チャウコール: 人間目覚まし時計の憂鬱
士官候補生の優雅な日常…NOT!
士官候補生の日常生活について。今回はチャウコールをご紹介します。普通の大学生とは天と地ほどにも違う生活を余儀なくされている士官学校の生徒たち。やってることは勉強なんだけど年季奉公契約済の公務員であるため放埒な大学生活を送るなど夢のまた夢。試練を乗り越えることで自己満足出来るタイプかつ社会のたーめならエーンヤコラな人材でないと幸せには浸れない。
毎日の生活は分単位に細分され好き勝手は許されない。だから士官候補生がしてしまった規則違反だとか不品行というのは一般人であれば常日頃しているようなたわいもないことである。いわく、トイレに入ってたらなかなか出なくってぇ、集合に45秒遅れちゃった、ごめんね☆とか、机の上に教科書を出しっぱなしにしたまま寝ちゃった、ウフ♡レベルのそれはそれは些細なことさえ許されていない。出ないウンコなんか一日我慢するしかありません。勝手に怪我することすら禁止。身も心もお上に売り飛ばした身の上である。
もちろん外部の人間の想像する士官学校での生活にそんな無茶な設定はないので、士官学校におけるあり得ない出来事やバカ話をしてもふーん、だからどしたの、的な緩い内容に聞こえるかもしれない。とりあえずひとつ断っておきたいのは、このサイトにくだらない話ばかり羅列してあるからといってそれが常態ではないということです。これらずっこけブルーパーは特異点、珍しい出来事であり、普段の士官候補生の日常生活にはそんなボケをかましている余裕は一切ないのです。
だがしかし、その普段の生活にこそ民間人の想像もしないような特異点がひしめいている。本人達はそれが普通だと思っていて深く考える暇もお外の友達と身の上をひき比べる機会もないので話題にしませんが。
例えばチャウコール。これは割と有名で言葉くらいは聞いたことがある人がいるでしょうが、実際聞いた人は卒業生在校生に限られます。今は YouTubeなどで捜せば少しは雰囲気を掴めますが、本チャンをやってる間は忙しいので携帯動画を撮ってる時間も自由もありません。
爽やかな朝の日課
では一体チャウコールとは何でしょうか。
以前士官学校の食に関する記事でチャウホール=食堂と紹介しましたが、チャウは食事のスラングです。士官候補生達は全員揃って大きな食堂で一斉に食事を摂ります。
食堂に行く前に整列したりみんなで行進したりごはん食べるだけでもいろいろ大変なのですが、朝は特に忙しくなります。昔は朝食は決まった時間帯があり自分の都合の良い時に行けたのですが、今はどうも多くの士官学校で義務として一斉に食事し、土曜日だけビュフェとかになってるみたいです。まず課業整列をしてから皆で食事、その後授業。
食事というのはどうしてもカオスな部分がつきまとうので、昔のように朝の雑事をすべて済ませてからフォーメーションで背筋を伸ばし、整列して授業に向かう方が一日の始まりとして爽やかな気がしますが、どうしても義務の食事を増やすと言うならまあ朝食でしょう。朝を抜いてスニッカーズで済ますような不摂生に染まると体力が続きません。
それはともかく、朝は早起きしても許される時間までもが決まっており、当然起きなきゃ許されない時間もやらなきゃいけないこともたくさんあります。身仕舞い掃除片付けベッドメイクなど完璧状態にして一日が始まります。あとでするとか半端なやっつけ仕事で誤摩化すという選択肢はまったくもってありません。
あさごはん。なんか今の時間割と違うけど面倒なので昔の順序でいきます。食べてから朝礼。朝起きて決められた時間帯の中で各自勝手に朝食。食堂の自分の分隊の指定エリアにいくとウエイトレス&カートがすぐ来て暖かいものを給仕してくれます。たとえ近所に先輩がいるにしても全員揃ってるわけじゃないので多くのプリーブにとってこの朝食だけが多少の自由が満喫出来るごはんだったんですがねえ・・。
だって上級生と一緒だとその日の時事問題最低3つとか軍事専門分野とか自校の全てのチームの勝敗結果と点数まで聞かれまくって食べる暇ないんだもん。。。
とにかく1/3のプリーブは早く寮に帰って朝礼の10分前と5分前にチャウコールをしないといけません。各中隊セクション(大体同じ棟の同じ階)に9箇所程度あるステーションで各一名がメニュー他を叫びます。数は中隊の人数によります。
