士官学校入学要項: 大統領の推薦状

アナポリス米国海軍兵学校の礼拝堂内部

アメリカの士官学校に入学するにはどうすれば良いのか?
まずは入学要項。米国海軍兵学校を例にとる。陸軍&空軍士官学校も大体同じである。
申し込みに際し必要な最低条件は以下。(外国人・留学生枠もあるが手続きが違うので後述)

  1. 社会福祉番号を持っている事。国民でなくても貰える。
2. 米国市民権を所有。グリーンカード(永住資格証明)のことではないので注意。
3. 入学年度の7月1日付で17歳以上23歳未満である事。
4. 未婚である事。
5. 妊娠していない事。過去に子供を産んだ経験がない事。
6. 扶養家族のない事。過去に父親になった経験のない事。
7. 品行方正な人物である事。(犯罪者とその予備軍お断り・履歴書の賞罰欄に罰なし)
8. 卒業後に軍役を拒否する信条、宗教などを持たない事。

当然だが嘘がひとつでもあれば書類審査も通らない。後でバレたら即刻退学なので正直に。最も証明が難しい7番が実はかなり重要なポイントである。映画やTVによくある悪ガキの素行を直すためのスパルタ軍事教練校は私立。アメリカの本物の士官学校は国立で生徒は公務員。汚点などあってはならない。

☆改定☆

条件が新しくなったよ〜。内容は下記の通り。

  1. 入学年度の7月1日時点でアメリカ合衆国市民権を持っていること。
2. 入学年度7月1日時点で17歳以上23歳未満であること
3. 結婚していないこと
4. 妊娠しておらず、扶養家族のないこと
5. 有効な社会福祉番号(SSN)を持っていること

この三番目の項目の原文は"Unmarried"である。普通は未婚と訳されるだろうが意味合いに幅がある。 離婚済(divorced)とか伴侶と死別(widowed)も含まれないとも限らないよ〜的な曖昧さでポリティカル・コレクトネスさを醸し出そうとしているのでしょうか。
いろいろ変わってるのかな〜調べるの面倒くさいよ(涙)てか自分で英語で要項読めなきゃそもそも入学ムリだし。皆さん違うところがあったら教えて下さいね〜(オイ)

士官学校入学のための書類審査

全てクリア出来るなら予備審査書類提出。高校生ではあるが年齢が申し込み基準に達しない場合は事前に兵学校に登録しておけば、高2の2−3月にオンラインで申し込み出来る。夏期講習を受けるとこの第一次審査項目を再申請せずに済む。とにかく次年度に高校卒業予定もしくは卒業済みでないと予備審査を受けられない。この予選段階では次の項目を提出。

  1. 在学している高校のETS*認識番号(学校のレベルを知るため)
2. 高校での学年成績順位(学校が公表してない場合は推定順位)と入学年月日
3. SATやACTもしくはPSATの点数(複数回受験している場合は各科目の最高得点を合計可能。テストの実施団体から直接士官学校に点数を申告)
4. SSNと現住所の〒番号(ZipCode)
(たぶん氏名生年月日性別人種国籍身長体重メルアド電話番号等もいつか聞かれるだろうけど今は明記せずSSNだけでいいよ〜に変更)
5. お住まいの選挙区(下院)
6. スポーツ推薦を希望する場合、競技種目と面談を希望するコーチの指名(兵学校にない種目不可)
7. 過去の軍歴(ある場合は所属と階級)
8. 現在の学歴(大学在学、高校卒業、卒業予定、予備校卒業予定、などなど)

