士官学校の冬休み: 裏切りのクリスマス

士官候補生の多忙な日常

下級生の追撃から逃れようとするアナポリス海軍兵学校の士官候補生じゃなんで走ってるのか

12月。世間では師も走るといわれ、人皆多忙な時期。だが士官学校で士官候補生が体育の授業や部活以外で校内を走ったら校則違反である。士官候補生たるもの、どんなに忙しくても時間配分と心に余裕を持ち、せいぜいがとこ早歩きで我慢しなければならない。ので何やら聞きたげな観光客や話の長そうなバアさんや記念撮影のカメラを託そうともくろんでいそうなグループを見かけると早歩きが鬼歩きに変わる。
でもなるべくあなたと目を合わせないように先を急ぐ士官候補生をどうか責めないで下さい。1秒の遅れが彼の人生を台無しにするかもしれないのです。そう、校内の時計はすべて同期されておりますんで、授業に遅れたあげく「僕のGPS時計ではまだ30秒前です」などという小賢しい言い訳をすればその場でそいつの卒業阻止を30名ほどの先輩が心に誓うでしょう。


アナポリス海軍兵学校の学期末行進のあと河に投げ込まれる士官候補生中隊長は学期末行進のあとプリーブに捕まるとドボンされるからです

士官候補生はたいていいつでも忙しいのだが、特に12月は期末試験とフットボールなどのの陸海軍対抗試合が重なり、そのすぐあとには休暇で人によってはずいぶん遠くの実家に帰る準備がある。中には寮の部屋を移らねばならぬ候補生もいて、その場合は所有物をすべて自分の名前入りの巨大白ズダ袋(シーバッグ)に入れて名札付けて広間など所定の場所まで届け、袋に入りきらないモップや入れたらシワだらけになる制服やぶつけたらワヤになるコンピュータなどもどこだか忘れたけど置いていくのである。
引っ越ししなくていい生徒だって当然部屋も持ち物も提出書類も完璧無比な状態にして去らねばならない。洗濯物をロッカーに放り込んで異臭がするまで放ったらかしておくなど論外、査定に関わる大問題なので大忙しである。
そう、ある日勝手にふらりと旅に出てしまって、洗濯の終わった名入りパンツが届いたけど本人はどこに行ったか誰にもわからないなどといういい加減は絶対に許されないのだ。

施錠無用 というより禁止

南極にインターンに行ったアナポリス海軍兵学校の士官候補生のカプチーノ・アート南極でカプチーノはいかが
士官候補生は冬休みもインターンやリサーチで世界中を回ります

特に一年生には初めての大きな休暇とあって、少なくとも1週間前に行き先と目的を含めた休暇許可証を貰うのをはじめとしてあらゆる分野で提出漏れ記入漏れ更新忘れ申し込み忘れ予防接種の有無等の手落ちがないかチェックし、ヤバいと休みどころではなくなる期末試験の結果もオンラインで確認できるようにし、来学期の履修科目登録や掃除洗濯身仕舞い準備も怠りなく抜かりなく無事済ませたことを二度確認してから戸締まりならぬドアを90度に開け放ち部屋に誰もいないことを周知してやっとこさお休みを取れるのである。盗まれるようなものは元々ないから安心しろ。さあ、故郷に凱旋だ!

士官候補生の恋愛事情

雪でも半袖なアナポリス海軍兵学校の士官候補生雪でも半袖 雨でも絶対傘差さない
アメリカ人寒さに強過ぎ 暑くない?が口癖
俺はアフリカから来たんだぞ
寒くないか聞けよ!と憤るスーダン人に心底同意

さて、たいていの士官候補生は高校生の時の彼氏彼女が地元にいる。年上や同級生だったら相手も他の大学に通っているかもしれないが、クリスマス休暇にはお互い実家に帰ってきている可能性大。ここで問題なのはお互いの温度差。士官学校に行くと決まったら、相手が誰であろうとどこにいようと遠距離恋愛。たとえ士官学校のゲート隣に彼女が越してきたとしても士官学校のスケジュールが忙しいのと規則が面倒なために遠”時間距離”恋愛化してしまうのはやむを得ない。