この後朝礼というかフォーメーションをします。その日のスケジュールや訓示や行事などの連絡事項が伝達されます。雨の日やすぐ暗くなる冬の夕方などは室内で。すいませんアナポリスは冬中ずっと室内です。軟弱です。室内ならカンパニー単位、外ならブリゲード単位で行われます。義務の全員会食の場合、フォーメーションのあと隊列組んで食堂に行き食べます。お昼のが有名ですね。一部始終を映像でご覧になりたい方は「士官候補生の日常」記事をご参照ください。
人間目覚まし時計
チャウコールは当番のプリーブ(一年生)が全ての廊下の端に立って大声でメニューや何かを早口でそらんじるのですが普通の人にはたぶん何を言ってるかわからないでしょう。ひたすらうるさいので上級生のなかでも朝食を抜いてギリギリまで寝てる奴の最終目覚まし代わりとなります。5分間隔で2回やるのでまるでアラーム時計のスヌーズボタンのように機能します。
寝ている彼らも惰眠をむさぼっているのではなく、そうしないとまともに活動出来ない睡眠時間の長いタイプ、もしくは徹夜勉強を余儀なくされた人物であろうかと。もちろん前の晩にヒゲ剃ったり全て用意し並べておいたりタイを事前に結んでおいたり、準備は怠りません。まあ大抵は朝ご飯は食べます。たとえ義務でなくても基本的に朝早く起きてきちんと食事をとり、チャウコールが聞こえる頃には何か生産的なことをしていなければ卒業が危ういからです。
チャウコールの中身
「メニューやなにか」というのは何かと言うと。こんな感じ?正しい和風の言い方わからないあるよ間違ってたらごめんなさい。自衛隊の皆様、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します。
サー、朝/昼/夕礼まで10分となりました!本日の朝礼は0000(時間)より室内/屋外で催行!制服指定は夏服作業着です!朝食献立は:林檎ジュース葡萄ジュース蜜柑ジュースシリアル各種繋がりソーセージ焙りベーコンバターミルクパンケーキメープルシロップブルーベリーマフィンベーグル全粒粉トースト個別包装バター蜂蜜クリームチーズミニパック新鮮な果物ヨーグルト各種低脂肪乳無脂乳と珈琲であります!本日の当直士官:当直士官はXXX大尉、中隊管理担当官。候補生当直士官は候補生XX、倫理委員会副会長です!本日/今週の論題は対潜戦です!本日の主な校内行事は校長訓示!朝/昼/夕礼まであと10分であります、サー!
これをできる限り早く言う。5分前にも繰り返す。何言ってるかわからなくても廊下のボードとかにこれらの情報は書いてあるので聞いてなくても死にはしない。だが聞いているのは全員これを一年みっちり鍛錬した方々なので間違えたらバレると見ておいて損はない。意地クソの悪い先輩が献立表と首っ引きで一言一句同じかどうか確かめてたりするからね。そう、内容が正しいだけでは足りない。献立表に印刷された通りでなければ本当は許されないのです。笑える誤字とかあったらどうすんだ。。。
で、なぜこんなことをするのか。肺活量と暗記力強化のためです。将来仕事で必要な規則やチェックリストや情報を電光石火で記憶し、それをいつでも引き出せるようでないと困る場面が出てきます。たとえそれがどんなに無味乾燥でどれもこれも似通っていたとしても。その訓練としてチャウコールは役に立っているわけです。だって食事のメニューなんて怪獣図鑑と違って興味湧かないでしょ。レストランで好きなものをオーダーするわけじゃない。それなのに勝手に誰かが決めた三食の細目をケチャップやピクルスの類に至るまで毎日覚えさせられるのである。
チャウコール当番じゃない残りのプリーブもメニューはいつ先輩に聞かれないとも限らないので必須暗記事項。昔はその日の分だけで良かったのがいつからか一週間分覚えさえられるようになった時期も。まあそれじゃ聞く方も覚えてやしないのでかえって楽かも。一応現在は3食分先まで覚えていればよいということになっている。
その3食分、もしくは3日分のメニューを教えてくれるアナポリス海軍兵学校士官候補生謹製の無料アプリ「NEXT MEAL」がありますんでご興味のある方はiTunes App StoreやGoogle Playでどうぞ。時差がありますがその日のメニューが出ます。「もっと見る」で全品目が、「Extended」で数日分が表示されます。さすがにケチャップマスタードまでは書いてませんが、これがそらで言えればあなたもプリーブ?