*全国統一学力テスト(SAT,GRE,TOEIC,TOEFL等)の実施団体"ETS"が学校に割り振った番号

議員の推薦状は入学申し込みの必須アイテム

ここまでは普通だがひとつ面倒なのが指名推薦状を貰う事だ。これがないと予選落ちである。甲子園の土を踏みたければ大統領や国会議員の推薦状(ノミネーション)をもぎ取らねばならない。成績も品行も良きゃ楽勝だが、ここで引っかかる奴がなぜか出る。曰く、手続きが面倒、頼むのが遅過ぎた、等々。これはそういうヤル気のない奴をふるい落とすのにちょうど良いシステムかもしれない。
ところで誤解が多いようなので強調しておくが、推薦状イコール入学許可ではない。ほど遠い。元々は軍が好き勝手な人物を登用するのを防ぎ議会の介入を容易にするため議員の推薦状を士官学校への入学要件にしたのが由来。なので、推薦状は単に入学申し込みに必要な書類のひとつでしかない。
 士官学校入学希望者に推薦状を出せるのは大統領、副大統領、上下院議員、戦没者遺族会ほか軍関係が多々あるが、別に誰かと知り合いである必要はない。一般的には自分の選挙区の議員に頼めばいいのだが、各議員/選挙区には推薦状の数割当があるため、早くしないとそれが埋まってしまう。大概は高2の夏休み頃、遅くとも秋には誰に推薦を出すか議員が決めてしまう事が多い。その冬の1月の期限までには議員から士官学校に直接推薦が届く。

 士官学校はアメリカでは珍しい国立であるので、なるべく各州から生徒を集めたいのかもしれないが、学校が多くて競争が厳しい地区だったりすると成績が上の中くらいでも推薦から外されたりする。そこでまだ割当の残ってる推薦者を捜す事になる。田舎のとんでもない場所(マリアナ諸島など)でも何でも構わない。だが田舎は人口に比例して議員数も少ないのでそう簡単に見つかるとは限らない。だが成績がまともで且つ真面目に捜せば何とかなる。毎年泣き言を言う奴がいるが無視してよろしい。推薦が貰えないには理由があるのだ。運が悪いとか要領悪いとか頭が悪いとか。あきらめて沿岸警備隊士官学校に行きたまえ。推薦いらないから。

* 国土安全保障省の管轄になり議員の推薦状は不要となったが、もっと各地方から均等に沿岸警備隊士官候補生を出すべきだとする海無し州や大河州の議員が推薦の義務化を画策中。

意外な難関、入学申し込み時の健康診断

これで問題なければ遂に公式に入学志願者になれるとの通知が早ければ高2の夏休みに来るので熟読しましょう。本戦(受験)への申し込みは通知が届いてから30日以内に済ませましょう。その後健康診断を受け、国防総省健康審査資格認定審議会(DoDMERB)からの連絡を待ちます。だいたい一ヶ月ほどすると結果が出ます。ここで病歴怪我歴手術歴から親族の病歴までしっかり調べられ、少しでも身体能力的に将来のご奉公に問題が出そうなら刎ねられます。視力関係の手術歴などもってのほかです。ただし入学後、眼球の成長が止まってからパイロット志望者がPRKを受けることは認められることがあります。問題の多い病気などを御知りになりたい方は、兵学校謹製「よくある病名」カタログをご参照ください。

まあ、現在なにも症状が出ていない場合、主治医やご近所の専門医と結託して「完治」したことにしてしまった過去例もありますので一応悪あがき努力はしましょう。士官として将来性充分とみなされる人材の場合、少々の健康障害であれば利害の相殺可能であるとされます。しかし未来の職場は往々にして衛生状態が悲惨なケースがございます。持病の症状は年齢と共に悪化する事が多く、将来F22等の高額物件の運転操業中に発作が起きて壮大な税金の無駄にならないとも限りませんのでくれぐれもご無理はなさらないようご忠告申しあげます。

この検査で自分も知らなかった病気が発見される事もあり、努力でどうなるというものでもなく涙をのむ学生もいる。ここで発見されればまだ良い。後から見つかって退学となると、一生言い訳しなくてはならなくなる。 そ、卒業できなかったのは病気のせいなんだからね!勉強についていけなかったとか体力なかったとかじゃないんだからね!ましてや不祥事で辞めさせられたわけじゃ絶対ないんだからね!

