ズムウォルト級駆逐艦 DDG-1000 USS Zumwalt
ズムウォルト級駆逐艦のネームシップが2015年12月、ついに完成。何がなんでも年内にとの焦り意地が垣間見える日付で外海に公試に出ました。なんと初仕事?が人命救助です。さすがはキャプテン・カーク率いる艦なだけはあります。命名式は2014年4月12日、進水は2013年10月28日に式典抜きで完了しています。その模様も含め、ズムウォルト駆逐艦のスペック、兵装、起工から進水までの時系列建設進展状況、命名事情やエルモ・ズムウォルト海軍大将の人となり、そして名誉勲章授章のシールズ隊員、マイケル・モンスーアの名を冠する2番艦についても解説していきます。動画も各種勢揃い♫ レーザーやレールガンにリアル・カーク船長とMr.スポックも登場!改訂を重ね文章破綻をきたしておりますがどうぞお許しください。
ズムウォルト級ミサイル駆逐艦のスペック
誘導ミサイル駆逐艦USSズムウォルトの米海軍公表スペックは以下の通り。対地攻撃駆逐艦としては射程距離が3倍の63海里に伸び、対艦巡航ミサイル迎撃可能域も3倍に。赤外線遮断と音響反射&レーダー断面積の減少により隠密性が50倍にアップ。対浅海機雷能10倍(面積比)。沿岸部の複雑な地形監視偵察探知から水中戦までをこなせるズムウォルト級駆逐艦の空母打撃群防御力は10倍に。また独立前方展開作戦能力と抑止力を備え統合/混成海外派遣部隊や特殊部隊への支援から沿岸制圧までを可能とするズムウォルト級駆逐艦は海兵隊攻撃支援にぴったり。
基本装備はMK57VLS(80セル)、パッシブ&アクティブセンサー、SPY−3多機能レーダー、AN/SQQ-90戦術複合ソナー群(二波長帯+曳航アレイソナー)、AGS長距離対地攻撃弾(LRLAP)155mm砲2基、57mm砲(CIGS)2基。MH−60RかMH−60Rs2機もしくはMH−60R1機とMQ-8無人ヘリ(VTUAVs)3機収容。後部には7m級複合艇二艇(特殊戦用11m級RHIB2艇収容可能)。自動監視ダメージコントロールシステム(AFSS)。ソフトウェアプログラムはレイセオンが担当し武器管制/対潜/対艦/対空/指揮統御/電子戦/ダメコン/通信と全てが統合システム化される。254億円。安いじゃん(自棄)。レイセオンだけで従業員800人、下請け1800社が頑張ってます。
またズムウォルトは駆逐艦としては初のIPSを採用。これは今までの推進用動力が専用タービンから減速ギア経由で直でシャフトに来ていたのに対し、すべてをまずジェネレーター(AIM)に回し他の動源と分けずに一元化することで効率的な電力(動力)の配分を可能にするシステム。ロールスロイス・MT30ガスタービン2基からの78MWでオール電化。将来的に高エネルギー兵器の使用も見込んでのことらしい。まさかレールガンとか言わないよね?それともレーザー兵器ですか?ぼくのかんがえたさいきょうのせんとうかん?
