モビー・ディックとサムソナイトの舞踏会

海軍兵学校士官候補生の整列

 アメリカで士官学校に女性が受け入れられたのは1976年。初期は男女両方にとって辛い時期だった。男は体力が劣る(例:障害物の高い壁を越えられない、懸垂が出来ない)女の子に低い壁が与えられるのを横目でみながら泥だらけになる。女の子は何でも男以上に出来ることを証明しようと頑張り過ぎて女性ならではと思われそうな特性や本来の女性らしさは捨ててしまう。なのに既得権のレディ・ファーストは要求する。結果死ぬほど嫌われる。

アメリカの士官学校の女性候補生オニババみたいに写ってますが彼女は美人でした

だがイジメの話は聞かない。何しろアメリカの女は素直にいじめられるようなタマじゃない。特に70-80年代の、単にダメだといわれたから男の分野に入ってやろうじゃないの的な女は今の若い人達とは別の生き物(例:ヒラリー)である。
考えてもみろ。一体どんな女がわざわざ軍人になろうとする?怖いぞ。
 口では勝てないし、生活態度に難癖をつけようにも大抵女の子の方が整理整頓予習復習を欠かさないので付け入る隙がない。

Commander in chief trophy女の子に甘いアメリカ男子

かといって唯一勝てる(かもしれない)上腕三頭筋は対女性利用を物心つく前から理由の如何に関わらず制限され洗脳済み。男同士のケンカでさえ、足蹴りは卑怯だというので使わない奴が多いくらいだから社会通念は恐ろしい。そもそも士官学校ではケンカも体罰も禁止されているし使う必要もない。言っておくが同級生は辛いプリーブ(最下級生=一年生)時代を耐えぬいた同志であるし、忙しいので他人に構う暇はない。そして上級生なら自分の手が痛くなるようなことをせずとも腕立て500回とか単に命令すればいいだけ。それにアメリカの男は何だかだいっても最終的には女に甘い。どっちかってーと女同士の方が厳しい。だから、もしイジメられたという女がいるとすればそれはプリーブ時代のことを言っているのであろう。君だけじゃないから安心しろ。男はもっといじめられてたんだぜ…。

 もちろん士官学校にも可愛い子*がまったくいないとは言えないが、可愛いのにそんな面倒な学校に行って大変な思いをしようという奇特な子はあまりいない。男の子に荷物持ってもらって学校まで送り迎えしてもらうほうが人生おおいに楽じゃないか。だが、時々例外もある。陸空士官学校並びに沿岸警備隊士官学校というか海上保安大学校などから交換学生や留学生が兵学校にも来るのだが、よそに来て緊張が解けるのかそれとも元からくだけているのか多少なりとも女の子っぽい言動をする女生徒が出る。いい意味で。

girls watching Herndon climbing

 そんな中でも米海上保安大学校からのある年の交換学生は美人で明るく働き者で、あっという間に人気者になった。彼女は部活にセーリングを選び、たくさんの友達と楽しい日々を過ごした。その頃のアナポリスは部員のほとんどが全米代表か後のオリンピック代表、ぶっちぎりで上手だった。それでもヨットレースで体重が軽くて機転の利くクルーは千金に値する。なのに。沿岸警備隊の士官学校に戻った後、ジャイブ時にブームが頭部を直撃し、彼女は若くしてこの世を去ってしまった。

 軍隊だけではない。沿岸警備隊でも、訓練時や業務中に死亡する人員がいる。よく紛争の最中に毎日の戦死者数をカウントし声高に平和を唱える人がいるが、その数の中には戦死ではないものも含まれているし、平時でもそのくらい死亡者がいたかもしれないのだ。平和を維持するにも、釣り人の安全を守るにも自らの命を代償にして日々訓練を続ける方々がいることを忘れてはならない。