そうはいっても疑惑はつきまとうもの。聞き覚えの悪い病気だったりなんかすると、しかも提督に娘しかいなくて、やっと生まれた男の子で初孫なのが入学を果たしたあげくとなると厄介である。とりあえず色弱だったからなどと当たり障りのない事を言って誤摩化すのだが、色盲色弱は欧米男子には約6人に一人と大勢いるので絶対検査するし見つからないわけがない。そもそも気がつくだろ自分で。それで入試受けたとなると嘘をついたわけであるからそれだけで倫理規定に引っかかり不名誉退学である。まあ無料人間ドックのつもりで受ければアキラメもつこう。

身体能力テストを乗り切るには

健康に問題なければ次は身体能力検査。陸海空で同じ。跪いてのバスケシュート、懸垂(女子で懸垂が一度も出来ない者は斜め懸垂)、往復持久走、腹筋、腕立て、1マイル走。体育教師の資格保持者、現役士官などの監督下で公正に行う**ことが求められる。ここで体育教師を丸め込んでチートしても入学後皆の前で同じ事やらされて出来なければ退学なので意味がない。

どっちにしろ入学したら体力絶倫でないと後が続かないので必死でトレーニングを積もう。大抵の入学希望者はかなりレベルの高いアスリートが多いが、種目によっては走る必要がなかったりするので高校に通ってるうちから不得意分野を撲滅しておくといいだろう。ただ柔軟性はなくてもパワーでごまかせるので、爪先に手が届かなくても構わない。つか届かない奴ばっかである。ヨガは出来なくていいようだ。でも将来必要と思うのね、柔軟性。潜水艦のバンクベッドで寝返り打つ時とか。

6種全てを指定順に40分間以内に終わらせる事。複数回テストして一番良い記録をまとめるのは禁止。記録は0-100点までの尺度評価に換算し、最初の5種のうちひとつでも100が出たらその後無理をしないようにする。でないと記録が伸びないケースが多いので。
一応エクササイズマニアのために最高値を出しておきます。懸垂の場合この回数になったら時間内でもストップがかけられます。

膝立ちシュート    102回/ 7分 (女子66回)
懸垂         18回/ 7分( 女子7回)
30ftシャトルラン    7.8回/ 2分(女子8.6回)
腹筋(クランチ)   95回/ 2分 (男女とも)
腕立て伏せ      75回/ 2分(女子50回)
マイル走       5分20秒 (女子6分)
各種目間の休憩は3分。ただしマイル走直前の休憩は屋外に出るための時間も考慮し5分とする。

**これをなぜ全国一斉に公式施設でやらないかというと国が広過ぎるからです。希望者も多いし。しかも各人の手続きの進み具合も違うしね。だがお役所の事、たかが体力テストとあなどるなかれ。重箱の隅をつつき微に入り細に入った指定がある。距離を測る器具にしたって部室にあるのでいいよね、なんて適当な事は許されない。マットの厚みに長さまで指定されている。どの順番にどれをやるのに指導官がどこに立ってなんと宣言してから行うべきかとか医者も同席させろとかスコアを数える人物には助手を付けろクリップボードと紙と筆記用具を忘れるなとか、そこまでいわなきゃわかんないバカがそれほど多いのかアメリカ。あんまり細かいので全部スルーしたくなる奴がいても不思議じゃない。まともな人間なら最後まで読まずにトイレに流すかヤギに食わすだろう。ちなみにヤギは海軍兵学校のマスコットだったりする。シュレッダーにミルクにXXに食肉にと万能な家畜であります。

面接士官に連絡しよう

さあ、やっと面接にまでこぎ着けた。士官学校に入るのは普通の大学に通うのとは格段に異なる責任を伴う。人生の一大転機となる可能性が高い。たぶん人生変わる。勝手にやめらんないという点で。なので学校側というか国側としてはその決断の前に色々な質問疑問に答えてあげたい。後で文句言えないようにな。

で、ここで登場するのが全国展開の士官学校専門特別公式進路指導要員である。まあカウンセリングのトレーニングを受けた(という触れ込みの)経験者/先輩ってことだ。卒業後の仕事の実情なんかも聞けるし質問攻めにしたいかも知れないが、同時に面接官でもあるのでちょっと引く。誰に当たるかはわからないが、本戦通知が来たらすぐ担当の指導士官(海軍兵学校ではブルー&ゴールドオフィサーと呼ばれる。学校の色で校歌なんです青と金)に連絡しなくてはならない。各州にいるので高校の進路指導担当に聞けば連絡先がわかるはずだ。