ジョギングウェアの士官候補生

まあ今はプリーブ(一年生)も携帯使っていいし、ランニングと称してスポーツウェアで町中を走ってOKなどというスチャラカな規則がまかり通っている。一応ルートと着ていい服は決まっているので途中のカフェで一服とかは許されないのだが、どのジョギングウェアがアナポリスのでどこがルートからそれてるなんて本人達にしかわからない。緊急事態で仕方なく店のトイレを借りたとかいくらでも言い訳はある。

プリンス・ウィリアム遠距離だろうが外宇宙だろうが捨てられる恐れのないヒト

だから週末を含め多少は逢瀬の暇もあるかもしれないが、それにしたって相手を四六時中拘束できるわけではないのでライバルが出現するのは時間の問題。その彼女彼氏が美女やイケメンでまわりに狙ってる奴が大量にいる高校や大学に毎日通ってると想像してみて下さい。

ま、士官学校に入った時点で過去は振り捨てて新しい相手探しにジョージタウン*辺りに繰り出した方がよほど効率的だと思うが、若い男女の心はそう簡単に割り切れるとは限らない。別れ話を切り出そうとした途端に急に惜しい相手に見えてきたりするもんね。すっきり別れるにはガレージの大きなアメリカで断捨離するくらいのガッツが必要。

テラフォーマーズvsカンタン刑

*  アナポリスの生徒(ミッズ)が夜遊びに行くとしたら車でジョージタウン(DC)、が筆頭。なぜ地元で遊ばないのか。例えばアナポリス海軍兵学校のお向かいには創設が1600年代の謎の単一専攻読書感想文大学、セント・ジョンズがあるではないか。

アナポリス海軍士官学校の士官候補生例の黒い奴ら 1匹見かけたら(ry

狭い道を挟んだだけのゼロ距離、しかも共学なのでここらでデート相手が調達できそうに思えるかもしれないが、ここの学生と士官学校の候補生はあまりにも環境が違い過ぎてか理解どころか溝が深まるばかりだったりする。大抵は会話すら成立しない。たとえ何かの間違いで一回くらいデートしたとしても関係が自然消滅を辿るのが歴史的経緯である。ひどいのになるとこっちが士官候補生とわかった瞬間に部屋の対角線上のいちばん遠い隅に移動したりする。そこまでしなくても。。。ほとんど害虫レベルで嫌われている。

ミッズの悪行=パーティ大学生の日常

アナポリス海軍士官学校のクルーチームそんなにわかりやすい髪型ですか?

また一般大学はまわりの街が遊ぶところ満載なので遠出する必要はないが、士官候補生は制服だったり車運転禁止だったり不品行やドラッグ使用や飲酒運転で即放校なだけでなくアナポリスの地元民はどのクルーカットが候補生かを見抜く力に優れ、毎年1000人も来る中にはピンキリがあって当然の経験則から「士官候補生=完全無欠の良い子」というイリュージョンステレオタイプに惑わされないため近所では落ち着いて羽目を外せない。

アナポリス海軍士官学校の士官候補生そんなにわかりやすい制服ですか?

