士官学校の夏休み:サマークルーズ

陽の当たり過ぎる場所

夏である。世間、特に欧米では長い夏休みのまっただ中。なのに7月に入ったばかりの建国記念日の花火を見ながらアメリカ人が言うにこと欠いて「もう7月か、夏も終りだってのにXXXがまだ終わってないどうしよう」と天を仰ぐのでこちらは仰け反る。聞き捨てならん!あのな、日本じゃまだ小学校だってお休みに入ってないよ。梅雨も明けてないよ。夏本番なんてこれからだろ!新学期セールの宣伝とかやめろ。日曜の夜みたいな気分になっちゃうだろ!

ボストン艦隊祭でマストに登る乗組員太陽に近付き過ぎないようにね

アメリカの夏。風がBBQで香る。夏時間のおかげでいつまでも外が明るいのでアウトドアスポーツが人気となり、室内行事は閑古鳥が鳴く。そんな幸せに国民が浸っているのに士官候補生だけエアコンの効いた室内でひたすらお勉強というわけにはいかない。彼らも陽の当たる場所に否応無しに送られる。

士官学校の夏は4週ごとに分けられている。そのうちの一期は訓練航海に、さらにもうひとつが職業訓練に費やされる。であるから士官候補生に休みとして与えられるのは1ブロック分28日。そうこなくっちゃ。公務員が日本の小学生より長く休暇とってどうする。

救急訓練インターン生以外もお医者さんごっこはします

で、候補生によっては成績が失速中で休みを削ってでも夏期講習受けないと墜落炎上するようなのや、次学期の学校代表選手で練習時間を稼ぐために夏のうちにいくつか科目をとっておこうという輩、医官志望でインターンシップ必須などというのがいてこの場合はさらに休みが減る。

だがお役所なので休みと言えど14日以下あるいは35日以上になる場合は校長に通さないと許されない。減る分にはいいでしょとかいう問題ではない。ちゃんと休ませないと次学期にストレスで大変になったり公務員規定に反したり?するかもしれないし。

夏の時間割

C-17で南極に到着C-17で避暑に行こう!

ブロック123は678月だと思えばだいたい合ってるが、この他に闇ブロックが存在する。ブロック0は期末試験から卒業式までの5月末までの期間。これを夏休みに入れていいものかどうかはともかく、試験のスケジュールによっては2週間以上特にすることがない人もいる。卒業式前はイベントが多いが全員が全部に出るわけではないので、そこここに空いた時間が生まれる。夏期講習やインターンシップ等、開催期間が決まっている特別プログラムに参加したり、秋スポーツの対外試合がブロック3に食い込んで調整が難しくなるとこのゼロ期間に何かが押し込まれる。

潜水訓練中の士官候補生夏は涼しく潜水訓練

一般的には期末試験のあと数日羽根を伸ばす期間が与えられ、たいていすぐに夏期訓練航海が始まる。だいたい4週間くらい。その後は職業関連の実習訓練を1ブロック。これら必修訓練の他に学校側の用意したプログラムに参加してもいいし、ひたすら休暇を取ってしたいことをしまくるのもいる。ただし落ちこぼれはその限りではない。彼ら成績不振者と一部の向学心盛んな不審者は夏もお勉強する。夏期講習は3期あり、どれかひとつ取(らされ)るのだがあまりにも成績がひど過ぎて2期頑張らねば追いつかない場合に限りブロック0も活用してなんとかする。また訓練航海はパス出来ないので、日程が詰まっている候補生は試験が済んだらすぐどこかの艦に送られることも。

士官学校の夏:緊張の夏

海兵隊訓練施設の障害物踏破アナポリスの障害物走はスピード重視で楽しいが
海兵隊のは泥水の中ひたすら時間がかかる耐久匍匐前進
赤土の色はちっとやそっとの洗濯では抜けません