 急に思い出したが、ハリウッド映画で沿岸警備隊が悪者であったためしがない。上院議員と陸海軍は必ず極悪人なのに、羨ましい。とご近所の沿岸警備隊員に愚痴ったら皆さん複雑な顔で、「でも、必ずヘリの海上レスキューが出るよね〜。あれ、管轄うち**じゃないんだよねー。あと、船もたいていあんなカッコいいのじゃないんだけど、絶対本物は出ないよなー」とのたまった。あ、そうなの? そういえばお船はぼてっとしたのが多いかなあ。でもいいじゃないか、いつも正義の味方なんだから。たとえ土左衛門専門だとしても。
 しまった、ちっとも白鯨にたどり着けん。スマン、携帯持ってないから短文の訓練が出来とらんのだ。

prince-william制帽だとおつむりの具合が見えず男前が上がります

 女の子とクジラと何の関係があるのか。
 まず、士官学校の状況説明から。米国の各士官学校でいうと生徒4千人超。女もいるけど話にならない。ごめんなさいあなたのことじゃないです。他の全員のことです。で、入学しただけで地元の新聞に顔写真入りで載るようなステイタスで、収入の良い安定した就職先が鼻先にぶら下がっているガタイの良いカッコいい制服制帽の男、うまくすれば英国王子でハンサムで優しいのが混じっているかもしれないのが数千人いれば女が放っとかない。嘘ではなく、大型バスを連ねて女子大生が来るのだ、大挙して。その大量の女をさばく専門の委員会が任命されるくらいだ。

 委員長は綺麗なお姉さんの少ない学校からのご要望には「すいませーん、その日は駐車場がちょっと…。」などと、士官候補生に嘘は許されないので倫理観にあふれた方便を使う。その舌の根も乾かぬうちに「何月何日のイベント用に女子大生を237人4時25分に○○ホール前に届けて」などと各大学に指定注文。どんな女衒だよ。普段でもこれだからスポーツの試合が重なる週末は大変だ。父兄まで押し寄せる。ただでさえ交通規制と見学/駐車規制が必要なのに、何か特別なイベントなどあると大統領や女王陛下までお越し遊ばされちゃったりなんかして、彼の采配は非常に重要となる。
ちなみにこの仕事は何万人単位の宿泊や移動の手配に晩餐会の用意などを一手に引き受けるため、普通の社会に出ても充分潰しのきく能力となるだろうことは間違いない。政財界に顔も広くなる。一介の若者なのにですよ。

 そのぐらいだから女に不自由はしないが、遊ぶ時間も機会も実はあまりない。何しろ籠の鳥。土曜日だって半日学校に縛られる。朝の授業のあと昼食は校内でとらねばならない。いつも通り、お昼だから朝礼ならぬ昼礼をこなし、寮内から隊列を組んで行進し、一年生ならまたもや上級生の質問攻撃に耐えながら食事をしたあとやっと外に出ることが出来るのだ。出るといっても制服でどこの生徒だかバレバレなので、どこかでお着替えを済ませるまでは到底不品行は出来ない。そして夜には学校に帰っていなければならない。まあ日曜の夕食に間に合えば何とかなるけど。この辺は学年で違うので別の機会に。

Herndon climbing楽しい共学校 状況がわかりにくいでしょうが

 自校女子生徒と仲良くなろうにも、女子の部屋に男が入るなど許されない***ので、ドアを足で押さえて開け広げ何もやましいことはしてませんアピール全開で、廊下でお話しするのが関の山である。もし候補生が妊娠などしようものなら、相手が士官学校の人間でなくとも退学である。ま、4年生でもうすぐ卒業で事を荒立てたくないので何とかなった例もなくはないが、卒業後処罰されたはずだ。そういう不始末はスキャンダルになるほど稀である。まあ、自校の男に手を出されるほうが稀であるが。

Herndon climbingでかいので全体像の写真が難しい舞踏会場
しかも上下2階両方で開催とか

 イベントの中にはいまどき珍しい大時代なものもある。例えば舞踏会。本当にお城の舞踏会。現代のお姫様達も裾を引かんばかりのドレスに身を包んで大量に登場する。男子士官候補生はもちろん礼装サーベル付き。各国大使のご令嬢令夫人が色とりどりのお国の民族衣装で踊る姿はそれはもう、絵巻物のようでございます。しかし。大きなホールの片側に男が、反対側に女性が並んでいるとしよう。男は馬鹿だから、音楽が始まると一気に女の子に駆け寄る。4000人がサーベルがしゃつかせながら突進して来る。その異様な光景に女の子はビビります。しかもどういう訳だか男のほうが数が多い。ご令嬢に壁の花はさせられないということなのでしょうか。