 ただみんなボランティアで大抵は業務で忙しくいきなり電話されても困るし、海軍士官だと陸にいなかったりするので最初の連絡は手紙よりメールが良いと青金士官は語る。いくらアメリカ人でも士官学校に行きたいような子はわりと真面目で良識がある場合が多いので、面接官に最初からメールというのはくだけ過ぎてないか心配する向きもあるようだが、手紙だと青金出張中にどっかにまぎれちゃったり、ひどい時は青金の役職が変わって元のオフィスに戻って来なくてお手紙放置、行方不明という過去例もあるらしい。どーしてもメールじゃ失礼と思うなら会社に送る履歴書と同じく、なぜ入学を希望するかとか得意の科目やスポーツは何とか趣味とか特技とかを文書風に一ページくらいにまとめてメールに添付して連絡先とともに送るとか、そんな感じでいいんでない最初は。添付文書付きスパムと思われて開けもせず削除される可能性は高いけど。

面接時には「絶対入学させられないタマ」から「もう諸手で歓迎したい上玉」までの数レベルのうちのどれかの評価がつく。面接官の気分次第である。であるから面接本番では答の内容だけじゃなく声や態度やしっかり目を見て話すかどうかも大事である。将来指揮官になれるかどうかをも見ている(はずだ)からね。当然身だしなみにも気を配ること。遅刻などはもってのほか。面接の最大の目的はその候補者がどんな人間なのか見極める事にある。SNSのプロフィールと同じく、書類上は完璧でも実際会ってみたらとんでもない奴だったというのはままある事である。だから大抵は何度か面接(インタビュー)が行われる。変な奴、危ないタイプはここで弾かれる。と信じたい。

士官学校入学「シード候補」

さて、これで全ての書類と手続きが済んだ。この時点で頭ひとつ飛び抜けて成績も運動能力も性格も良く指導能力に秀でお国のために滅私奉公する気満々の完璧な志願者にはシードがつく。お手付きツバ付きである。もう絶対入学させてあげっから他の大学の事は忘れて、心おきなく残りの高校生活楽しんでね♡文書が来る。早ければ高3になってすぐ。もちろん成績や品行を今のレベルで保てばの話である。ここでいきなり気を抜いて未婚の母になったりしてはいけない。
またコネやレガシーとは言えないが親が名誉勲章をもらっている場合、この時点まで問題がなければ自動的にシード付きとなる。まあ生きて名誉勲章を受章するケースはほとんどないわけで、そのへんは親に敬意を表して少し甘くしているのだろうが、子供が勲章貰う行為をしたわけではないので他の候補者に不公平だからやめた方がよいのではなかろうか。

士官学校入学「候補」

その他のここまでの条件(成績優秀健康良好体力充分推薦状GET面接突破)を満たした連中もその旨の通知を貰って「候補者」となる。候補者達は「指名(=入学許可、アポイントメント)」をめぐって各自の推薦グループ内で争う羽目になる。入学許可を貰うのは1500-1300人程度で入るのが1,100人ちょっと、というのが普通。三軍全部に申し込んでる人もおり許可は多めに出る。大統領から推薦を受けたから有利とかは無い。というか、大統領枠は数に制限なくて出しまくりなのでありがたみは薄い。なぜかというと親が軍人でしかも国内に住所がない生徒限定*だからである。(*のはずなんだけど国内に住んでても親が軍人なら貰えてます。適当やなぁ)

普通海外に住んでいて国内からの収入がなくとも税務書類は管轄の区域に出さねばならず、そこが住所代わりとなりその選挙区の下院か上院議員の推薦を貰う事になるのだが、どういうわけか法律と現実の狭間に落っこちた人がいるのかもしれない。アメリカ人ならあり得る。いい加減だからね、役所も。副大統領も国外の軍人子息担当だが各士官学校に5人しか推薦を出せない。いい加減な海外在住者が増えてこれでは狭き門過ぎるので大統領枠を作ったといわれても驚かんぞ。大統領は議員じゃないんだけど、ま、いいか。
国内でいえば上院議員は各州に2名しかいないので、ほんの少しこの推薦の方が色がつくかもしれない。どっちにしてもあんまり変なのを送り込むと評判が悪くなるので、いくら希望者がいても誰にでも推薦を出すわけにはいかない。だから他の州からの希望者でも条件に合えば受け入れて推薦をする。ので、どの推薦グループにいても倍率は大差ないはずなのだが、やっぱ人口と学校が多い地域の競争は激しい。東京や神奈川の学校から甲子園行くために必要な選手レベルと田舎で野球部のある高校が2つしかない県と比べるようなものです。高知県?それは例外。