6月中は高校生向けの体験合宿(NASS)が6日x3回催されているので、上級生の何人かは訓練の一環としてそこの監督生となる。そして6月末から8月にかけての6週間はめでたく入学を果たした新1年生用の特訓期間プリーブサマー開催。詳細は記事になっておりますのでよろしければご笑覧ください。
こちらもお守役になると職業訓練としてカウントされる。新入生にとって無慈悲なことに、この監督生達の中には海兵隊基地でコマンドー?訓練を受けて来たばっかの上級生も混入する。くそ暑いバージニアの夜間訓練で崖から落ち川に落ち泥の中でヘビ*とご対面したにわか猛者が海兵隊仕込みの対応を新入生相手にお披露目する。

*  ヘビは20種を数えるそうである。羨ましい。そのうち毒蛇はたった3種だとか。ヘビは好きだがその餌となる虫も多いだろうことに今気がついた。もう羨ましくない。

サマークルーズで七つの海を堪能

アナポリス海軍兵学校では夏の訓練航海実習(サマークルーズ)は必修です。10日以内に事故病気等でリタイアするとやり直しさせられます。まあ航海と言っても船が港に繋がれっぱなしの場合もありますし、新一年生は陸での訓練じゃんと思われるかもしれませんが、操船の基礎はプリーブサマーで学ばされるし、そもそも海軍兵学校の敷地は陸の船という扱いなのでクルーズでくくります。夏は新学年の始まりと考えて下さい。

ロープ整理ひたすらロープのメンテに励む日々

一年間士官学校で頑張り、やっと最下級生の呪縛から逃れて2年生になれると思った人達には兵卒扱いで艦に乗って世界のどこかでペンキ剥がしに精を出す夏の訓練航海が待ってますが、艦船の乗組員にしてみれば何も知らないうえにすぐいなくなるお子ちゃま達に手取り足取り教える時間がもったいない。だから仕事があればいい方でひどい時はすることもなく放置プレイ。

ニューヨークメッツ始球式艦隊祭でTVに出たり始球式で投げさせてもらったりと歓待される水兵さん達

ちゃんと面倒見て兵卒の仕事をさせてくれといくら海将達から通達が来ていても現実は厳しい。何しろマニュアルに「配置された場所に使い方のわからないボタンやノブ、レバーの類があっても絶対に操作しないように!」などと注意書きがあるくらいですから過去に何かあったのでしょう。実際に運用中の船で勝手なことをされては後始末が大変です。現場ばかりを責められません。


ボストン港で昔風の教練を再現ボストンで昔風のチャンバラドリル再現

かっては夏休みのドリルみたいなチェック表もあったようですが、放置にしびれを切らして本職の許可を得ずに自習を始めた海軍士官候補生がROTCの候補生にチクられ放校になったという噂なのでやる気があり過ぎるのも危険。ですので卒業生が担当士官だったりすれば別ですが、どこに飛ばされて何をするかは運次第。当たりならNYやボストンの艦隊ウィークでお祭り騒ぎを楽しめ、ハズレなら田舎の港で修理中の船に取り残され車も使わせてもらえず退屈で気が狂いそうになる日々となります。

職業選択の夏

3年生は未来の職場のお試しセットを堪能。約1週間ごとに場所と内容を変えて続きます。水上艦艇プラス飛行訓練・潜水艦・海兵隊など。やたらと人数の多い士官学校の一学年全員がひとつの潜水艦に乗ったり飛行場に集合するわけにはいきませんから、少人数のグループに分けられあちこちに順繰りに派遣されるため各人のスケジュールはまちまちです。沿岸警備隊の士官候補生やROTCの人と一緒だったりもします。ちなみに外国籍の場合は潜水艦には乗せてもらえません。一応機密の塊なんで。

指揮統率の夏

体格に優れ武器に怯えた様子もないテロリスト役

4年生になる前の夏は士官としての役割を戦闘艦上で経験するサマークルーズをするのですが、人によっては嵐に巻き込まれたりします。詳細は前回の記事「ラビオリ怖い」に綴りました。まあ普通の士官学校の訓練航海とは言い難いので番外編とでも申しましょうか。