どっちにしても威力は既存の兵器と大して変わらんような気もするが、迎撃までの時間が短縮出来るかな。レーザーは一発1ドル以下だそうだが砲塔が32億円。空軍が開発中止した航空機搭載型はひとつ1500億円だからとてもお安い。それにしてもジェネレーターやられたら推進も兵装も一巻の終わり…まさかね。余剰重複冗長性なら得意分野だからいろいろバイパス出来るシステムだと思うけど。虫による回路ショートに要注意?建設現場は北国ですから例の黒いのはいませんが、てんとう虫やカメムシが冬眠しようと狭い隙間に不気味なくらい大量にはまり込むんですよね。。。
レールガン、レーザー、ステルス
USS Dewey DDG-105にも2012年7月に固体(ファイバー)レーザー兵器システム(LaWS)を試験搭載し無人機撃墜。MK15ファランクス(CIWS)等で捕捉した攻撃目標を撃墜出来るとのこと。2014年には多少は大気内での減衰が少なめな赤外線域のやつを実用としてペルシャ湾に投入、海上の湿気と熱気と潮風と悪天候(砂嵐?)などの自然の脅威をお試し。第5艦隊のUSS Ponce。ゲーム用コントローラーみたいなので操作できて一発59円だそうです。出力調整が出来るので、ミサイルとか既存の高価な兵器での迎撃がもったいなかったショボい相手にもばんばん使えます。動力と冷却(熱交換)には船の電力系統とは別にディーゼル発電機を使用。今の所問題なく使えてるだけでなく、操作性も管理も思ったよりずっと楽だとか。
ところで今3月だからそろそろ砂嵐本番の季節ですが、そうなったらたぶんまともに使えないだろうとすでに悲観的。「どうせ敵対勢力も嵐じゃ何も出来ないから」というのはまあ正しい憶測。そして2020年代には自由電子レーザー兵器実用化予定。ロス・アラモスで鋭意研究中。これが出来れば化学レーザーのようなタンクも冷却の必要もなくなるっていうけど本体をどれだけ小型化できるのか。その頃には海軍の艦船の電化も進んでいるだろうという前提だけど近代化って大体遅れがちなんだよね。。
速度30ノットは特に変わらず。ステルス性を考慮した凌波型低乾舷船体構造。排水量15,610英トン。乗組員は148名、士官下士官兵含め130人プラス海兵隊航空分遣隊28名。公式発表なのに数字が合わないのはさすがアメリカというべきなのか保秘手段なのか適当にコピペしただけなのか。(2014年の命名進水式で配られたパンフでは乗組員158名となってました。暗算のできる編集者がいた模様)非公式レイセオンソースでは士官14名下士官兵106名航空28名だが、他の数字が適当なんで信憑性は微妙。ちなみにアーレイバーク級はクルー総数300前後(士官23人下士官兵約250から300+)。
ズムウォルトは人的コストを下げるって言うけど、年金医療費含めたってそこまでお金節約できるかなあ。ズムウォルト駆逐艦ひとつ作るお金を投資に回せばおつりが来るのでは。それにあんまり人数ケチるとダメコン行き届かなそう。全自動ダメコンって言ってるけどセンサーとカメラの電源切れたらどうすんだ。戦争中は穴空くし水入るし化学物質漏れるし火災発生するしシステム回線燃えちゃうし爆発物満載だし以下略。仮想相手国が弱いから、お飾りだから大丈夫だよね?
ステルス駆逐艦竣工への道程
さて、近所のバス造船所でズムウォルト駆逐艦作ってるわけです。何年も何年も。というのも次の契約がなかなか来ないもんで、失業したくないからいつまでも引き延ばしてたわけです、完成を。そうして全従業員が真剣に再就職先を捜していたところ、お情けでまたアメリカ海軍から発注契約がきたので躍り上がって喜んだのが2011年末。ぐずぐずと先延ばしにしていた作りかけのアーレイバーク級駆逐艦*(DDG-112, USSマイケル・マーフィー)が突如完成に向けて動き出しました。
* 2012秋にバスからバージニア経由で海軍に納入済。今はパールハーバーで就役しています。
さあ、これでやっと落ち着いてズムウォルトの建造に精を出すことが出来ます。うまくすれば今年中に出来ちゃうかも。まあ少なくとも船体部分は。ズムウォルト初号(DDG-1000)は希望的観測によれば2014には納入されることでしょう。
*やっぱ納入 20152016 年だそうです(笑)さーて、何度改訂になるか賭けようか?