それやこれやでプリーブは基本いつ何を誰にきかれても答えられるようにしていないと難聴の危機が待っている。アメリカの士官学校では相手に指一本触れてはならない規則(一年生にライフルの持ち方を教えたり制服を直したりする際やむを得ない場合を除く。肩ポンすらダメ。女の子なんか見てもダメ)だし使いっパシリ用事を言いつけても規則違反だし意味不明の命令は許されないので突然メガネが飛んだり歯を食いしばる必要は全くない。が筋力など一切使わずともできることはたくさんある。なにしろ発想がクリエイティブな人物や言語読解能力に長けた人材が毎年補充されますんで、校則の新入生いびり禁止項目の言い回しは年々断定的になっていく。ちなみにチャウコールはイジメではありません。任務です。課業整列のお知らせコールです。
プリーブに科せられる苦行はいま現在すべきことから感情・ストレス・近未来への心配などを分離する訓練。周囲の状況に反応するのではなく、冷静に分析し最善と思われる行動をいつも取るようでなければ戦地で生き残るのは時の運ということになってしまう。指揮官がそれじゃ危なくってしょうがない。だからプリーブ時代というのは士官養成システムの重要な一部なのです。
実際問題として現在紛争が続いており、卒業したらいつ戦地に向かわされるかわからない。前線で想定外が同時多発して突然気がつくのだ。この日のために士官学校のプリーブとして一年しごかれて来たのだと。めちゃくちゃな状況に直面した時、土壇場でなぜか脳内が冴え渡り、とるべき行動の全てと可能性の有無、考えられる結果のいくつもが思い浮かぶのだ。はずだ。ちゃんと責任を果たす上級生に当たればね。だから頑張ってねプリ−ブのみなさん。
ただ唱えるだけで簡単そうに見えるチャウコールだが聴覚障害の起きそうな音量で怒鳴りまくる上級生の顔が3cmの距離にあってみれば気が散ることおびただしい。これもどんなストレスの下でも記憶を引き出し、砲弾飛び交う中冷静に最大音量で叫び返さなければ死ぬかもしれない状況に対応出来るようにする特訓なので真面目に取り組まねばなりません。だがどんなに真面目に取り組んでもどうしても上級生様のお眼鏡に適わない者も出る。
男声1(ゆっくり)
例えば南部の人間。本人は最速でメニューを叫んでいるつもりなのだがどう聞いても遅過ぎる。貴様やる気があるのかぁー!いや十二分にあるのだが、他人からするとわざとですか?みたいな ゆ っ く り チャウコール。siriに向かってひとつ目の単語を発声してる途中で思いきりweb検索結果に飛んじゃう遅さ。南部の紳士であれば仕方ない。NYの下町育ちと違い口に加速装置はついてない。このプリーブもどんなに上級生が煽ってもゆーっくりなまま。本人が早いと信じて疑わないのだから当然何を言われても動じない。飛び交う怒号をものともせずマイペースでチャウコールを繰り返す彼にさしもの先輩達も為すすべもなく。しまいに周りが疲れてお咎めなしに終わったようだ。堂々と自信に満ちていれば人生どうにでもなるものなのですよ皆さん。
めったに乗らない前国営鉄道の改札で折鶴となった大人用切符を出した途端腕を掴まれて「君、小学生?!」と詰問されてもとっさに元気な声で「はい!」と明るく答えたんで驚いた駅員さんが手を離してくれた高校生が実例です。自信さえあれば障害は取り除かれるのです。でも小学生の頃から老け顔で背が高かったせいで無理矢理何度も大人料金を払わされた恨みは忘れません。世田谷線は長い間運賃が安過ぎて(20円とか)存続が心配だったので大目に払ってましたが。
ええ、こんな私ですから、自分のかわりに社会を良くしてくれている真面目で真摯で紳士な士官候補生の実態を皆様にお伝えしたいと心から思っているのです。
たとえばですね、プリーブは否応なく上級生と賭けをしなければなりません。いつも自校のスポーツチームが勝つ方に賭けさせられるのです。勝てば娯楽室でCD聞いてもいいとかDVD見てもいいなどの身に余る光栄をかみしめることができますが、負けるとお仕置きが待っています。
月に代わってお仕置きよ♡
例えば左折を禁止されるとか。廊下を曲がるのに右折を3べん繰り返すことになります。あるいはお尻を失うなど。イヤラシいことを考えている穴た…いえ貴方、そういう意味ではありません。トイレに行きたい時、あるいは食事のテーブルにつくときなど、お尻を必要とする行動の際にあらん限りの大声で臀部借用の許可を求めることになるだけですのでご安心を。「水上スキー」は小便器2つに片足ずつ突っ込んで水を流しっぱなしにする刑。「エレベーター旅行」はガムテープなどで椅子にくくり付けられた被害者がエレベーターに乗せられて数時間昇降を繰り返す刑。もちろん士官候補生はエレベーターの使用を許されていませんから乗ってる人は規則違反です。「暗殺」は食事中にテーブルの下に潜り上級生の磨き抜かれた靴にケチャップマスタード蜂蜜をかけて回ること。かけてる最中に見つかったりしたら地獄が待ち受けています。捕まったアサッシンの末路は悲惨と決まってます。
マインスイーパー
もちろんやられっぱなしとは限りません。運良く逃れられた場合は別人が椅子に立って暗殺計画の成功を恭しくアナウンス。途端に全員がテーブルから飛びすさって自分の靴をチェックする珍しい光景が拝めます。また先輩の部屋の天井裏のあちこちで15分おきにアラームが鳴るようにセットした時計を隠して一晩中眠れないようにしたり。リベンジが過ぎたために最下級生よりさらに下の5等兵にまで落とされた強者プリーブもいたそうです。証拠残しちゃダメじゃん!