Herndon climbing隣の隣の別の会場 普段はジムその13
冬は最近までスケートリンクでした

外交官抜きの普段の舞踏会は生徒が招待したお友達や教官の家族ばかりのはずですが、それでもやはり男の数が圧倒的。そういう間違った状況では、女の子は端から男のダンスへの誘いを断ります。腰が引けています。もしくはジョニデにもブラピにも似ていないというだけで断ります。男は当然へこみますが、5人くらいに断られた時点でヤケになり、断られた回数自慢を始めます。ごめんなさい歴が連続10人を超えた時、彼らは立ち向うべき目標を見つけます。
 男には負けるとわかっていても戦わねばならない時がある。そして彼は勇気を振り絞り、なるべく魅力の少ない大柄の白人のお嬢さん(モビー・ディック)にアタックをかけはじめます。アレにまで断られたら今夜はそいつのひとり勝ちです。これを白鯨狩りといいます。男のロマンです。

ダートマス王立海軍士官大学では夜外出が許されるので、やはり白鯨狩りが横行するという。クジラでなくGRIMと文学の香りのかけらもない、身もフタもない名称である。まあ童話の元は恐ろしい話ばかりであるが。で、或る夜これ以上はないという人三化け七を引っ掛けて勝ったつもりの男に女がこう言った。あんたブス狩りしてるんでしょう。あのね、今は士官学校にも女がいるのよ。だから、今夜の狩りは私の勝ち!以上、イギリス小話。

Commander in chief trophy女子トイレ 船のトイレはヘッドと呼ばれる

  ちなみにいろいろ隠語があり、どれも女の子→お荷物→スーツケース→サムソナイト、などと進化していきます。毎年変わるのと、学校によっても違うので列挙しません。他にもよく使われるくだらないフレーズ(Wham, bam, and Thank you, ma'am 等)が多々ありますが、何だか誤解を招きそうなので止めておきましょう。そういえば今でも女子士官候補生をウーバ****と呼んでるんだろうか。日本語の「姥」の意味を教えたらなんかみんな納得してたけど。

  校内では人目を気にしないといけないのでたいしたことは出来ずそんな暇もないが、外に出れば別。特に海外ではかなり自由度が増す。たとえば、アナポリス海軍兵学校ならば大西洋太平洋横断やバミューダまで帆船で訓練航海に出たりする。途中あちこちに泊まる。お金持ちの避暑地などもたくさんあり、なかには若くて生きのいい男が来るのを待ち構えている方もおいでです。ここに自由時間を満喫し初めて訪れた異国の地に浮き足立ち開放的になっているイケメンの士官候補生がいるとする。突然ロードスターが停まり、遊びに来いなどと声をかけられる。見れば多少年増だがなかなかの美人でお金がうなっていそうなオバさんが流し目を送って来ている。秋波に絡めとられてたいていはのこのこ付いていく。が。女に不自由していない男には選択の余地がある。

  そいつの自己申告によれば、オバさんの豪華なコンドミニアムに行ったが、彼女があまりにもストレートにエロかった(さあ、かかっておいで!)為、からかうつもりで焦らしていたら懇願モードになり、ニヤつきながら突っ立っていたら目の前で自分で始めたのでちょっとびっくりして結局何もせずに帰って来た。しかも今や南の島にしか残ってないだろうというような可愛らしいレンタ・ベスパに乗っていた所をナンパされて帰りの足がなかったので当のクーガーオバさんに宿舎まで送らせたというのだった。普通なら絶対信用しないところだが、そいつは超美人なJKの彼女にもう我慢出来ないとかささやいておきながら、彼女が即座OKしたら急に醒めてその場で別れた過去がある(その彼女が泣きながら抗議してまわりにバレた)のでもしかしたら本当かもしれない。