それに金食い虫と判明したズムウォルト級ミサイル駆逐艦の建造は3隻で打ち切り。アーレイ・バーク級駆逐艦の存続となりました。マーフィーが最後のアーレイ・バーク級と聞かされていたバス造船所の皆さんはこれでほっと一安心。自宅前の「売家」の看板を外す事が出来ました。よかったねまたアーレイバーク級駆逐艦たくさん作れるね。アーレイ・バークのネームシップもバス造船所で作ったんだもんね。得意だもん。ひとリで出来るもん。
2005年末に試験設計段階に入ったズムウォルト、たった一艦種の開発製作にほとんどすべての軍事関連企業と合衆国のほぼ全州に散らばる下請け企業が契約に与るという海軍でも稀に見るメガ予算プロジェクト。2006年秋にはジェネラルダイナミクスのバス鉄工所とノースロップ・グラマンのインガルス造船所に一隻ずつ建造しろとのご下命が下され関係者狂喜乱舞。何しろ契約は1400億円(ドル100円換算)ずつですからね。ズムウォルト景気。コレが2008年のバレンタインデイ。その日の薔薇の売れ行きは素晴らしいものがあったでしょう。
実際造り始めたのがバスで翌2009年2月、インガルスが2010年春。ネームシップの起工式は2009年11月。あんまり急ぐと楽しみが減るので小出しにします。これを作るための建物と用地確保にバス造船所では20億つぎ込んだとか。どの建物だよ。何も増えた気がしないんだが?(増えてなかった。古いのを撤収して更地にしただけだった)
予定は未定 遅延は普遍
さて、予定では2013年に船体完成でもお約束としてたぶん翌年にずれ込む見込み。11月時点で87%出来てると言い張ってはいるものの。というかもう一隻分のズムウォルト級の駆逐艦の契約が来て2012年には造り始めるつもりがなかなか海軍からの発注をもらえなくて、しかも他の船の契約も来なくてお先真っ暗戦々恐々だったのでその間は船の建造どころではなかったのです。だって次の見通しも立たないうちに作り終わっちゃったら従業員解雇させられちゃうもん。
そういうわけで進水式去年、実際の船体お引き渡し(といえるのか)今年末、一応運航(公試)出来るかもなのが来年、で艤装(いつ終わるんだ)兵装他が完全になって作戦活動が可能になるのが2016年(希望的観測に過ぎました)。あまり宣伝したくないようだが装備全部くっつけた暁には一隻7000億円かかるという噂も。当初の見積もりの倍額。どっちにしてもケタ違ってないか心配になるお値段。誰か間違ってると言ってくれ。おかげで生産中止になるんで「たった」800億円で作れるアーレイ・バーク級駆逐艦が生産続行。美的感覚と納税者の立場から言えば問題ない。
しかし、どう見てもアーレイバーク級の方がカッコいいよなあ、船としては。ステルスってのは形状がなんだかなー。ブリキのおもちゃでももうちょっと美的考慮が払われるのでは。まあ勝てばいいんだけどね。でも相手って誰よ、中国?だったらそんなお金かけて作る必要ないじゃん全然。どうせだから見た目だけ豪華な兵装満載の艦にしちゃえ。波動砲発射口も付けちゃえ。
甲板上構造物vs.千枚通し
これでも軽量化の為バルサ材を芯にグラスファイバーで固め鋼鉄並みの硬度にしたそうですが、DDG-1002からはまた上部構造(艦橋、VLS、ハンガー等)は鋼材で造れと2013年1月になって海軍様よりの仰せが。たぶん耐火性能や抗堪性やメンテが必要な点がネックになったかと。その頭でっかちに重くなった分のしわ寄せをどこで埋め合わせるのか。インガルスはやる気がないのでバスが泣く泣く尻拭い*させられそうです。
軽くて錆びないうえに長期使用に耐えるというふれこみだったんですが、バルサとグラスファイバーのヨットの甲板を腐らせた覚えのある海軍将校はたくさんいますからねえ。中古買うときは内緒で千枚通しやドライバー懐にのんで見えないとこ刺してテストするもんね。もちろんそんな遊び用のローテクの物とは比較にならないんでしょうが、イメージがね。戦争に行くんだから修理も金属の方が楽そうだし。レジン固まるまで待ってらんないよ。もしかしたらもう既に素材がダメージ受けてたりして。メインもミシシッピも湿気てるしなあ。余計な事ですが劣化グラスファイバー製品を素手で触るのはぜひ避けましょう。桃に頬ずりするのと同じくらい後悔に苛まれます。
*2013年8月に212億の予算でなんとかしろ、とのご下命。艦橋構造物の再設計と製造だけでなく、後部PVLSとヘリ格納庫も込みの値段です。
進水命名式延期