一般的には艦艇か飛行隊か海兵隊、シールズなどの部隊で下っ端士官のお仕事をさせてもらいます。CPOや水兵さん、海兵隊員さん達への応対法を学ぶ機会です。昔は士官じゃない方々との遭遇はとても少なかったのですが、今は指導教官的立場の下士官がちらほらと士官学校におります。とはいえずっと年上の相手を部下扱いするのは新しい経験です。〆は士官学校に戻って指揮技能を磨いたり対テロ/戦力防御を学び、合間に飛行適性検査や任官前スクリーニングが行われます。


橋建設でクレーン運転士に指示を出す海兵隊兵站部隊員

もちろん陸軍士官学校や空軍士官学校でも夏の間はいろいろな訓練をします。世界中に基地や訓練施設がありますし、サンドハーストなどで外国の士官候補生と一緒に訓練することも。たぶんですが海軍士官学校2年生の訓練航海ほどの放置プレイの可能性はないはずです。野外戦闘訓練や指揮統率訓練など、学年により内容が変わるのは海軍士官学校と同じです。
船は浮かぶ基地としても機能しますが、陸軍の場合は支援施設の展開に関わる訓練なども海軍より多いはずです。ぜんぜん調べてないです。絵柄はカッコいいんですが。

専門職養成訓練

Basic Training at the Ranger Rock陸軍士官学校での訓練の一環「レンジャーロック」にて
下の方にちっこい人間が4名いるの見えますか?

それから夏の職業訓練実習。これまた必修。陸軍、空軍士官学校も同じ。海軍士官学校の場合は遠洋航海(セーリング)以外のスポーツは職業訓練の範疇に入りません。内容は多岐に渡り、潜水艦、海兵隊、特殊戦の訓練、機動船/帆船の取扱習熟、潜水訓練、飛行適性検査、山岳戦闘、寒冷地戦闘、航空強襲、空挺訓練などいかにもそれっぽい響きのものから国内/海外での大型帆船紀行、プリーブサマーやNAPSや高校生体験合宿*のお守役から国際プログラムの手伝いまでのどれかをします。選択範囲は学年によります。うまくいけば3週間潜水艦でうまいメシを食って「運転」を一瞬任せられたり、飛行教官が操縦桿を渡してくれロールしていいよなどと囁いてくれます。

指輪をしたままの高校生リップグロスとネイルはキューティーピンクで決まり!
アクセは高校生らしく爽やかターコイズ
アースカラーに映える黒のトップとアイブラックで浜辺の視線を独占♡

  * サマーセミナー。略してナス。キューリやトマトと違い、面の皮が厚く煮たり焼いたりしないと食えない今日びの高校生達が来る。サマーキャンプは子供が遊びに行く合宿を指すが士官学校では将来の入学希望者へのお試し学習合宿。たった6日のこれに参加したからって入学出来るとは限らないしやってる事も実際と同じとは言い難いが、大変だからやっぱヤーメタとくる連中を事前に間引きできるかもしれない。受講する方は士官学校の様子が少しはわかるし泥だらけのカッコいい写真を残せる。たとえ入学出来なくても一般人に違いなどわからないのでほらが吹ける。

入学後 アクセサリーはヒル

で、いい加減に説明しないで参加した子に話を聞こうと思ったが行方不明なのでいずれまた。彼によれば空軍のは参加出来るかどうかすぐ決まって定員確定後は何を言っても無駄だが、海軍の方では期末試験の成績が出るまで当落がわからないとかなんとか。成績だけみてちゃ危ないんだけどね、ちゃんと士官学校について行けるかどうかという点では。空軍の態度のほうが好き。

世界に羽ばたけー税金で

Alaskan summer夏のアラスカ

そういったお務めの他に海外語学・文化留学、社会科見学、大使館体験、社会奉仕、お仕着せのインターンシップ(勝手にお父さんの会社でインターンとかは無理*)が希望でき、成績によっては夏期講習もとらなければならず訓練の順番などもあるので連続の長期休暇が取れるかどうかは人による。あとお金出せばもっと楽しいアドベンチャー系のプログラムも待っている。何十万とかかる費用は3年生ならローンが組めるので問題無し。

南極のオーロラ南極のオーロラ

もちろんそのぶん休みは減るが、夏のアラスカでカヤック三昧だとか冬休みの南極探検が休暇でなくてなんだというのか。もちろん目的は遊びではなくリーダーシップ能力の育成と、厳しい自然環境の中での緊急事態への対処法を学ぶ事にあるのだが。

* お仕着せといっても機雷探索イルカの訓練やハリケーンハンターになるより面白い会社事務はめったにないと思うよ。お父さんがマッドサイエンティストで秘書がランジェリーモデル兼スナイパーでもない限り。

地中海クルーズへGO!