善くも悪くも注目の的

そういうわけで士官候補生達はオサレでセレブ御用達なジョージタウンなどの別の名門大学街へ繰り出して遊ぶことが多い。さもなきゃ車で1時間以内にいくらでも大学がある。南部のお嬢様女子大生を数百人単位で士官学校まで大型バスで送り届けてくれる花嫁製造大学が。何の話だっけ。




クリスマスの裏切り

アナポリス海軍士官学校のクリスマス飾りのヤギのユキちゃん

ある年のクリスマス休暇。士官候補生になって初めての長い休暇を家族や高校時代の友人知人と過ごすべく地元に帰還。みんな物珍しさからひっきりなしに訪問が続いてあちこちで質問攻め。とてもじゃないが寝正月を決め込むヒマはない。
国会議員から第一位指名候補として推薦状を受け士官学校に入ったくらいであるから地元では昔から将来有望株として有名だった青年である。祝祭日気分も手伝ってか機嫌のよい老若男女が士官候補生を褒めそやし甘やかしの限りを尽くす。
そんな状態であるから当然彼のアタマの中では高校生の時にステディだった彼女はいまだに彼を心待ちに待っていて脇目も振らず彼一筋を貫き通していると思い込む。学園のクイーン*で人気あり成績よし器量よし。彼女とは自分が高校を卒業したあと一応公式に別れているにもかかわらず、である。

どこまで都合のいい想像の世界を広げていたかは想像もつかないが、とにかくこの士官候補生は元カノにいまや新しい男がいると知ったのである。まー半年も放ったらかしといて今更感は拭えないのだが、なにしろこいつは自分よりイケてる男は少なくとも母校には存在しないと心の奥底から信じきっているのだから手に負えない。いきなり怒り出した。

人の恋路を邪魔する奴は

アナポリス海軍士官学校の一年生がエンドゾーンで腕立て伏せ

「だって俺の入学式にも9月のフットボールのホームゲームにも女友達と遊びに来てたんだぜ?男ができてたなら来ないだろ?たった3ヵ月でこの俺を忘れたってか?」
本気で理解できない模様である。
「だいたい、みんな知ってたんならなんで俺に教えてくれないんだよ?!」
そんな他人の恋のもつれに首突っ込んで馬に蹴られるような真似を誰が進んでしようというのか。第一お前別れたんじゃなかったのか?

「別れようがなんだろうが俺よりいい男がいるわけないだろ!!だったら俺をいつまでも忘れずに一生待ってろよ!!!」

海軍兵学校のチアリーダー
いやー、そのすがすがしいまでの自己中さ加減なら相手も忘れようがないと思われ。でもさあ、毎週毎週クラスメートたちが彼氏とデートして恋バナに花咲かせてんのに、高校じゃ金曜の夜のフットボールやバスケの対抗試合に全校生徒が詰めかけてまわりみんながカップルで応援してんのに、彼女だけ独りで侘しく応援しろってか?
「そのとおりだよ!」
今まで聞いた中でも屈指のジャイアニズムにございます。なんとか小町に投稿したらどんだけ叩かれるか想像に難くない。

portia

* 高校のプロムクイーンはパーティに呼ばれたバンドのメンバーなどが選ぶので性格なんかわからないから、一般的に顔が最も美しい人物が選ばれます。ホームカミングクイーンは高校生の人気投票なので美人とは限りません。政治力も必要。この話の彼女はプロムクイーンでホームカミングクイーン。まさに弱肉強食の高校生活の捕食者の頂点に立つ女といえよう。そんな麗しき肉食系に常時エサ引き立て役の男がいない方がおかしいだろ。


うちの娘の彼氏は世界一

プリンス・ウィリアムお父さんの脳内イメージです

一応擁護のために言っておくと、こいつがこんな風に考えてしまう下地を作ったのは何を隠そう彼女の父である。何しろ娘の彼氏の肖像画をマントルピースの上*に麗々しく飾ってしまうくらいの大ファンなのだ。自分の娘とくっついたのが学園のプリンスで、ご両親や老人に受けのよい成績優秀スポーツ万能の若者というだけでもとりあえずひと安心していた父。何しろアメリカでひどい男に引っかかったりしたらヤク中にされるくらいじゃすまない。かといってうかつに仲を裂こうとすると逆効果なことが多いので美人の娘がいる親御さんは心配が絶えません。デート相手が玄関に現れるたびにこれ見よがしにライフルの手入れを始めるお父さんとかお兄さんたち、冗談でなくいますからね〜。