士官学校への「入学許可」獲得条件とは

最終選考で大事になるのが生徒会長歴=学生歴だとか強豪運動部の部長や国体優勝チームキャプテンやら国民栄誉賞もらったとかディベート選手権全国優勝だとか福祉活動部長で毎月チャリティー活動30件年間寄付総額1億越え3年連続とか世界高校対抗科学コンペ優勝とか溺れた子供や雪山遭難者を助けて警視総監賞とかそういう尾ひれである。

 アメリカの高校では運動競技会などで記録を更新したり賞を取ると「レター」を貰える。学校代表(バーシティ)チームのスタジャンにアルファベット一文字のワッペン(死語だよな?)がくっついているのは運動能力抜群の証である。2個以上付けたら嫌みだが。とにかくバーシティレターをたくさん持ってるとかなり尊敬される。これの数だって差が出るので思いつく限り申告する。女子だが男子チームで大会出場なんていうと指名委員会のおじさんが喜んで推してくれるだろう。スポーツ推薦に引っかかる程の記録でも持っていれば多少色がつく。それだけじゃ入れないけどね。ホームカミングクイーンのエスコートに毎年選ばれてるんだって申告して損はない。人気がある証だ。ただしよほどの事がない限り人文系専攻希望とは書くな、との中の人からの忠告です。あとで気が変わるぶんには問題ありません。

 高校の成績は学校によってレベルに差があるので重視されないとはいえ、進学校で4年連続数学特別履修コースで微積分A、GPA4.0(上級コースで5.0)なんかだとこの時点ではかなり効いてくる。アメリカの高校は4年のところもあり、中3も高校の一部と計算する場合多し。レベルの高い選手は部活なども高校生と一緒だったりする。また飛び級は意外と少なくて、特別に成績の良い生徒向けに科目別上級コースが用意される高校が多い。まあ17歳で大学(Caltech)卒業21歳でMITの物理学博士号取得なんて人もいるがこれは天才向けの特別学校に行った場合。大抵は友達のいる地元普通高校に入って人気者となる。

自分の高校ではお山の大将だったかもしれないが、「候補者」ともなると周り全員同じような履歴なので全人格で勝負しなければならない。それも組織運営や指導能力に重点が置かれる。陸軍士官学校だと自分のリーダーシップ能力についての分析エッセイを書かされるくらいだ。MITやアイビーリーグなら成績が良ければギークでもオタクでも入れるが、士官学校の場合成績だけでは入れないのだからある意味ハーバード入るより面倒である。まあハーバードも金と秀才は有り余ってるから好きなカテゴリーの生徒を選べるんで成績以外がものを言うが、未婚既婚や年齢制限や体力制限まではない。
 もちろん授業料めっちゃ高いアイビーリーグは貧乏人がおいそれと行ける所ではないが、その成績なら奨学金や学費ローンが組める。ゴールドマン・サックスにでも就職が決まらない限り、ローン返し終わるのに数十年かかるけどね。それだってリーマンショックで罷めさせられちゃって万事窮す番茶は急須つったりなんかしちゃったりしてこのぉ。
君ぃ、公務員はいいぞぉ、失業なんてないしな。士官学校に入らないかい?

アメリカの士官学校の入学難易度

陸海空の各士官学校で毎年2000人くらい最終候補者が選ばれ、1500人弱が入学許可(指名)を受ける。つまり合格する。その後入学を果たすのは1000-1200人程度である。たいした倍率ではないように思われるが、最初の予選段階で15000人以上希望者がいるので毎年十数倍の倍率なのである。特に白人男子の倍率は高くなる。アメリカ海軍兵学校では過去平均16倍くらい。2012年は全員で17倍超えだから男はさらに厳しく20倍以上。結構難関である。なんだよ昔はそうだったんだよ!入学許可されただけで名誉だったの!