セーシェルに浮かぶ船の甲板セイシェルへようこそ

プリーブと呼ばれる士官学校での最下級生。一年間ひたすら上級生の命令を聞く立場にあった身分は学年末のシートライアルとハーンドンモニュメント登頂で終わる。終わるんだけど夏の訓練航海を終えてアナポリス海軍兵学校のチャペルドームを拝まないと本当に2年生になったとは認められない。2年生用の徽章も貰ったりするけどまだ付けないでね、と言われる。そのような宙ぶらりんな地位で望む最初の訓練航海。一応インド洋がいいとか南太平洋でお願いしますなどと大まかな行き先の希望は出せるものの、世界のどこに送られてどんな船に当たるかはまったくわからない。そんな中、ある士官候補生は運良く希望した地中海を引き当てた。

この候補生はこれが初めての海外旅行。しかも同級生は誰一人同行しない。運の悪いのになると近所のハブ港に繋がれた揚陸強襲艦に50人まとめて送られたり、指揮訓練中の上級生と鉢合わせしたりしてあまり楽しくない毎日が待っているが、彼の自由度は高い。喜び勇んでボルティモア国際空港(BWI)へ向かう。命令書とパスポートと片道切符を握りしめて。

C130C130によるエアリフト

士官学校の生徒は一応軍人の端くれなので空軍や海軍等のエアリフトを使える。全国各地の主な基地から毎日数便ずつ国内と世界各国に向けて輸送機他が飛んでいる。これにいつでもただで乗れる。ただし空きがあれば、の話。当然ながら任務で乗る人が優先され、遊びに行く場合はひたすら空席待ち。

こうした基地に行くと普通の空港の様に行き先と出発時間や空席数が72時間先まで表示されたボードがある。乗りたい便があれば申し込んでアナウンスを待つ。名前を呼ばれたら機敏に行動する。その場にいなければスクラッチされ、次の便の待ちリストに名前を連ねることとなる。もし他の便にも申し込んでいて、そっちに希望をつないでいるのなら呼ばれた時に断る。だいたい出発の1−2時間前までには乗れるかどうかわかるが、今日はもうダメだと諦めてBOQに泊まっている夜の間に突然点呼されないとも限らない。ここで返事がなければ完全にリストから外される。複数申し込んであっても0から仕切り直し。

航空機の座席豪華な座席搭載

たとえ乗れた所で大抵はC130などの輸送機なのでバスの座席以下、ひどい時はメタル枠に網。リクライニング?温度調整?防音?何のことですか?まあ機種によっては普通のエアバス並みの機材を装備していることも。さすがにアミ椅子で大陸横断は無い…と思う。たまには民間機チャーター便に乗せてもらえたり、お務めの場合は普通の民間機に乗ることもある。

何しろエアリフトというのは基本的に基地から基地に飛ぶルートばかり。羽田みたいに大都市の真ん中から世界中の観光地に直接飛ぶわけじゃない。また基地によって行き先はだいたい決まっているので、例えばオーストラリアに行くならカリフォルニアの基地までたどり着かねばならない。ヨーロッパなら拠点のひとつドイツのラムスタイン基地に行きそこから各地域へ乗り継ぐ形式。出発/到着地点によっては民間空港へ行く方がよっぽど早い。

いざパレルモへ

タイコンデロガ級巡洋艦ナポリの港に停泊中のタイコンデロガ級巡洋艦

が、今回の勤務地は地中海なのでイタリアとドイツ行きの便が出るBWIへ直行。アナポリスは近所だし楽勝。卒業式のすぐあと出発した候補生、なぜかアイルランド経由でナポリ空軍基地に到着。乗り換えてシゴネラ経由シシリー基地へ。そこからお迎えのバンで数時間のパレルモに着く。