C5で移動サンディエゴ発バーレーン行きC5

  それに、士官候補生は軍用機に空きがあればただで世界中の基地まで飛べる。毎日あちこちの基地からヨーロッパや太平洋方面に数便ずつ出ているのだから好きなのに乗ればよい。今はそれほど簡単ではなくなったと聞いたが、いいんだよ候補生の質も落ちてるんだから。とにかく、たとえ防音されてなくて爆音の中で数時間音楽も聴けず横並びベンチに坐る軍用機での旅だとしても簡単に海外に行けるとなればあちこち旅行したくなるのが若者の常。で、あちこちに女友達を作って帰ってくる。
本当に単なるお友達だったのに向こうがそう簡単に諦めてくれないこともある。第三世界なら、その士官候補生は夢の先進国への鍵だ。何が何でも惚れてもらわねばならない。アイキャッチ入りのキラキラな瞳の写真付きの手紙がわんさか来る。そういう写真は本のしおりや飲み物のコースターになる。ヤバそうな個人撮影動画も来る。捨てる。ヨーロッパならアメリカ人海軍士官候補生、アメリカでは英国人が異国情緒たっぷりで人気の的になる。世界的にMMK状態である。こっちも初めて行った海外旅行で浮かれて、イギリス女性は世界一美しいなどと口走る。若いっていいな。

ほらね、想像力を広げて少し脚色しよう。TVシリーズくらい軽いでしょ。まだまだ序の口だぜ。



作業服冬服作業服のタイピンは今年から。先がヒラヒラして邪魔。またシャツに入れる方式に戻る、に一票

注* こないだウエストポイント陸軍士官学校に行ったら割と可愛い子がフツーにいた。時代も変わったものだ。その後アナポリスに行った。時が止まっていた。

注** 恐らく自分たちの隊の管轄じゃないという意味であろう。だって沿岸警備隊のレスキューっつったらヘリだよな?

注*** 受け入れ当初はわりと適当で、別に部屋に入ろうがドア閉めようが誰も気にしてなかった。何も起こりようのないラインアップだったというべきか。今は学校にもよるが、もし閉め切った部屋に男女がいて、上級生や士官がドアを開けた際に二人が密着(着衣で隣同士にベッドの上に座るレベルでも)していようものならかなり困ったことになるらしい。何しろプリーブの部屋に入るのにノックは必要ないからドアなんぞ閉めていても開いているのと同じである。異性の同室時はドアは全開、照明も1万ルクス位は必要。
 たとえ他に何人もがいたとしても、ベタベタする機会を与えたということで怒られるので見て見ぬ振りはしない可能性大。つーか他人が見てるとこでいちゃつくなよ。それに男。お外にいくらでも気だての良い美女がいるだろが。呼ばなくても女が押し掛けて来る環境にありながら何もウバ(女子士官候補生)の手にかかり暗黒面に堕ちずとも良さそうなものを。。。敗北主義者め。

注**** 在校生に聞いたら、ウーバという言葉は知っているが不用意に使うと今やセクハラになりかねないとか。その時はもうひとつの意味、作業着冬服(Winter Working Blue)の話だと言い張るしかない。


girls watching Herndon climbing

補足:70年代中盤から普通校ですら男女機会均等ということで、例えば女の子のサッカーチームを作ったので数あわせに男ばかりの野球部を潰すなんてことが起きた。当然男子生徒の機会は減ったわけだが、法により女子に対する運動部予算と機会が均等となって40年、アメリカでスポーツにいそしむ女生徒の高校卒業率は向上、自殺率と未婚の母率は減少、精神的にも肉体的にも素晴らしい数字の伸び方を示している。オリンピック等での躍進も含め機会均等の良い見本となるだろう。頑張る精神やチームワーク、克己心を学べる上にスリム化にも貢献するわけだし。

火器習熟訓練火器取扱習熟訓練中

そして2013年。いまや女性も軍の危険職に付けるようになった。危ない所にも行ってるんだけどね、今までだって。戦地で絶対安全な職なんてあまりない。これで「女だから安全な所にいたんでしょ」的な偏見はなくなるだろう。
また出世コースの多くはそういう職務につく事が必須なのでさらに女性将校が増えるだろう。おめでとう。どんどん死地に赴いて下さい。もうヒラリーといえど文句の付けようがなかろう。男女の区別が消え、本当の平等の来る日を心から願う。アメリカって結構男女の意識強いからね、言葉からして既に。
敬称どっち付けていいか困るから手紙には性別書いとけパット。パトリシアなのかパトリックなのかはっきりして下さいお願いします。全部「様」でいい日本が懐かしい。


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