うたかたの夢: アーミーネイビーゲーム2015

ハイズマントロフィーをねらえ!

フットボール試合中の海軍士官候補生キーナン・レイノルズ

2015年秋。今年はどういうわけだか大学対抗ランキング上位にネイビー(アナポリス海軍兵学校チーム)が入るという近年にない当たり年。アーミーネイビーゲームを14年ぶりに勝利で飾りたい陸軍士官学校には申し訳ないけど、負けるわけがない。しかもQBが大学フットボールの並みいる記録を歴代/シーズン共に軒並み更新中。これはもうハイズマントロフィー(最優秀選手賞)確定だよね、と誰もが期待。しかし毎年のアーミーネイビーゲームはちょうどハイズマントロフィー授与の日に行われる。そこでもしアナポリスの選手が選ばれれば軍用ヘリでもなんでも使って試合終了直後のスタジアムから直接NYの収録スタジオまで絶対に間に合うように送り届ける手筈まで整え、やる気満々の海軍です。

ポスターボーイ誕生

海軍兵学校の士官候補生でクォーターバックのキーナン・レイノルズ選手

話題作りにもなってもうすっかりその気の海軍首脳部と、若い士官候補生が試合直後にヘリ輸送で登場するカッコ良さに見る前からうっとりのファン並びに一般市民と、売れ行きに貢献しそうなおいしい絵柄に加え今が旬の愛国心と才能にあふれた若きクォーターバックのインパクトを想像してよだれを垂らさんばかりのマスコミ一同。どの雑誌や新聞を見てもキーナン・レイノルズの上々の前評判と受賞予想の記事で満艦飾。

ツイッター炎上

ところがファン投票ぶっちぎり一位を独走していたアナポリスのQB、キーナン・レイノルズの名前がある日突然オンライン投票ページから削除される。この不測の事態に海軍長官とマッケイン議員を含め怒り狂ったファンたちが人気投票のサイトスポンサーの日産と勝手な采配をしたESPNに厳重抗議の上ツイッターで騒ぎを起こし、選択ボタンがなくても無理矢理ファン投票するための裏技を懇切丁寧に解説し拡散。あげくワシントンポストなど有力紙がスキャンダルとして取り上げるに至る。

ESPNの陰謀

そのおかげでなんとかレイノルズの名前も投票候補として〆切寸前に復活はしたものの時すでに遅し。第二位との差はほとんどなくなっておりファン激昂。あげく名前が消えた言い訳が「ESPN選出の専門家による協議の結果ふさわしくない選手を除外」との暴言にこれまたファンとESPN以外のジャーナリストが逆上。ESPNで放映される金になる6つのボウルゲームに出ないのが確実となったチームの選手をハブったのがミエミエだったからです。

ESPNの誤算

何しろたった一点とはいえこの人気投票の結果は受賞者選考の際ポイントとして加算されます。千を超えるジャーナリスト匿名票の中のたった一つですから実効はなくてもファン投票の結果は世間に丸見えなので目立ちます。大差で勝ってる選手を候補にすら選ばないとなるといくらなんでもウソくさいので早めに消してしまおうと目論んだのでしょうが、逆に疑惑を人々に植え付けてしまいました。金の亡者どもめが。

得点王?それがどうした金持って来い!

Annapolis's QB Keenan Reynolds playing

挙げ句の果てにいつもなら何人も何人も候補が選ばれて発表会場に詰めて楽しいトークを重ねながら受賞の瞬間を待ちTV画面を賑わすはずが、今年に限ってたった3名に受賞候補者を絞って当然のごとくネイビーチームのQBを外すという暴挙に出たESPN。どこまでも疑惑に満ちた展開。これが陰謀でなくて何だというのか。

結局レイノルズのハイズマン票獲得最終順位は5位。フツーなら間違いなく候補者として会場に呼ばれてます。最終候補は最低でも3人選ばねばならず、最多は5人のはずだけど年によってはファイナリストに6人目を押し込んだりしてるってのに。どっかおかしいだろ。海軍関係なくてもその思いは同じだったらしく、せめて候補として会場に呼びたかったとの声があちこちで上がる。そりゃヘリで到着するの見たかったよねーみんな。ガッカリ気分はマスコミにも蔓延したらしく、誰かがいみじくもこう言った。ハイズマントロフィーの受賞資格に新しい項目を加筆するべき時期が来た。金になる五大カンファレンスの選手に限る、と。