待っていたのはご他聞に漏れず修理中のフリゲート艦。ここで4週間、兵卒扱いで日中は艦のペンキ剥がしとペンキ塗りに精を出すこととなる。

艦上消火訓練

ペンキ屋稼業の他にも定時のミーティングや消火訓練くらいはさせてもらえたものの、非常に退屈。あまりにもすることがないのでしまいには船を離れて誰かの家の壁まで塗らされたりと便利屋稼業。とはいえその家は都会のまん中にあったため、景色を眺めたり外のレストランでお昼ご飯食べたりできたのがそれなりに嬉しかった候補生R君。何しろ初めての海外、しかもシチリア島ですから見るもの全てが新鮮です。

シチリアの夜

ギリシャで浮上する潜水艦インドア派には潜水艦がお薦め

さて、イタリアのシシリーといえばマフィア勢力の本拠地。当時はかなり派手にコルレオーネな地域であり、おかげできれいなお姉さんや個性の強い人物が楽しく遊べる所がたくさんありました。パレルモは大きな街なので、暇人である士官候補生は夜な夜な見聞を広めに出かけます。相方は海軍ROTCの候補生として一緒になったS君、フロリダ出身。何しろ普段は普通の大学生ですから当然のごとく遊び好き。その方面には明るい海軍士官候補生とつるんでお出掛けします。

他にも同じ船でペンキ塗ってた仲間が3人いたものの、彼らは遊び慣れてなくて夏の夜のアバンチュールなんて想像すらできない。せっかくの海外生活なのに船のバンクベッドを離れません。対してこのスーさんとあ〜る君は4−5日ごとに回ってくる当直の日を除いてバンクルームなんかで寝たことがない。誠に似合いのコンビであった。

真夏の夜の夢

画像はイメージです

そんなパレルモで出会った美姉妹、マリアとパトリージア。姉は黒髪の麗人妹は金髪の妖精。なじかは知らねど二人とも「アメリカン・ボーイ♡」と結婚すれば未来がバラ色になると信じこんでいた。ハッピーエンドのお伽話を夢想中のWシンデレラのお目当てはもちろん士官候補生*。なんたってそこらへんの水兵と比べたらいかにもプリンス・チャーミング。何が何でもアメリカ青年を落としてみせるという気概に溢れ返っていた。ただ、彼女らはお堅かった。異常なまでに。カソリックなのかなんだか知らないが。

女と見れば花を捧げるイタリア男共のまっただ中にありながらどうして恋人がいないのか疑問符の飛び交っちゃうイタリアンビューティーの二人。嬉しそうに映画やディナーに誘ってくれるのだが、着かず離れずのお目付のおばちゃんが見え隠れする。レストランでは数テーブル離れた席から見守っているし、映画館から出ると忽然と出口近辺に現れたりする。向こうから話しかけるでもなく何を邪魔されるわけではないがどこに行っても神出鬼没。疑問が氷解する。

姉妹はとっても魅力的で受け答えも早くて一緒にいて面白いのでプラトニックでも全然構わないとはいうものの、気になるっちゃなる。なにしろほんまもんのマフィアが跳梁跋扈する社会。触ってなくても触ったように見えただけで結婚を迫られるかもしれない。断ったりしたら次の朝バンクベッドの中に馬の首が入ってるかもしれない。いや、競走馬なんか持ってないから赤ペンキべっとりの刷毛くらいで済むかもしれないけど。

サッカーW杯合同TV観戦のため独艦を訪問する訓練航海中のアメリカ青年たち それ訓練か?