アサシンクリード
このように元から与えてもらってない人権をさらに削り取られるのだからプリーブは辛い。自分が出たわけでもない試合で自校のチームが負けたせいで何の因果か夜中の3時に上級生の部屋に押し入ってチャウコールをして来いと言われるのである。やる方もやられる方も心臓に悪い。いっぺん言い終わるなり復唱してもいいかどうか大声で尋ね、返事も聞かずにしつこくチャウコールを繰り返せとの厳命を受けている。双方翌日眠くてしょうがなくなる。これも訓練ーたぶんーのうちだから後で笑い話にできるように一年頑張らねばならない。そうはいってもやはり人間、一度持っていた権利が剥奪されるとかなりこたえる。ので、なんとかこれを回収出来ないかと考える。
5分じゃなくて300分前にチャウコールをしろと言われたドキュメンタリー。寝入りばなだよな、先輩も可哀相に。他の負け組は軍曹の部屋に同時突入。非復唱型暗闇紛逃走作戦。クリアしても何も貰えません。
チャペルドームの魔法
アナポリス海軍兵学校ではチャペルドームのてっぺんに水兵帽(ディキシーカップ、新入生訓練の時にかぶるもの)を乗せることができればその年はプリーブに人権が戻ってくるという伝説がある。当然だが屋根の上に登るのは禁止事項。毎年跳ねっ返り達がなんとかして時間を作り夜の闇に紛れて実行できないかと策を練るが、そう簡単にいくなら伝説にはならない。1845年には既にあったというこの伝説(今のチャペルが建ったのは1908ですが)、少なくとも数度は快挙を成し遂げたものがいるらしい。
1977年度卒業の候補生も気球と詰め襟と接着剤で成功したようだが、教頭が白々しくも「そんな伝説聞いたことないなあ、君は知ってるかね?」とざーとらしく候補生の副旅団長に振り、その人はかつて自分がプリーブだった時にチャペルドーム征服計画実行委員会のメンバー(一説によれば委員長)だったくせに「えー…いえ、存じません」とおもねったため同級生達の怒りを買い倫理にもとるとして訴えられましたが大人達はこれを無視。また世紀末にアイスピックを使って建物に破損を出したしょうもない奴がいるとか、噂には事欠かない。
しかし今世紀に入って「公式に」これを実現した年度がある。2012年卒業の第三中隊所属カーティス君。針金ハンガーと釣り糸とネットで買った45ドルのリモコン気象観測用風船を使って真っ昼間に見事帽子をチャペルのドームの上に乗せることに成功。ここまでくるには4ヵ月の準備と中隊30人の協力と200ドルかかったという。ヘリウムは化学の先生に分けてもらった。陸軍工兵隊の土木技師だったおじいちゃんにも教えを受けた。学校からお咎めを受けないよう、事前に物理や海洋学の教授に機材の性能や使用法に無理がないことを確かめさせ、パワーポイントのプレゼンまで用意して計画の安全性を強調、心配性の大人を説得して回った。
根回しのおかげでさすがに知らぬ存ぜぬでは済まされなくなった学校側が快挙を公認。だがそこまでしたにもかかわらず、たいした人権が戻って来たわけではないそうだ。期末試験中の一週間ほど規則が緩んだだけ。校長センセのケチ。まあね、やり方はわかったから毎年やられても困るしね。そういうわけでいまだこの伝説がフルバージョンで実現したことはないと思われます。
君よ、暗記の鬼となれ
この他にも覚えて唱える事項は山ほどある。Ratesと呼ばれる規則校則や軍関連の取説条項機構階級信念原則歴史伝説名言歌詞ポエム冗談に至る諸々を覚えていつ聞かれてもすらすらと言えるように必死で暗記する。カムアラウンドというのがあって、プリーブは上級生の部屋までいって何でも言うことを聞き、質問に答えなければならない。これは別に決まった時間ではないがそれ用の時間帯があり、上級生に指定/要請された時間に行ってなければならない。基本何をきかれても答えられるようにしておく。これは公務員一年生としての義務であり、できなかったら校則違反である。