高潔なる選手に贈る

アナポリス海軍兵学校の記念講堂を歩む老人と付き添う若い女性

ハイズマン賞受賞資格の条項には選手の品格に関する有名な一文がある。どこからどう読んでも士官学校の品行方正かつ清廉高潔にして、倫理を尊び義を重んじ真面目に勉学に励みフットボールに精進し、ひいては国のため国民のため自由を守るために自らを投げ出してでも戦う決意を持った心身ともに健全で誠実なる士官候補生のためにあるようなフレーズなのだ。いや、実は去年改訂されるまではそうだったのだ。

笑っちゃうけど昨年誰も知らないうちに受賞資格の条項から with integrity の部分がひっそりと世間に告げられることなく削除されていたらしい。何しろ犯罪者やその予備軍みたいな選手などとかく黒い噂のある選手ばかりが受賞してましたからねえここ数年。実情に選出基準を合わせたということでしょう。あのO・J・シンプソンだってトロフィー返せとは言われてませんしね。売り飛ばしちゃって返しようもないとはいえ。

朝青龍カムバック!

ウエストポイント陸軍士官学校のカデットの敬礼

個人的にはフィールドの外での素行や人格は関係なく実力のある選手に最優秀賞をやればいいとは思うが、いまどき integrity などという言葉を体現できる選手がひとりでもいるとすればそれが士官候補生でなくて誰だというのか。

そりゃ卒業してもプロにならないかもしれないわけで、得点王だろうがなんだろうがお金にならない選手に受賞させるなんてもったいないという考えかもしれないが、底が浅い。世の中にはフットボール以外にも大事なことがある。それを国民に思い出させるよい機会ではないか。

そもそもNCAAの数々の記録を塗り替えただけでもキーナンぶっちぎりだろが。自慢したいけどフォントサイズ2とかでもリストが長くなりすぎるからここに書き連ねはしない。ついでにハイズマン以外の受賞も毎日のように増え続けてるから書ききれない。だいたいハイズマントロフィー貰った奴でプロで芽が出る奴少ないんだから将来の稼ぎ高予想を審査基準にするなよなー。あとディフェンスでも受賞させるべき。相手に点を取らせないのも攻撃力とおなじくらい重要な要素。5大カンファランス内最優秀オフェンシブプレイヤー(*ただしQB・RBに限る)賞じゃバイアスあり過ぎ。

人生における優先順位

フットボール勝利インタビューに答える士官候補生

とにかく、アーミーネイビーゲームのほんの数日前にハイズマン候補に残らなかったと知ったレイノルズ。しかしさすがは士官候補生、何が本当に大事かを思い出すよいきっかけとなった、と素直に発言。なんとなれば大学チャンピオンシップの優勝よりもアーミーネイビーゲームの勝敗の方が自分たち海軍士官候補生にとっては重大であり、陸海軍対抗戦に勝ってチームのシーズン最多勝記録を狙いたい。また卒業後は軍の一員としてこの国の自由を守っていく自分たちが学生時代にフットボールをする機会に恵まれたことは大変な喜びだ。と続けた。

そう、軍の士官を養成する為の機関で税金で学び訓練を重ねる自分たちにスポーツをする時間が与えられただけでも僥倖だと言っているのだ。そんなことに感謝する大学生プレイヤーが他にどこにいると思う?

うたかたの夢

将来の職務が決まった士官候補生たち将来の職務が決まって嬉しそうな士官候補生

11月末に将来の職業分野が決まったばかり(運命を決める夜を参照)の彼が勢いこんで話すことと言えば未来の職務、情報戦のことばかりでフットボールの話はちっとも出ないんだぜ、とは同室の男の証言。一応任官したら最短でも5年はご奉公せねばならぬとはいえ、それは建前で実際には最低限の職務と兼任という形で実質的にプロ入りしたフットボール選手やオリンピック出たりしてる人はかなりいるのだ。きっとレイノルズだって事情が許すなら、ハイズマン賞が取れていたならちょっとはプロ入りの夢を見てみたかったかもしれない。子供の頃から、アメリカンフットボールは彼の人生そのものだったのだから。