それはともかく地元に詳しいマリアとパトリージアのおかげでリゾートタウンに遊んだり結構豪華なご自宅にお呼ばれしたりで楽しく過ごすうち、あっという間に2週間が過ぎる。そうは見えないけど士官候補生の二人は仕事中なので次の寄港地、スペインのマラガに船とともに移動せねばならない。もちろん婚約するでもなくそのままさようなら。士官候補生は結婚なんかしたら退学ですからね。

* 同じフリゲートにアナポリスの最上級生もいたのだがお出かけの際はいつも士官(=おっさん)達と一緒だったため「ボーイ」包囲網にかからなかったのかもしれない。どうせ行く場所が若向きじゃなかったに違いないし。

hourse Handler at the US Marine Training base Animal Packing Course山岳戦闘訓練施設での1コース 機械化部隊の行けない所ではお馬さんなどの助けを借りましょう
関係ないけどカウボーイはイーハー。ヒーハーはロバの鳴き声です。お願いですから間違えないで下さいね

で、スペインに場所を移してもヒマなのは変わらない。闘牛を見て憤慨したり(何しろアメリカでは自分から志願して牛の角に刺されに行く丸腰の人間を振り落とし踏みしだいたウシが英雄として余生を全うする大変牛道的なスポーツが盛んですが、スペインでは闘牛士が出るずっと前に牛は瀕死の傷を既に負わされてるんですから)ワクワクしながらヌーディストビーチに行ってガッカリしたり。当時はまだスプリングブレイクで女子大生がもろ肌脱ぎで大盤振る舞いなんかしてない時代。男も女も今よりずっと裸に免疫がない。いくら自分は海パン履いてるとはいえ白いお肌が悪目立ちしてるし、ヌードなんて気まず過ぎた。 それに日焼けし過ぎてなめし革になってるババアのハダカなんぞ見たくもない。ジジイならなおさらである。ベイウォッチみたいなお姉さんはどこにもいない。聞くと見るとでは大違い。肩を落として立ち去るアメリカ青年達。

  今でも両親に無理矢理連れて来られた中学生の男の子が一週間の滞在中ヌーディストビーチで一度も目を上げられず、家に帰ってもしばらく親と口をきいてくれなかったという英国での事例がありますのでお子さんのいるご家庭ではくれぐれもお気をつけ下さい。男の子は繊細なんです。お母さんの○○なんて一生見ないでOKです。

こうしていらない知識と無益な見聞を深めながら暇を持て余して港町をうろうろ歩いていた士官候補生、海辺のあばら屋に何やら古い看板や旗が張り付いているのを発見。自分が住むのはお断りだがたいへん絵になる鄙びた風情である。近付いてみればそのうちのひとつはかろうじて布だとわかるレベルまで分解が進んでおり、風化した旗は半分ちぎれて落っこちかけている。

フラグ確定「俺、卒業したら結婚するんだ」「その旗拾わんとき」

パレルモの美女にお土産としてイタリアの旗を貰った直後でもあり、どれコレクションでも始めるかという気軽さでその半落ちを拾って帰ろうとしたところ、1ブロックも行かないうちに旗泥棒として逮捕されかける。誰かに通報されたようだ。ボロでも何でも盗みは放校処分となるうえ、よりによって他国の旗となると旗の扱いにうるさい軍の逆鱗に触れそうなので顔が引きつったが、あまりのボロ雑巾状態に警官もさすがに哀れを催したのか無罪放免。ただし旗は没収された。無駄足とはいえ通報者に何らかの満足感を与えねばならない宮仕えの厳しさよ。

錨を上げて

ジブラルタル海峡ジブラルタル海峡

コレクターへの道を断たれ思い出は写真に残すに留めたR君。またまた次の寄港地へ。海峡を渡りジブラルタルを抜けてキール運河へと進む。運良く国際的なレースが開催されており、街を挙げてのお祭り週間であったため大変楽しい時間を過ごす若い士官候補生達。せっかく船の暮らしにも慣れて来た所でお迎えのバンに揺られる日が来てしまった。名残惜しいが次の訓練が待っている。こうして4週を使い切ってドイツをあとにし、エアリフトで無事デラウェア州のドーバー空軍基地に到着。ヤングスター・クルーズ終了。夏の一幕が降りる。