* マントルピースの上=床の間

末は博士か海軍大将か

アナポリス海軍士官学校の校長将来の息子の将来像を妄想中
人が心に思うことは誰にも止められないもの

とにかく比較論と消去法で自分を説得して娘のX番目のこの彼氏をそれなりに認めていたお父さんですが、なんとその若者があのアナポリス海軍兵学校に入学を許可されたではありませんか。カノ父は海軍の大佐ですが予備役。アカデミーに入って末はアドミラルというコースを歩むであろう若者は自分よりも一段も二段も上に行けるタマだったわけです。しかも専攻が艦船設計。分野は違えど自身も設計士であるお父さんとしてはもう跡継ぎが出来たと言わんばかりの喜びよう。おめでたい空想が妄想を呼び、もう早くムコに来て欲しくてたまらない状況。すでに縁戚扱いで会う人ごとにベタ褒め。当然ご家庭の夕食の席でも娘にハッパがかけられたに違いありません。この父が娘の心変わりを黙って見過ごすはずがありましょうか。否。理想の婿キープに全力を傾けるに決まっています。なに、新しい彼氏だと?あ、あんな若いだけが取り柄の男!

無言の圧力

こうしてお父さんのささやかな抵抗の証として娘と元カレが二人で写ってるプロムの写真がマントルピースの上から娘の歴代の彼氏達を迎えることとなったのでした。ライフルの方がまだしも話の糸口がつかめるってもんでしょ。

夢で逢いましょう

戸棚に隠れるウエストポイント陸軍士官学校の士官候補生彼女との密会もOK!テキサス出身プリーブも楽々収納の大容量を誇るウエストポイント陸軍士官学校の寮の戸棚
インスペクションでこれが出て来たらスゴく嫌

しかしいくらカノ父が味方でもいまさらよりを戻そうなどと自分からは口に出せません。士官学校入学以来ほとんどお外に出る暇もなく従って新しい出会いの機会も少なく(なかったとは申しません)忙しい毎日を過ごして来た自分。なのに彼女は平気で他の男と遊んでただなんて!それに別れたとはいっても単に遠距離だから無理だよね、君を拘束する権利は僕にはないよ、という気遣いの結果であり相手を嫌いになったわけではないわけで。男にしてみれば潔く身を引くジェスチャーはしたものの本音は彼女に察して欲しかったと。私は港、あなたは船。男の身勝手なロマンでございます。

彼女にしたって彼氏がいなくてもカレ宅にはいつでもお出入り自由、勝手に彼の部屋に入って自分の写真の裏書き(このあたしを他の女の写真と並べて机の飾りとかってありえないんですけど?あたしは格が違うでしょ!)しちゃうような間柄だったわけで。

そんな状況で年若い男がどこまでも自分に都合のいい状況を想定したからといって誰が責められましょうか。ある意味男の方が純真とも言えますな。女性は現実的ですから、捨てられた腹いせや当てつけならともかく協議して別れたのに義理を通していつまでも独り身でいるなんてことはしません。モテる容姿ならなおのことです。幸せの黄色いハンカチなんてあーた、映画になるくらいマレな出来事なわけでしょ?
女の道は一本道にございます。別れた男を振り返るなど恥にございます。

ひとつの恋の終わり:世界を回って元カノを忘れよう!

アナポリス海軍士官学校の士官候補生がインターンで南極へ心の氷を割り未来へ出航

こうして久しぶりの帰郷が元カノの裏切り(*個人の感想です)による傷心で幕を開け、しかも普段やりつけない親孝行や年若い兄弟姉妹の学芸会見物や老けた親戚との付き合いに明け暮れるつまらないクリスマス休暇にほとほと厭きた士官候補生。
まあ日本のようにクリスマス・イヴは恋人と過ごすのが絶対条件などという風習はありませんので、そこまでのクリティカル・ヒットではないとはいえ、かなりのボディーブローを喰らったことは間違いありません。翌年のクリスマスからは実家にはせいぜい荷物を預けに寄るのみでとっとと海外に飛んでめいっぱい遊び、元カノ達(複数です)のことはすっかり忘れるに徹したのでした。