どういう風に栄誉だったかって言うとだな、例えばノミネーションが出た(まだ入学確定してない)時点で国会議員がわざわざ高校に来て表彰式みたいなイベントを全校生徒の前でする(推薦した生徒全員に、かどうかは不明。特に有望な生徒だけ第一位指名推薦するんでたぶんその生徒だけ。2位以下は順不同で一緒くた)とか、地元の新聞がすっ飛んで来て写真入りで記事が載るとか(まあこれはあっちじゃ結婚しましたなんてのも申し込めば写真入りで新聞載ったりするからたいした事じゃないけど周知の事実になる)娘を持つ親が異常に仲良くなりたがるとか、金は払うから何が何でも来年プロムのエスコートになってくれと後輩に泣きつかれるとか(いろいろお金がかかるんです。まあ制服で行けばタキシードのレンタル代はいらないけど)進路指導部と校長が泣いて喜ぶとか、町の名士扱いとなるわけです。まあ人口10万人以下なら地元で知らない人はいないような(品行方正な意味で)若者じゃないとあんまり受からないんだけどね。
地元に帰るとスーパーの巨大駐車場から病院からスポーツジムまで行く先々で「XXさんじゃない?いつ帰ったの〜♡」などと数十年経っていても人々が走り寄ってくるならそいつは本物の士官学校卒業生。先を急いでいるなら行動は別にしよう。

替え玉入学?!

士官学校への入学はこのように大変面倒であるが、実は替え玉入学が過去に起きている。妹の名を騙って入ったB・Bさん。どっから見てもオバさんぽい。下手すると30代くらいに見える。けれど女性の入学が解禁されたばかりで、学校側もあまり女生徒を見慣れていない。それにうら若き(はずの)乙女に面と向かって「老けてるね。本当に18歳?」とは聞けない。履歴書に写真がついてるわけでもないし、いちいち高校の卒業アルバム写真で本人確認などするわけもない。まわりも何となく変だなとは思いながらも、自分が忙しいので深く追求せず毎日が過ぎていく。もちろん体力的にも成績的にも微妙だったのだが、いっぺん入ってしまえば体力テスト突破用の特訓だとかいろいろ救済策はあるし、女子だしそんなもんかなということでうやむやになっていった。結局バレたけどね。

しかし、姉はずっと妹の名で生きていくつもりだったんだろうか。多分妹が士官学校に受かったけど他の進路を選んだので、もったいないからお姉さんが代わりに入ったなどという事情なんだろうが、戸籍のないアメリカ、当時は運転免許証も紙だし、そもそも同じ名前を姉妹で使い回したところでめったな事ではバレないような国だから出来たこと。姉は世間から隔離されたところにいるわけだし。しかし軍のセキュリティチェックや税務署をなめてかかってはいけない。そんなことで若い人生を無駄にしたらもったいないよ。いや、若くなかったんだけどねBさんは。一体いくつだったんだ?

「入学許可」通知

さて、遅くとも4月15日には当否の通知が来る。5月1日までに入学するかどうかを決めて返事しなければならない。普通は4月どころかかなり早く入学出来るかどうかわかるのだが、辞退者がたくさん出たとかマイノリティ枠が埋まったとか埋まらないとかまあいろいろあって、運が良ければ敗者復活戦的にギリギリ高校卒業前に入学許可をもらう人もいるということだ。一般的に士官学校の入学許可は他の大学より早く出るので、行くべきかどうかじっくり迷う暇がある。迷うようなら行くべきではないとは思うが。
高飛び込みが陸軍士官学校の部活にないので迷ったあげく結局行かなかったプロのハイダイバーの50代のおっちゃんがいまだに「ウエストポイントから入学許可貰った」とフェイスブックの履歴に自慢げに書くくらいだからやっぱ栄誉なんだろう。本当に許可貰ったか知らんけど。推薦状貰ったあたりで許可と勘違いしてる奴は多いからな。

