米陸海空軍基本給与: 士官候補生おこづかい事情
2015年度のアメリカ陸軍、海軍(海兵隊も海軍です)空軍、沿岸警備隊の基本給体系。単位はドル/月。1ドル以下は四捨五入。
Eはエンリステッド(下士官兵)、Wは準士官、Oはオフィサー(士官)の略。数字は階級。E−1が一番下のスタートしたばかりの二等兵。数字が増えると階級もあがります。
階級名は各軍で少しずつ違いますが、このアルファベットと数字の組み合わせでの給与階級順は全軍で同じなので話をする時に混乱がなく便利です。普通に軍人同士の会話でも使われます。
階級 | O-10 大将 | O-9 中将 | O-8 少将 | O-7 准将 | O-6 大佐 | O-5 中佐 | O-4 少佐 | O-3 大尉 | O-2 中尉 | O-1 少尉 | W-5 | W-4 | W-3 | W-2 | W-1 | E-9 | E-8 | E-7 | E-6 | E-5 | E-4 | E-3 | E-2 | E-1 | |||
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~4ヵ月 | 1,430 | ||||||||||||||||||||||||||
2年未満 | 9,946 | 8,264 | 6,187 | 5,158 | 4,450 | 3,913 | 3,381 | 2,934 | 4,043 | 3,692 | 3,267 | 2,868 | 2,780 | 2,405 | 2,203 | 2,020 | 1,823 | 1,734 | 1,547 | ||||||||
2年以上 | 10,272 | 8,648 | 6,797 | 5,810 | 5,151 | 4,435 | 3,850 | 3,054 | 4,350 | 3,846 | 3,576 | 3,176 | 3,034 | 2,646 | 2,351 | 2,123 | 1,938 | ||||||||||
3年~ | 10,488 | 8,826 | 7,243 | 6,212 | 5,495 | 4,787 | 4,434 | 3,692 | 4,474 | 4,004 | 3,672 | 3,260 | 2,876 | 2,762 | 2,465 | 2,238 | 2,055 | ||||||||||
4年~ | 10.549 | 8,967 | 7,242 | 6,288 | 5,572 | 5,219 | 4,584 | 4,597 | 4,056 | 3,737 | 3,435 | 3,304 | 2,876 | 2,580 | 2,352 | ||||||||||||
6年~ | 10.819 | 9,223 | 7,271 | 6,539 | 5,891 | 5,470 | 4,679 | 4,809 | 4,221 | 3,949 | 3,643 | 3,425 | 2,995 | 2,762 | 2,452 | ||||||||||||
8年~ | 11,269 | 9,476 | 7,582 | 6,689 | 6,233 | 5,744 | 5,018 | 4,547 | 4,278 | 3,948 | 3,999 | 3,631 | 3,261 | 2,951 | |||||||||||||
10年~ | 11,374 | 9,768 | 7,623 | 7,019 | 6,659 | 5,921 | 5,230 | 4,886 | 4,442 | 4,091 | 4,885 | 4,176 | 3,747 | 3,365 | 3,107 | ||||||||||||
12年~ | 11,802 | 10.059 | 7,623 | 7,262 | 6,991 | 6,213 | 5,549 | 5,045 | 4,602 | 4,290 | 4,996 | 4,285 | 3,953 | 3,566 | 3,126 | ||||||||||||
14年~ | 11,925 | 10.351 | 8,057 | 7,575 | 7,221 | 6,365 | 5,828 | 5,230 | 4,799 | 4,487 | 5,135 | 4,417 | 4,125 | 3,627 | |||||||||||||
