時がきますように。