士官候補生のご両親の皆様、息子さん娘さんが休暇なのに家に寄り付かないからといって無下に責めないであげて下さい。もしかしたら若い者なりの悲しい過去(推奨BGM:ラスト・クリスマス)のせいでかっての恋人との思い出に溢れた町に長逗留したくないだけかもしれませんよ。

アナポリス海軍士官学校の士官候補生がインターンで砂漠へ心の渇きを癒すオアシスへ ラクダはお勧めしません

あと学校に必ず帰り着けるよう、少なくとも休暇期限切れの4時間前には付近の空港に到着できるようちゃんと監督してあげて下さいね。あと許可証と身分証は常時携帯するようにね。それから軍用機に乗る予定でも民間機のチケット買って帰れるくらいのお金は必ず持ちなさいね。遅延欠航たらい回しが当たり前のニューアーク空港に近寄るんじゃありませんよ。許可証に記入された帰校日時に遅れそうな時は中隊付きの大人にちゃんと連絡するんですよ〜。

孝行をしたい時には

愛する息子や娘が自由にママに電話し会いに来る機会を奪い身柄を拘束する校則憎しとばかり隅々まで読み込んだお母様の指示は的確である。だが若いもんは親の言うことなんざ聞いちゃいない。クレカMAXアウト手持ち現金不如意でスポンサーさまに空港まで迎えに来るよう電話しちゃったりする。足を向けては眠れないとはこのことである。

さあ、現実を見つめましょう。「電波が入らない*から電話できない」というのは「実の親には」という但し書き付き。携帯がなかった昔は薄ら寒い公衆電話に並ばなければならず、当時も言い訳のネタ潰しに親御さんが電話用の小銭を紙巻きロールで何本も士官学校に送りつけるという荒技でなんとか連絡してもらえるよう頑張っていたのです。便りのないのは無事な証拠。近況は現行の彼氏彼女かルームメイトに聞きましょう。

セバーン川から見たアナポリス海軍士官学校シベリアの流刑地

* この12月にアナポリスの寮用の基地局を設置したにもかかわらずキャリアによっては全然繋がらないという話である。こうなると有線だった昔の方がまだ親に電話不能な理由が少なかったともいえる。非常に稀だが公衆電話全盛の大昔でも自分の部屋に専用の外線直通回線を持てる珍しい候補生もいた。連絡の必要な職掌のおかげなのだが、当然彼らはそんな権利があるなどと家族に吹聴はしなかった。いまだに寒風吹きすさぶ校庭まで出ないとバーが出ないとお父さんお母さんに言い張っているミッズの皆さん、頑張って。

ボランティアとチャリティなら任せろ

さて、士官候補生は忙しいと一言でいっても何のことだかわかりませんよね。そして多忙さがわからないとたまの休暇の貴重さも理解しがたいと思うのです。ですので少しだけご説明を。

起床5:30 朝練 全員起床6:30 ベッドメイクひげ剃り洗面シャワー身支度 プリーブはその上にチャウコール他の義務を6:55まで遂行 7:00朝礼 7:05整列行進にて食堂へ 7:15-7:45朝食 7:55午前の授業開始 50分x4時限 次の教室への移動時間各10分 11:45まで 12:05昼の整列行進(フォーメーション)12:10-12:50昼食 12:50-13:20訓練/レクチャー/会合 13:30-15:20午後の授業 2時限 化学の実験などがある場合はさらに1時限追加 15:45-18:00全員参加運動部活動(週2回は行進練習と教練)18:00-18:30シャワー着替え 18:30夕礼 18:40-19:15夕食 19:00-19:30プリーブ訓練&お勉強 19:15-20:00文化系クラブ/課外活動 20:00-23:00ムリヤリ自習タイム 24:00タップス・全員消灯(上級生は寝ずに勉強していても怒られません)