コレクターズ・アイテム再来

求婚攻撃にバディシステムで対抗するアメリカ青年

幕が降りたと思ったのはお池のこちら側だけで旧大陸の夏のバカンスはヒンシュクものに長い。もちろん美女姉妹がそんなに簡単に諦めるはずもない。スーさんやR君は年回りもちょうどいい。そうこうするうちお姉さんは陸軍の誰かと結婚したと風の噂に聞いた。焦った妹からはお手紙や電話での矢のような催促。世間から隔離された士官学校の忙しい日常でなければきっと根負けしていたであろう。何しろ妹は姉よりさらに美人なのだから。

しかもその手紙の手筋たるや、カリグラフィのお家元かというような飾り文字の達筆。そのうえ完璧なシンデレラ城英語。見目麗しい上に内容もファンタジア。俺っていつからプリンスだっけ?思わず同室の誰彼となく見せびらかしたくなるものすごさ。この若さで身を固めるつもりなんか毛頭ないのだが、手紙はとっておく。だってお前、どこのお姫様から隣国の王子様への恋文だよってな文章が美術品レベルの文字で綴ってあるんだぜ?モテた証拠はとっておかなきゃな、写真も一緒に。きっとスーさんにも同じようなコレクション物件が来ているに違いないがそのへんは無視する。

ワンダと訛りとばかばかしい奴ら

女の子が好きな候補生を選んでキスできるパレード 実在します

進展のなさにしびれを切らした妹はついにアメリカに移住。米国民と結婚したお姉さんのおかげで移民できたのだろうが、そのお姉さんは後に離婚。あれほど夢見ていたのに、いつまでも幸せに暮らしました、というお伽話の結末には残念ながら辿り着けなかったのだ。そのニュースを知らせた電話に、R君はガッカリする。声は同じ妹のものだが、かってあれほどフォーマルで美しかった彼女の英語がアメリカ暮らしで俗語にまみれてしまっていたのだ。そりゃあパレルモでだって時々は言い回しが堅かったりしたけど文法は正しかったし、ヨーロピアンアクセントの英語がまた愛らしかった♡のに残念〜なんだそうだ。言ってろ。

*アメリカ人は欧州系の訛りに弱い。ちょっとそれ風のアクセントだというだけでその人物を見る目が雲りまくって実態が見えなくなる。だからインテリぶったつもりで英国訛りを模倣する奴や即席のおフランスなまりで女を籠絡せんと画策する連中がゴマンといる。

知り合いの地味な顔のおばあさん(それ以外に形容詞が見つからない)はそのイギリスアクセントが功を奏してか、「ただつまらなくなったから」離婚した医者の元夫が貢いだ慰謝料で遊んで暮らし、70に近いというのにデートや結婚を申し込む金持ち男が後を絶たない。再婚すると毎月の遊興生活費が絶たれるので誰とも深い仲にはならない為、振られて落ち込む男どもが引きもきらないのがまったく謎。で、あの老女のどこがいいのか聞いた所、45の男に「セクシーじゃん?特にあの発音が」と素で返されて耳を疑った。そこですか?
そりゃNCISのジヴァの喋りが男受けが良かったのは確かだけど、若さと美貌がなくてもそこそこイケてたかもしれないのか・・・。

このお話の教訓

狙いは正確に お薦めはいつまでも貴女に忠実な犬

海軍に限らず、士官候補生は忙しい上に結婚してはいけない決まりです。ので、狙うなら卒業間近の生真面目なクリスチャンやもうとっくに卒業して少し自由時間の増えた三十路にさしかかった奴を狙いましょう。あまり若いとまだ遊びたい盛りですのでいきなり結婚は難しいでしょう。もちろん男は女のこととなると思考中枢が頭から1mほど下に移動しますので、たった半日彼女と一緒に過ごすために吹雪の中片道数時間運転したりして凍った路面で神経をすり減らし、だから止めたのにと父親に呆れられたりしますが、そこまで彼氏がしてくれたからといって結婚までこぎ着けるとは限りません。ので人気種のヨーロピアンアクセント(ポーランドなまりとかは不可)などをものにして今のうちから自らの差別化を図っておきましょう。


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