フットボール14勝目の危機

マスコットのヤギを管理する士官候補生毎年のように陸軍に拉致されるマスコットのヤギ
秘匿管理は今年の最重要任務

そして期末試験にモロかぶりの日程で2015年度のアーミーネイビーゲームが行われた。どうしよう。まーたアナポリス海軍兵学校がウエストポイント陸軍士官学校にフットボールの対抗戦で勝ってしまった。14年連続。21世紀全部。元祖 ”世紀の対決” が今世紀はこの体たらく。

入学してから一度も海軍に勝たないまま卒業したポインターさん達が1万5千人。もう伝統の対抗戦でも何でもない。このままでは伝統の終焉も近い。こーゆーのは対等でないと士気が落ちる。あの硬派なウエストポイント陸軍士官学校でアキラメモード蔓延、ひがみが常態などという事態にでもなったら冗談にならない。何だってそんなにファンブルすんだよぅ〜何度もインターセプトされてなきゃ勝ってたじゃんかー!

新ブランド:アーミー・ウエストポイント

Army West Pointあんまり気合いの入ってないモデルさん達

この膠着状態を打破しようとでもしたのか、今年の春ウエストポイントではなんとレーザー&スモーク、ランウェイにロッキーのテーマを流しながら黒騎士ロゴの変更を電撃発表。名前もブラックナイツから “ARMY WEST POINT"に。これは自分たちの存在は軍と共にあり、スポーツさえやってればいい民間大学のチームとは一線を画する厳しい規律や義務を強調する意味合いに加え、世間の皆様と自分らにDNAレベル[sic]でレゾンデートルを刻み付けるための大変革なのだそうだ。

West Point's athletics New Logoナイキ謹製ロゴ「アテナの盾」校章っすね

よく意味がわからないなりに見上げた心意気だが、なんか天災が続いたから年号でも変えてみるか的な場当たり感も否めない。何しろ伝統のラバから黒騎士にマスコットを変えたあと連敗し始めてるだけに。またこれからは徹底してすべてのロゴと名称を新しいものに統一し旧名称を削除していくが、まだBLACK KNIGHTSもCADETSもTHE CORPSもニックネームとして使っていくからねとの追記付き。どっちなんだよ。キメラですか?認知してあげて!

自分を見つける旅・陸軍編:地雷注意

アーミーネイビーゲームの陸軍士官候補生たち

以前にも名称をUSMAに統一したら、一般社会における「ウエストポイント」という名前の認識度が急降下し、慌てて元に戻した泥縄を忘れたのか?なんか迷走してんな…。まあどっちにしてもまた負けちゃったから縁起悪いしぃ、いっそ勝つまで毎年変えてみればー?

ところで毎年無料でチームユニフォームをデザインして配ってくれるというのに贅沢だが自分の好みではナイキのデザインの方が好き。でも地元アナポリス発祥の新興アンダーアーマーをないがしろにしてナイキに貢がせ続けるわけにもいかないしなあ。痛し痒し。


Edgar-Poe

レイブンスのチアガールと記念撮影する士官候補生レイブンズのチアリーダーと記念撮影
右端の奴だけカラスと一緒
女の子の数は足りてるのに要領わるすぎ

おまけ:ウエストポイント陸軍士官学校のフットボールチームのワイドレシーバーの名前はエドガー・アラン・ポオ。ええ、昔ウエストポイントから喜んで放校となった方と同じ名前でんがな。なんとお父さんも同じ名前。まあおいし過ぎるその名字で別の名前にする度胸はないよな普通。で、この選手の高校時代のあだ名はThe Raven ー 大鴉。ベタだけどうらやましい。

アーミーネイビーウィーク到来

アーミーネイビーテニス対抗試合

さて、アーミーネイビーゲームというのは陸軍と海軍の士官学校の対抗試合という意味ですからいろいろなスポーツがあり、フットボール以外でも同じ呼ばれ方をします。もちろん一番有名なのがアメフト対抗試合で、一般的にアーミーネイビーゲームといえば12月初めのフットボールの試合を指します。で、大分前からいろいろと関連行事をこなしたりおちょくり動画を公金?で捏造しYouTubeにアップしたりするわけです。お互いにこの"Spirit"動画は毎年たくさん作るのですが、少しだけご紹介。