16年~ | 12,293 | 11,269 | 8,822 | 8,054 | 7,354 | 6,094 | 5,419 | 4,951 | 4,641 | 5,299 | 4,559 | 4,242 | 3,672 | ||||||||||||||
18年~ | 12,827 | 12,043 | 9,272 | 8,281 | 7,430 | 6,311 | 5,762 | 5,091 | 4,783 | 5,465 | 4,815 | 4,367 | 3,724 | ||||||||||||||
20年~ | 16,072 | 14,057 | 13,319 | 12,043 | 9,722 | 8,507 | 7,190 | 6,524 | 5,993 | 5,258 | 4,956 | 5,730 | 4,945 | 4,415 | |||||||||||||
22年~ | 16,151 | 14,260 | 13,647 | 12,044 | 9,977 | 8,762 | 7,554 | 6,836 | 6,131 | 5,367 | 5,955 | 5,167 | 4,578 | ||||||||||||||
24年~ | 16,487 | 14,552 | 13,647 | 12,044 | 10,236 | 7,825 | 7,092 | 6,278 | 5,454 | 6,191 | 5,289 | 4,665 | |||||||||||||||
26年~ | 17,018 | 15,062 | 13,647 | 12,106 | 10,738 | 8,127 | 7,384 | 6,477 | 6,552 | 5,591 | 4,996 |
この基本給の他に各種手当がつきます。衣食住は支給か補助金が出ますし(なぜ士官だけ制服費用の補助がないんでしょうね?まあ士官学校を出てれば大抵の制服はもう持ってますけども)、低利のローンや互助割引に税控除、医療保険に学費援助、契約更新ボーナスに厚生施設に各種無料サービスやカウンセリングに投資相談などもありますので生活に困ることはまずないはず。ちゃんと貯金しとけばよかった、と思うのは軍を辞めたあとです。
職務や階級により差はありますが60から64歳または勤続30年を超えると腕が惜しいとか戦時中などの特例を除き引退させられます。公務員は勤続20年以上で年金受給資格を得、20年で最終給与額の50%、40年頑張れば100%です。でも軍隊なんであんまり老人ばっかいても有事の際に困るんですが。。。
ここで士官(オフィサー)と兵卒*(エンリステッド)の違いについて説明します。
OはオフィサーのO
オフィサー(士官)はいわゆる管理職。部下の兵隊さん達の指揮をし、仕事上、時には生活面にまで渡る指導/マネージメントをする人達です。その士官の職種と職場によって部下の数や管理の範囲はかなり違ってきます。例えばパイロットのように自分の仕事に専念し、大して部下もおらず、従ってマネージメント業務に格別頭を悩ませる必要のないこともあります。怒られちゃうかな。比較論ですから怒っちゃヤーよ。
一般的に少尉、中尉、大尉、少佐、中佐、大佐、准将、少将、中将、大将を「士官(将校)」と総称します。戦時などには元帥と呼ばれる総大将が現れたりもします。
Eはエンリステッド・メンのE
エンリステッドの皆さんの階級名は下から二等兵、一等兵、上等兵、兵長、伍長、軍曹、曹長。兵とつくのがいわゆる兵卒です。伍長、軍曹、曹長(兵曹長)という階級の人達は下士官と呼ばれ、これら兵達を監督し実務指導します。Eの階級が9まであるのは「最先任」だとか「上級」だとか「一等」の下士官(主に曹長か軍曹)がいるからです。指揮権は士官にあるのですが、とりあえずこの下士官殿に意中を伝えないと何事もうまく運びません。
ちなみに「下士官」というのは士官ではありません。兵卒の上の方の階級です。下士官から士官にはなれません。紛らわしくて済みません。ついでに言えば准尉も准士官とは呼ばれるものの士官ではありません。が、これらの人達はそれなりの監督権限があります。下請けの管理職とでもいいましょうか。あとは衛生兵も大抵の職場には一人ぐらいしかいないので医者扱いで士官並みにミーティングに呼ばれたりします。
四大卒が士官の条件
Wはなあに?