戦士の墓にリースを捧げる士官候補生戦士の墓に捧げるリースは軍人への感謝を促す運動団体からの寄付

平日のスケジュールは上記のように分単位でぎっちり詰まってます。勝手に塀の外に出ることは許されません。これらの他に当直や軍務をこなしいつ点検されてもいいように掃除片付けを怠らず、ミリ単位で決まった形に散髪し靴磨きをし制服をクリーニングに出し成績が悪ければ補習も受けなければなりません。ので少しでも空き時間があれば自分のことに費やすのが普通。しかし理想に燃え世界を救済しようと本気で思ってたりするいまどき貴重な若者である士官候補生たちは違います。もともと人助け精神に溢れる良いお子さんたち。それがキリスト教徒の国の喜捨気分に溢れる年末助け合い運動週間に何もしないわけがありません。

まあ年末でなくても台風の後片付けとか近隣の町でのご奉仕や子供たちの指導に国内外からのお客様のおもてなしに会合の準備にといろいろ狩り出されてはいるのですが、特にクリスマスの前は全国民的にチャリティモード全開です。善きサマリア人とは士官候補生のためにあるような言葉なのです。いや一般論ね。

ボーイスカウトの指導を手伝う士官候補生イーグルスカウトが後輩を指導

たとえば。近所の小学生の通り抜け林道の清掃整備を担当し、突然の積雪に麻痺した近隣の南部人の住宅街へ雪掻き要員として狩り出され有り余る体力で精を出し、祝祭日を前に善意供出の食料や衣服を集め、恵まれない子供にあげるおもちゃを候補生達が自費で数百万円分買い集めて救世軍に寄付したりとボランティアやチャリティにも精を出し、残った時間で眠い目をこすりながら宿題をこなし彼女にメールしながら机の上で寝てしまうのです。お母さん?いや~意識の片隅に引っかかってはいるけど優先順位が…。

では休暇前のたった一ヵ月に士官候補生がこなしたことのほんの一部を画像でご紹介しましょう。

林道の整備をするアナポリス海軍兵学校の士官候補生土を切ったら小石噛んで刃がこぼれるよ
アメリカの道具は切れ味よりパワーで勝負

雪かきを手伝う士官候補生アメリカの縮図 何人いようが実際働くのは一人

衣服を地元慈善団体に寄付する士官候補生冬服を地元慈善団体に寄付する士官候補生

アナポリス海軍兵学校の学生が集めた食品をトラックに集めた寄付用の食料をトラックに載せる士官候補生

子供の理数系の考え方を指導する士官候補生子供に理数系の素養を育てるプログラムのお手伝い

子供のロールモデルになる士官候補生子供たちの放課後のロールモデルになる士官候補生

子供たちのサンタさんへのお願い短冊の下がったクリスマスツリー@アナポリス短冊には子供の名前とこんなプレゼントがいいんじゃないかなーという救世軍からのコメント付き

恵まれない子供へのクリスマスプレゼントを救世軍に寄付する士官候補生士官候補生たちが寄付した恵まれない子供たちへのクリスマスプレゼント 今年は900以上集まりました

どの子の「天使」になるか決める士官候補生どの子の「天使」になるか決める士官候補生

骨髄ドナーになる士官候補生骨髄ドナー登録する士官候補生

情操教育も充実

大統領の前でクリスマスコンサート大統領の前でクリスマスコンサート

そのうえ下手すると年末に向けてメサイアの合唱練習だのミュージカルの練習だのホワイトハウスに呼ばれて公演する練習だのに時間を費やし、はたまた成績が良ければ奨学金が出て表彰されたり何かのコンテストで優勝してメダルが授与されたりリボン貰ったりも。これらはすべて毎日の授業やテストや訓練や教練や行進や全員参加の行事などの義務をこなした残りのわずかな時間を使って行われるのですから本当に感心します。たまに留年しててクリスマス直前に卒業するような感心しない奴もいるけどね。昔は士官学校で単位取り損ねたらジ・エンド、再履修のために卒業延期なんぞ許されなかったんだけど世も末だな。。