*ソロ校長ばかりかオビ=ワン海軍作戦本部長まで出演。ウエストポイント陸軍士官学校の校長は前任者だったらマスクなしでラスボスいけるくらいのけっこういい男振りだったんだけどしゃーねーやな。それでもダースベイダーがカッコいいので見てやって下さい。


総統閣下がウエストポイント陸軍士官学校の連敗にお怒りのようです


ちなみに例のウエストポイントタコ枕殴り事件が発覚したのはイカアナポリスからの交換留学士官候補生が作った動画に血だらけの様子が写っていたせいです。削除した時にはすでに民間人の知るところとなりあのような醜聞に…。誠に申し訳ない。

ハダカでラードまみれのオベリスクに登るアナポリス海軍兵学校の士官候補生たち

でもあのつい数年前からの「伝統」行事(枕にヘルメットや鈍器を仕込んで殴り合い血みどろの惨事)はいくらなんでもやり過ぎってもんでしょ。。。てゆーか最下級生として共に苦労した同志たるべき士官候補生が同士討ちで体力消耗し合ってどうすんだよ。そりゃ山の中でお互い同士しかいないから大変だろうけど、なんか別の健全な対象を見つけなよ。半裸でラードまみれの石塔にのぼるとかさー。

誰が為に戦う

Annapolis's tecumseh statueテッちゃんかと思ったら

そういったアーミーネイビーウィークの慣習のひとつに立体塗り絵があります。アナポリスの寮の正門に面した校庭に佇むインディアンの酋長の像。元はデラウェア号の木製の船首像だったのですが年月を重ね腐りかけの木の上にセメントを重ねたりいろいろあって今では青銅製の「テカムザ」となっています。木像の心臓部と脳は銅像の内部に移植され元の人格を保っているとか。サイボーグだったんですね。

Annapolis's tecumseh statue paintedタッちゃんだった

タカムシとかテカムセとか発音は諸説あるようだけどまあ「テゥカムザ」が士官候補生達の言ってたのに近いかな。歴史的表記って時々変わるしなあ。だいたいにしてからがアメリカ先住民の言葉を英語発音にあてはめたあげく無理に日本語カタカナ表記した結果なんであんま突っ込まないでね。

それどころか実は全然違う人の像だったらしく、デラウェア州代表のバイデン副大統領に名前変更しろって言われたけど伝統だからそのままキープします。ってお断りした経緯が。だって大昔に貰った時に誰だか教えてもらってなかったしー。いまさら遅いよ。海軍の伝統(=対処すんのがタルいときの決まり文句)をなめんなよ。まあ本名すらタマネンドかタマニーかテメニーか表記ゆれてるらしいんで決まったら連絡とゆーことで。

いざ出陣!

愛国心あふれる色合いのアナポリス海軍兵学校の銅像

この酋長像は試合前に出陣化粧と称した彩色を施されます。てゆーかホームカミングや卒業式など何かイベントがある度にやたらと塗られるこのお方。昔はタトゥーがあったら入学も出来なかったほどお固い(今もそうあるべき)学校の士官候補生に美的感覚、それもボディペイントの才覚を求める方が無茶だが、まあ色覚に事情のある人は入学時に弾かれるのでそれほど不思議な色味にはならないだけが救い。つまらないともいうが。

銅像にペイントを施すアナポリス海軍兵学校の士官候補生銅像にペイントを施す士官候補生

そもそもデザインセンスのある者が必ずしも塗り絵に参加するとは限らない。イベントごとにどの中隊が塗るとかほとんど決まっており上級生が命令して下級生がなんとかするだけなので結果は玉石混合ですがいくつか並べてみました。


ペイントを施されたアナポリス海軍兵学校の銅像

お色直しをされたアナポリス海軍兵学校の銅像

グリーンなアナポリス海軍兵学校の銅像

Kissなアナポリス海軍兵学校の銅像

アナポリス海軍兵学校の銅像

アナポリス海軍兵学校の銅像その2

アナポリス海軍兵学校の銅像その3

バズ・ライトイヤーなアナポリス海軍兵学校の銅像

ヒゲ男なアナポリス海軍兵学校の銅像

1977の孤独

Annapolis's tecumseh statue painted in 1977© Akio Tsutsumi

この写真は1977年のアーミーネイビーゲームの当日に撮影されたもの。貴重な戴き物です。自慢します。何しろ開設10週年を迎えた「桜と錨の海軍砲術学校」のサイト管理人様、モノホンのプロ、教授でリアアドミラルで艦長なキャプテン堤さまがアメリカに留学中アナポリスまでおいでになった時の写真です。