勘違いしてない方にはジョン・ウェインがいる。彼は補欠指名の第一位だったのだが、もう他の大学でフットボール奨学金貰って既に1シーズンプレイしていたし、指名を蹴る奴がいなかったので繰り上げ入学とはならなかった。ただし1929年のジョン・フォード映画にフットボールチームの一員というチョイ役で映画初出演し、バンクロフト・ホールで制服を着て写したスチール写真があるせいで士官候補生だったという噂が絶えないのだが、本人がアナポリス校内誌のインタビューで語ったのが上の顛末であるから本当だろう。

授業料無料・入学金なし・給与支給・衣食住提供

追記:アメリカの士官学校に授業料、入学金はありません。それどころか入学したら給料が出ます。実は普通の学生じゃなくて公務員の士官見習い奉公ですんで、勉強が仕事の丁稚か手代と思えばよろしい。新任士官(少尉)の給料の半額くらい貰える。そこからいろいろ経費をさっ引いて(制服とかPCとか)、残りは一部を毎月小遣いとして渡され、ほとんどは積み立てに回される。だからお金には困らないけど使う暇がない。一年生の時点では経費が多いので大した小遣いではないが、上級生になれば結構な額だからついついガジェット買っちゃうんだよねー室内で使えるから。お外に行ければもっと別の金の使い所があるのだが。。。

追記2:アナポリスでは1946年から数学重視の自前の筆記試験をやめて入学希望者のETS謹製テストの受験を必須とし、1958年以降はSATの結果を見るようになりました。つまり高校生の時に受ける全国統一大学進学適性試験、SATが筆記試験です。英語、数学、小論文とあり、各科目の最高点は800です。SATは複数回の受験が可能なため、受験日にお腹壊したとか雪で電車が止まったとかそういった日本的なリスクを回避出来ます。昔の士官学校の筆記試験も一日5時間、計3日かかったので大変だったでしょう。もちろん当時も合格するには試験だけでなく推薦状や他の基準を満たすことが必要でした。
同時期から全員が同じ科目を履修するのではなく専攻制度に変わり、授業に行くのに皆が揃って行進する光景は見られなくなりました。

兵学校?海軍士官学校?

追記3:海軍士官学校のことを昔日本では兵学校と呼びました。機関/経理学校が別にあったので名称を微妙に変えたと。意味は同じなんだけど士官学校って書くと怒る人がいるんだよね。陸軍は士官学校、海軍は兵学校とすべきだと。外国だし、海軍士官学校の方が一般の方にわかりやすいんですけど、一応米国海軍兵学校って表記してあります。まああれだ、生徒のことを士官候補生と日本語で表記してますが、アメリカでは陸軍空軍士官学校ではカデット、海軍ではミッドシップマンといい、これを間違えると怒る奴がいるので似たようなもんですね。だけど兵学校とか士官候補生で検索する人間いないっつーの。

アメリカの士官学校に外国人が入学するには

海軍兵学校では最多で60名まで外国人留学生を受け入れている。国際交流と海軍同士の付き合いを兼ねて。港々に女がいるからあちこちに子供がいるかもしれんもんね。まあそれは冗談だが、国防総省が許可した国々からは士官学校入学希望者を出す事が出来る。受け入れの最終決定は各士官学校の委員会が行う。ので、米国市民でないあなたが入学を希望する場合は手続き等について米国大使館付駐在武官にお訊ね下さい。
 まあ防衛大等の自国の士官学校から一学期交換留学生で行くのが妥当だと思うけどダメもとで訊くだけ聞いてみ?前例もあることだし。ちなみに2012年の主席はシンガポール出身。兵学校史上初めての外国籍主席。次は君だ!とか煽ってみる。しかしもっと凄いのは次席が艦船設計専攻潜水艦勤務希望だったこと。どんだけ頭いいんだよ。口惜しかったろうなー主席になれなくて。ちなみに三番手は化学専攻で卒業後ハーバード医学部へ。

下士官兵から士官学校へ

もう既に軍に所属している兵卒/下士官でも士官学校に入るチャンスがある。海軍、海兵隊、予備役、空軍、陸軍からの兵卒でも海軍兵学校に入れる。これは基本的に現場で「こいつは指揮官の方が向いてる」「兵卒や下士官で終わらせるのは惜しい」という連中をけしかけて受験させるわけである。定員数170名まで。幹部2名の推薦と管轄の指揮官/司令による人物保証を添えて申し込む。ノミネーションは海軍次官からはもちろん下院議員からも取り付けておく事が望ましい。むろん年齢制限他の要項は普通の受験者とほぼ同じ。違うのは大抵の場合成績面で追いつけないということ。