ミュージカル公演に出演する士官候補生演劇の才能を披露する士官候補生

チェロを演奏する士官候補生音楽の才能を披露する士官候補生

年度によって多少前後しますが、11月始めに中間試験、感謝祭をはさんで月末にだいたいの授業は終わり、12月はじめに秋学期が終了。そのあとは建前は試験準備期間だけれどアーミーネイビーゲームが初旬にあるのでそちらの準備もしなければいけない。フットボール選手じゃなくても全員参加、少なくとも2泊3日の泊まり込みで応援しにいくのですから試験勉強どころの騒ぎじゃない。特に最下級生のプリーブは色々な意味で心身ともに忠誠度を試される時期。お務めご苦労様です。休暇中に寝溜めしときましょう。

甘く冷たい誘惑

士官候補生の描かれたステンドグラスティファニーのステンドグラス
@アナポリスのチャペル

このように忙しいうえに自由と車のないプリーブ。それでもなんとか女の子とお付き合いしたい。そこで多少の自由時間が期待できる日曜だとか土曜日に「宗教上の理由で」どうしても教会に行きたいと主張し、雑用から逃れようとする。校内にも教会やチャペルがあるけどお外のがいい、信仰の自由だとダダをこねる。なぜかというとお外の教会に集う可愛くてお行儀のよい女の子たちの品定めにいきたいからである。自分の異性運以外の何かを信じているわけでは決してない。そして仲間同士でどこそこのモルモン教会の女の子は粒ぞろいだとか揃いも揃って罰当たりな情報を交換する。

だが狡っ辛いのは女の子目当てに教会に行く士官候補生だけじゃない。入信してもらいたい教会側もやたらと親切。アイスクリームと無料往復バスで釣って大量のプリーブを敷地内におびき寄せたりしてるからどっちもどっちである。言うまでもないが本当に宗教を信じている候補生は教会のハシゴなんかしませんので念のため。しかしつい近年まで士官候補生全員がムリヤリ礼拝に参加させられていたことを思うと感慨無量ですな。

今じゃ公立の場所じゃクリスマスなんて大声で言えない。士官学校でもクリスマスツリーとは言えず「ホリデイ・ツリー」と呼ぶくらい。民間でも教師が緑のモミの木っぽいデザインのついたマグカップ使っただけで「それはクリスマスツリー?」と詰問される。でも年末に赤と緑の無地のカップを用意しただけの私企業スタバを槍玉に挙げるのはいくらなんでも言いがかりです。まあそのぶんバイブルベルトに行けば公私問わず神様に感謝しましょう的な文言が踊ってるのでバランスは取れているのかな?
とかく宗教は麻薬と申します。ドラッグ御法度の士官候補生が近寄るべきものじゃありません。神様に言われなくとも、天国に行けるかどうかに関わらず、心からしたいと望んで人助けをするのがあるべき姿だと信じます。

すべての人によい新年を

何はともあれ人みな優しく親切になりがちなこの時期。特にごひいきのスポーツチームが勝ってる地域ではなおのことご機嫌。そんな浮かれた連中がご親切にすすめてくる酒を次から次へと断るのは至難の業だが、来学期も士官候補生でありたいなら意思の力で乗り切らねばならない。クリスマスを家族で過ごしたら大晦日は新年を迎えるカウントダウンパーティ。おそらく一年でもっとも飲酒運転が多い夜。絶対暗がりにネズミ捕りが潜んでいる。たとえ君が21歳以上でも、松が明けて無事に士官学校に帰り着くまで、いや卒業するまで、飲んだら乗るな、ですよ。