アーミーネイビーゲームの場合、普通は少なくとも前日から両校の士官候補生全員が試合地に現地入りしているため試合のある週末は陸海ともに士官学校はもぬけの殻。日曜の夜まで誰も帰ってきません。今と違って昔はネットでスケジュールを調べるなんて出来ませんから、当事者達以外にはいつ留守かなんてなかなかわかりません。そういうわけでせっかく見学に来てくださったのに見事に試合当日大当たり、誰もいない校庭に木枯らしが吹き渡っていたという証拠写真。逆に言うと珍しい光景です。普段なら休暇中でも誰か侘しく居残ってたり外部向けイベントが開催されてたりしますので。

そのちょうど10年前だったらタカムザ広場に中隊付き士官の事務室の中身が勝手にまるごと移転されて青空オフィスと化し、収納庫兼用にされた自分の車の使用許可を「妻が夕飯の買い物に」と後の海兵隊大将(当時少佐)が奥さんをダシに頼み込む窮状をつぶさに眺めることができたかも。今と違って電源なくても晴れてる昼間は仕事に支障なかったんじゃないでしょうか。文鎮さえ大量にあれば。

勝利の鐘を打ち鳴らせ

Annapolis's Gokokuji-bell新任の校長センセ(スウプ・ソロ)の初撞き
あれ、鐘木割れてる?

こうしてアナポリス海軍兵学校では学期末にウエストポイント陸軍士官学校のスポーツチームとの対抗戦が目白押しとなる。もしこれらの試合に勝った場合は校内の鐘を打ち鳴らす決まりである。ひとつは第二次大戦時の空母エンタープライズの艦橋にあった鐘、もうひとつはマシュー・ペリー提督が持ち帰った日本の護国寺の鐘のレプリカ。(オリジナルは日本に返還されています)

Annapolis's Gokokuji-bell in black and white photo

これらの鐘はほぼ正面玄関な目立つところにあるんだけど、鐘楼もどきのはじが上に反ったデザインが気に入らない。それじゃ中国風味に過ぎると思います。まあアメリカですから朱色に金キラじゃなかっただけでも胸を撫で下ろし喜ばねばならないことはわかってるけど。(溜息)

とにかくこれが除夜の鐘なみのアナポリスでの伝統なのです。エンタープライズの鐘は各シーズンごとにウエストポイントとの対抗試合でアナポリスの勝ち試合数が相手を上回ったら鳴らされます。護国寺の方はフットボールの対抗試合に勝った時のみ鳴らされます。

空母エンタープライズの鐘エンタープライズのベル
これを毎時鳴らすのと30分毎に職員室に出頭するのとどっちが面倒かなあ。まさか両方?

で、もしヤード(キャンパス)への居残りを命じられた煩悩だらけの不徳な士官候補生がいた場合、土曜日のアーミーネイビーゲームでの勝利が知らされたら勝ち点と同じ数だけエンタープライズのベルを打ち鳴らす義務が課せられます。これを毎時間ちょうどに皆が帰ってくる日曜日の20時までえんえんやる罰ゲーム。当直士官が見張ってますからやらないわけにはいきません。それにしても日曜の朝の教会が忙しい時間帯は鳴らさなくていいとのご指定。鐘なんだから賛美歌とマッチしていいんじゃないの?不信心な自分にはよくわかりません。

そして週明けの月曜日にセレモニーと称して昼のフォーメーションの代わりに日本の鐘をゴォ〜ンといきます。校長教頭コーチにキャプテンが勝ち点分、士官講師代表や選手などが各一回ずつ鐘を撞きます。余裕で108回いきそうです。

忙しい忙しいって、例えばなに?