Wはワラントオフィサー(准尉)です。彼らは仕事内容が専門職となり士官的な権限を必要としたりするので給与も別区分になっています。長年エンリステッドとして知識や経験を積んだCPOがなることもあれば陸軍のヘリコプターパイロットのように最初からワラントオフィサーな人もいます。特務士官という呼び名もありましたがこれは職務の特殊性を表していてわかりやすいでしょう。「尉」が付きますが、長年やったからといってエスカレーターで少尉にはなりません。指揮官である士官とはまったく別路線なのです。
* このサイトで「エンリステッド(兵卒)」と言っているのは二等兵から准尉までの人々、つまり士官(コミッションド・オフィサー)より下の階級全てを含みます。指揮官たる士官とその部下を言い分ける適当な日本語を見つけられない無能管理人の独断です。下士官兵や准尉という名称は士官と紛らわしいため、できれば使いたくないのです。一般の方々にはあまり馴染みのない単語ですし、下士官や准尉を士官だと勘違いなさっている方も多いので…まあ無理もありませんが。でも士官学校の説明のためにはちょっと区別したい。
というわけでここだけのお約束としてご了承ください。
士官候補生の給料
さて、士官候補生も見習い修行中とはいえ一応士官の端くれ。しかも公務員ですので月給を貰っています。どのくらいかというと少尉さんの基本給の35%、2015年現在は1027ドル20セント。
ここから洗濯代ドライクリーニング代理容美容費、制服や靴の修理費に卒業アルバム代や各種のイベント費用に税金年金、掛け金月7円で4千万円保障の生命保険料など思いつくかぎりの諸々が天引きされます。自分で払う面倒がなくていいでしょ?
新一年生(プリーブ)はコンピュータや教科書・制服一式など必要経費が多いのと、お金など持っていても使うヒマも場所もないので、手取りは100ドル/月(新入生訓練のプリーブサマーの夏の間は50ドル)であとはすべて積み立てに回されます。
とはいえ最初は必要経費が給料を大幅に上回るため、8500ドルの無利子のローン*が知らない間に勝手に組まれ、初期費用が数年に渡って分割払いにされるため月々のおこづかいが残るという仕組み。学年が上がる毎にお小遣いも100ドルずつ増えていきます。2年生は200ドル、3年生は300ドルという具合に。最上級生は経費をさっ引いた分の給料500−700ドル程度をまるっと貰えます。給与の振込は翌月始めです。
* 最近まではローンではなく2000ドル程度の「入学敷金」を振り込む形式で初期の給料がマイナスにならないようにしていました。また陸海空の士官学校によっておこづかいの金額(生徒に対する信用度?)が多少違います。制服が違ったりしてかかる費用も完全に同じではありませんが、天引きの細目は基本同じです。
給料口座には候補生が学校の購買で使えるデビットカードがついてきます。1年生は学校から支給される必要品全ての購入に際して2500ドルを上限にこのカードで支払いをすることが出来ます。2−3年生は教科書と制服に限り250ドルまで、最上級生は使用目的の縛りなく500ドルまで使えます。
事前に定められた金額以上の買い物をする際はたとえば運動部のコーチが理由と必要物資の内容などを書面で提出し認められた場合に限ります。専攻によっては教科書がやたらめったら高かったりしますしね。
こうまでしてもどういうわけか自分の持ち金以上に浪費する奴がいるようです。明日支出が待ってるのに今日残高全額使っちまうような刹那的な人生訓の持ち主が。ですので最上級生は3月半ば以降はこのカードによる購入が出来なくなります。5月の卒業時に借金を残さないためにだとか。発つ士官あとを濁さず。というより卒業したら自分の部下に給料を全部飲み代に費やすなと指導する立場になるわけです。指揮官が率先して破産してたら示しがつきません。
教科書や制服などの購入費用の足しとして2・3年生の新学期の前、7月と12月には最大750ドルまでのボーナスも出ます。というか必要に応じた金額の引き出しが可能になると言った方が正しいでしょう。たとえ自分の給料口座でもいつでも好きな時に好きな額を引き出せるわけではありません。当然ながら各士官候補生の口座に将来必要とされる経費の金額は残しておかないとなりませんので、余剰があれば最大750ドルまで学期前に引き出せる、という話です。人によっては奨学金を給料口座に振り込んで余裕を持たせたりもします。