もちろん一度に覚えきれるものではないから段階があり、例えば新入生夏期訓練の一日目に覚えさせられる多くの事柄のひとつに同じ班に属する新入生の全員の出身地氏名誕生日家族構成趣味スポーツがある。さっき会ったばかりの10−12人分。翌日は中隊全員分30−36名。次の日は上級生の分。この時点では上級生はお守役としてちらほらいるだけなのでもちろん3000人分ではないし、言われるまでもなく怖い監督生の名前と傾向と対策は脳裏に刻まれる。こうして覚えることはどんどん重ねられていく。
まあ若い時は記憶力はいいし速読もできるしフォトグラフィックメモリーなんかもある。教科書のページなどちらっとスキャンすればその映像が後で出てくる。ただしフォーカスが甘いと肝心の正解部分が読みにくかったりして自分の集中力の甘さにガッカリしたりもしますが。年を取ると、立ち上がって隣の部屋に行った時には何の用事だったのか思い出せず、若い頃の記憶力がまるで超能力のように思えてくる。と某海軍兵学校の卒業生に愚痴をこぼしたら「お前がいい加減になっただけだ。覚えなくても生きていけるからな」と冷たく言い放たれた。いや、老化もあると思うのね。老人には優しくしろって言われなかった?学校でそう教わらなかった?
新学期が始まると上級生の班長さん他がいろいろ「今週の記憶事項」だの「明日までの宿題」だの「週末のミニ職業関連知識テストの範囲」等を教えてくれる。昔はあんまり細かく範囲限定するのはカンニングに近い違反だったのだが、まあ何となく「範囲は三章全部だけど、この辺出るかもしれないから特にきちんと覚えとけよー」的な親切は前からあったのでどうせならハッキリ言い渡しておいた方がいいということになったのかも。で、この動画の一年生が必死で携えて読んでるのがそれ。チャウコール用のメニューを見ているわけではありません。当然ながらチャウコールにカンペ携行など許されてません。なぜ揃って言わされているのかは不明です。
無茶振り歓迎
班長さんによっては毎日ひとつ新しい冗談を披露するようにと言われることも。吉本興業ではないのでそうそう思いつくわけではないからジョーク本を家から送ってもらったり大変。ネットで拾って同室の奴と被ったりしたら目も当てられない。
ある日班長さんがプリーブの靴下がずり下がっているのを見咎める。ソックタッチなんてアメリカに売ってない。下手なものを売ってかぶれたりしたら訴えられて目も当てられない。そんな哀れなプリーブに班長さんが命令する。「たるんどる!貴様の靴下がしゃんとするよう、活を入れろ!触らずにだぞ!」いかにもご無体な仰せです。どないせーっちゅうんじゃ。サイコキネシスなんかない。そこで進退窮まったプリーブが自分の足元に向かい檄を飛ばします。「フレー!靴下!!」
あまりのアホさ加減に冗談好きの班長、そこらへんのプリーブを招集します。「お前達、同級生に加勢せんか!たるんだ靴下にやる気を出させろ!」一年生は勝手なことはできません。話しかけられるまで自分から上級生に向かって発言することすら許されません。やる気を出すというのは靴下を上まであげろという意味だとはわかりますが、余計な手出しをして怒られたらヤブヘビです。当然皆で必死に「フレー!!!」プリーブには笑わずに冗談に付き合うセンスも必要なようです。
こうした可哀相なプリーブ達を貴方も救うことができます。家庭から小包を毎週送ってあげましょう。一日たった3ドル、珈琲一杯分にも満たない金額で惨めなプリーブの人生をバラ色にすることができます。里親になって下さった貴方には年一回、顔写真と近況を記した手紙が届きません。