科学の実験中の士官候補生

士官候補生には煩悩はたっぷりあるかもしれないが時間がない。それはフットボールの花形選手とて同じである。朝定時に起きたら部屋を整え朝練。急いで帰って身支度を整え朝礼しその日の連絡事項を確認し整列行進で朝食を食べに向かい20分で食べ終われば即座に授業が始まる。また隊列を組んで昼食をとったあと授業に戻り、放課後は夕食までびっちり部活。夕食後には雑多な用事や文化部・委員会活動をこなし夜9時から宿題や提出課題に取り組み翌日に備える。

体力テスト中の海軍士官候補生

最上級生のキーナンといえどフットボールシーズン真っ最中に6コース取っている。遊んでいるヒマなんかない。それどころかメディアのインタビューやチームミーティングにウエイトトレーニングまでがこの忙しい日程のどこかに組み込まれる。中間・期末考査はもちろん毎日の宿題に小テスト、6週間ごとの成績チェックにかてて加えて体育に知育に道徳に統率理論に学期ごとの体力テスト。どれかひとつでも通らなければ試合どころの騒ぎではなくなる。実際に体力テスト何度も失敗し、フットボール選手でしかも卒業も近いせいでお目こぼししてもらえるはずの奴ですら学校やめさせられたりしてるし。

あげく教練に職業知識テストに軍事訓練にパレードの練習のみならず、見張り当番が回ってくればプリーブは廊下で4時間立ち尽すことになる。上級生だって当直なら外には出ずに何かあったときの為に一日中待機していなければならない。そもそも朝練をまじめにやってしまうと昼寝でもしなければ夜まで体力が続かないが、プリーブは朝寝床を出たら消灯時間までベッドの使用は禁止。どこの民間大学のフットボール選手がそこまで頑張ってると思う?士官候補生の日常には心から感心させられる。たとえば士官学校を辞めて普通の大学に入りなおした奴。たった2年で単位とって卒業、しかもオールAで、ってのがいたらしいけどさもありなん。勉強しかしなくていいのならこんなに楽なことはない。

木製のラバを燃やすアナポリスの士官候補生ラバ虐待 これをみたニュースキャスターのお姉さんがショックでしばらく口がきけなくなってました
KKKとどこが違うんだっていう。。。

そのうえにアーミーネイビーウィークに向けて燃やすラバだの船だの炎上覚悟でギリギリまで相手をバカにするけど悪意の3歩手前でお笑いに徹する動画の製作だの酋長の化粧に貴重な自由時間を取られる。プリーブはこれに雑用と三食のメニューや時事ニュースや各種対抗試合の点数暗記が上乗せされ、よほど要領がよくないと本当に寝る暇もなくなる。だがプリーブには夜更かしは許されていないので必要に迫られてかなり有効な時間の使い方を学べるのである。必要は発明の母。潜在能力を引き出すには士官学校が一番。鉄は熱いうちに打て。2年生になったら誰も怒鳴ってくれないから自己の意志力のみでゲームやめて寝なくちゃなんないしー。

最高指揮官賞とホワイトハウスの鍵

President Obama accepts Navy Midshipmen's helmet*でも勝ったのは引き分け入れても17回目
8/10は合ってますけど19回って空g..ゲフンゲフン

で、アーミーネイビーゲームの勝敗が決まるともうひとつ貰えるものがあります。コマンダー・イン・チーフ、つまり大統領ですがそういう名を冠した賞がありまして、まあ陸海空3軍の士官学校三つ巴でどこが勝ったかというだけのトロフィーなのですがまたまた貰うようですねアナポリス海軍兵学校が。前回ホワイトハウスにお招きされた時にオバマさんが言うには「まーたまたミッドシップメンのみんなをホワイトハウスに招くことが出来て嬉しいよ。 最高指揮官賞も過去21回のうち19回*も勝ってるし、特にこの10年ときたらご訪問回数8回でしょ。ミシェルとも話したんだけど、もうカギ玄関マットの下に入れとこうかって」オバマ大統領ったら相変わらずお上手なんだから〜♫

伝統の終焉の危惧? Nevermore!

年は明けて2016年。このようなアナポリス海軍士官学校チームの連戦連勝が当然の実情を打ち砕き、互角の勝負を挑んでくれる相手の復活を願うばかりであります。ブラックナイツ(併記可)改めARMY☆ウエストポインターの皆さん、頑張って!これからの15年も陸軍士官学校チームが勝つまで毎年応援しますからね!今年のアーミーネイビーゲームは某文筆家が非業の死を遂げたボルティモアでの試合。大鴉さん、お待ちしております。

 
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