もちろん何か緊急事態でどうしても必要なものなら許可を得て自分の口座から支払うことも可能です。これも上限は750ドル/月です。5月の給料日には夏の訓練に備えて制服や備品を新しくする費用として200ドルを余分に引き出せます。
つまりなんだかんだ言っても士官候補生の経費はポケットティッシュからパンツ靴下に至るまでほぼ税金で払われるのですが、タダでなにもかも支給というと語弊がある上に本人達がありがたみを感じずに使いまくってしまう危険があるので、便宜上月給とかローンと名前をつけてそこから払わせ無駄遣いを牽制しているのです、たぶん。若い時から帳尻を合わせる訓練をしておかないと後々苦しみますからね。
なにしろ足抜けできないように卒業もしないうちから断りきれないほど条件のいいローンをやたらと勧めてくれますし、親方星条旗が。えっ、使うから稼ぐ、が座右の銘?いや、どう頑張っても固定給なのよ・・・。
さて、この状況。学生なのに贅沢と思われるか公務員なのに安月給と思われるかはわかりませんが、上記の給料に加え授業料と寮費、食費、医療費、公務の交通費はタダです。というかご両親ならびに他人様の税金で賄われています。必修の運動部活動の費用は主に学校の基金(個人や企業からの寄付とスポーツなどからの収益)から捻出。独立非営利団体を立ち上げて収支管理しています。運動施設はかなり豪華な仕様です。
追記:運動部のユニフォームや用具等の費用も学校が出しています。アメリカでは公立の小中高校などでもユニフォームや練習着はもちろんのことスパイクシューズから海パンまで貸与されます。一応返すことになってますが、ライクラ素材入りのSPEEDOなんか1シーズンくらいしか保たないし、水虫アディダスなんぞお下がりを貰っても困るんですがねえ。
とにかく士官学校の場合身につけるものはほとんど全支給です。持ち物にはマジックペンで名前と番号を書くのがお約束なので返したくても返せません。プロテクターなどモノによっては貸与で部の倉庫に山と積まれていたりしますが、ほとんど税金のお世話になってないので心おきなく贅沢ができます。特にフットボールチームは稼ぎ頭です。
アメリカの大学ではフットボールは別格で、TV放映権その他の巨額なメディア収益や企業協賛で他のすべてのスポーツ部の費用が賄える仕組みになっています。士官学校でも同じです。
人気強豪校やファン層の厚い大学であればナイキやアンダーアーマーなどの企業が喜んで毎年ユニフォームの試案をいくつも持ち込んできます。ホーム用、アウェイ用、などなど。好きなものを選べばチーム全員分はもちろん無料提供です。
その見返りとして社名とロゴがメディアに曝されますし、学校公認グッズも製作して売ることができますから持ちつ持たれつです。アメフトほどではありませんがバスケも多少収益が見込めます。おかげさまで他の地味な「アマチュア」「オリンピック」スポーツも大学対抗試合のエントリー費用から移動宿泊食費等も丸抱えで面倒を見てもらえることとなります。まあ一応全員月12ドルの「運動競技費」が給料から天引きされてはいますが、笑っちゃうほど見返りが大き過ぎます。
無料なのは校内だけではありません。お外に出ても現役軍人割引だとか空席があればいつでも乗れる無料軍用機だとか適齢期の娘がいるお父さんの高級車も乗り放題など、自由時間もほとんどなくお国の為に勉学に励む若人にはそれなりの特典もついてくるのです。まあ住み込みの弟子職人や芸妓なら一年で済むはずのお礼奉公に少なくとも5年は費やさなくてはなりませんし、下手すると代価としてたった一つの命で購う羽目になるのですから、多少の恩得は与えてあげても構わないでしょう。
タダより高いものはない
こういうわけで途中で士官学校を辞めると、たとえ初日といえどかなりの借金にまみれてしまいます。4年間の官給品の合計はアナポリスで公称17500ドル程度。高価な制服は自分の体に合わせて作ってありますから相手構わず売り飛ばすわけにもいかず、教科書だって新品を購入すると一学期分でも数万円はしますが、売るときは中古なので元なんか取れやしません。
それでも最初の二年以内に辞めれば数千万円相当の学費を含め弁済しなくていいので、決断はお早めに。退学して家に帰るための旅費だってちゃんとあとで国が払い戻してくれます。もっとも、いつになるかはわからない、とんでもなく時間がかかるかも、とわざわざ書いてあるところをみると永劫のあいだ待たされそうではあります。