 つまり、高卒(もしくは中退)でもう勉強したくないからってんで軍に入った人達であるからSAT受け直せなんてとんでもない、的な人材が多い。頭が切れるのと勉強が出来るのは違う。このカテゴリーの人の最低必要点数はおもっきしゲタはかせてSATで1050(英数とも満点で1600)と格段に低いがそれでも間に合わない兵士達の学力を底上げするべく、専門の予備校が存在する。米海軍の場合NAPSと呼ばれる。ネイバルアカデミープレップスクール。まんまじゃん。ここでなんとか士官学校に入学出来る点数を取れるまで10ヶ月特訓を受けるわけだ。SATって名前書けば英数でスコア400もらえるから、残りの700を捻出するわけですな。マイノリティや女性、特に運動選手で成績が微妙な奴を士官学校にねじ込むための最終手段としても使われる。

このナップスターと呼ばれる元兵卒達は入学当初のプリーブサマー(新入生夏期訓練)は段違いに楽が出来る(もうやる事はだいたいわかってる)ので他の生徒にいろいろ教えたりと兄貴格になれるが、新学期が始まって勉強中心になると辛い生活にならないとも限らない。けれど敬礼してもらえるし給料上がるし(たぶん)というので今まで蛇蝎のごとく忌み嫌っていた士官になれる日を目指して頑張るのである。

 軍にも適材適所というのがある。ある人は完璧なメカニックだけれども、管理職にはまったく向いてないため昇進させると誰の得にもならないとか。これと逆にせっかくの才能が兵卒のままでは活かせないと周りが判定した場合、士官学校に入れと勧めるわけです。
入れた時点で最低でも軍役2年残ってなきゃならない規定なので4年制大学を卒業するまで義務を延長するわけだが、これと士官学校卒業時に義務とされる5年がどう組み合わされて年金受給がいつ始まるか等々は他の文書をたくさん見なきゃいけないので面倒だからパス。国税庁といい国防総省といい、なんだって’別文書参照’のフレーズで文書を埋め尽くすのか。いやがらせにちがいない。

元候補生の再入学も可能

かって士官候補生だった人も27歳までなら再挑戦出来る。何が悲しくてもう一度プリーブになりたいのか知らないが、病気で退学したけど全快とか不景気で公務員に魅力を感じ始めたとか理由はいろいろあろう。退学後最低一年経過していること。辞めた学年に戻るんだと思うが、後で各校に聞いてみるね。(今聞けよ。。)
大昔だが試合で忙しいアフリカ系フットボール選手の為に勉強を手伝った連中が軒並み退学させられた事件が陸軍士官学校であったが、その後何人かは再入学許可を受けている。確かもとの学年に。だけどねえ、他の学校ならほとんど美談だよね〜宿題手伝うなんて。毎朝友達の宿題丸写しさせてもらってた自分が言うのもおこがましいけどさ。そのかわりテストは丸写しさせてあげてたんだぜ?誰かに殴られそうな倫理観の欠如ですね自覚してますごめんなさい。だいたい民間大学ならスポーツ選手は勉強しなくても卒業出来る。だが士官学校の第一義はフットボールでの勝利ではない。それはあくまでオマケであると理解出来ない人は校長でも辞めさせられるのだ。ちょっと入れ込み過ぎた奴がいてな…。

士官学校に入学出来るのはどんな人物か

では、実際に入学を果たした士官候補生達の成績や背景はどんなだろうか。
こんなである。

士官学校入学者経歴の統計表

この数字を見て「何このエリート集団」と思うか「たいしたことないじゃん」とdissるかは各自の自由だが、一応言い添えておくとこれは平均であって、マイノリティ枠を埋めるためのスイーツ脳もNAPS出も含んだ数字だということだ。ついでにいうと今は士官になる手段が他にたくさんあるので昔ほど独占状態にはない。しかも国民総肥満状態じゃ贅沢は言えない。あとなんか言い訳のネタ・・・バキッ!…ノーエクスキューズ、サー!


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