さて、アメリカの政府機能が停止していたため、2013年10月19日に予定されていた命名進水式は中止となり、10月28日にファンファーレ抜きで静かにドライドックに注水の上、ケネベック川にお引き回しとなったズムウォルト。なにやら未来を暗示しているようでもあり、ステルスなんだから逆に正しい在り方なのかもしれず、ちょっと淋しい有様なのでした。
長期出張から帰ってみればズムさんは既に水に浮かんでおり、そのシンプルなフォルムが到底船には見えず困惑したものの物珍しいには違いなく、しかもほんの2日も早ければ現場で乾ドック移動を見ることが出来たと知るに及び「出遅れた」感に打ち拉がれてしまいました。陸側からはお尻しか見えなかったんで、ズムウォルト初号機バウの喫水線以下を肉眼で見る機会はたぶん永久に失われてしまい。出張前に見学しとけば良かった。その時点ではあちこちカバーかかっててつまんなかったけど。
気を取り直してバス造船所の隣の海軍施設で働くセキュリティ担当さん(隣人)にご近所BBQの席上でざーとらしく話を振ってネタを貰おうとしたら、彼はいつのまにか契約社員から正規の政府職員に変貌しており生まれ変わったように口が重くなっていた。ちぇっ。しょうがないので政府機関の閉鎖について聞いたら、こちらは問題なくぺらぺら喋ってくれた。有給休暇状態だったとのこと。何ともうらやましい限りである。機密いっぱいの軍用艦艇の洋上安全管理担当プログラマーをいつまでもバイトにしておかないで正解。妙な隣人が根掘り葉掘り余計なこと聞かないとも限らないし。
ともあれ、命名式は日を改めて来年の春4月12日に。現在はバス造船所と故エルモ・ズムウォルト海軍大将の娘さん達の予定を合わせる作業中。
カーク船長就任・・・本当の話です
派手な式典はなかったもののズムウォルト進水完了。ドライドックだから進水じゃないとか言いっこなし。で、それなりにアメリカでもニュースになった。けれどもポイントはかなりずれていた。なぜかというと艦長に就任予定の人物の名前が「キャプテン・カーク」だったから。そう、あのスタートレックのカーク船長とまったく同じ名前なのである。ジェームス(ジム)という下の名まで一緒。さすがにミドルネームは違うものの、この偶然の一致の方が馴染みのない駆逐艦の説明よりアメリカで一般受けしやすいのは間違いない。日本でいえば護衛艦の艦長の名がブライト・ノアとか沖田十三とかネモだった並みの話題・・・いや、全米がミドルイニシャルまで暗唱しているという点から言えば磯野カツオや野比のび太級の知名度ですね。ちなみにキャプテンは海軍の大佐という階級ですが、艦長という役職もキャプテンと呼ばれます。で、スタートレックのジェイムス・T・カーク船長も宇宙軍大佐なのだそうだ。だが噂の御当人曰く、スタトレの話は耳タコなのでもういいです、とのこと。まあそうでしょうねぇ。この現カーク大佐、未来のカーク船長はアナポリス海軍兵学校の1990年度の卒業生。ああっ、やっとこの記事と士官学校が繋がりましたね!
*ウィリアム・シャトナーは残念な事に就役記念式典には来られないとの事。かわりと言っちゃ何ですがお詫びのサイン入り写真と手紙がカーク艦長を含むクルー全員とズムウォルト家に届きました。スペースシャトルにモーニングコールはしたってのに、カーク船長ったらイケズ。
「この宇宙でキャプテン・カークを名乗れるのはただ一人だ!」
命名式典仕切り直し
米国政府機能停止で延期されたズムウォルト級駆逐艦の命名式仕切り直しが今年4月12日に行われました。新しいクラスの駆逐艦が作られるのはほぼ四半世紀の間なかったこともあり命名式は盛大に開催されました。といっても造船所関係者と海軍の人ばっかですけどね。何しろメインの田舎です。ボストンのような都会の人出と比べちゃいけません。だいたい進水式なんか一般人どころか関係者だって滅多に行きゃしません(笑)
で、完成はしてないけど中見れるのかなあ〜普通見せてくれるよねーなんて淡い期待をして行ったのですが、まず鉄壁のコネと思われたエルモ「バド」ズムウォルト海軍大将の娘アンさんの教会友達が当日来られなくなり、ついで造船所の知り合いのおじさんが行けなくなり、あせって前日に裏隣のご近所さん(海軍艦艇安全試験担当)に泣きついて一緒に行ったらチケットに「一般席」の文字が。こりゃダメかな…。
そりゃ戦争反対などと画用紙に手書きされたのを持ってる本物のヒッピーの生き残りのじいさんばあさんが数人たむろって太鼓ポコポコ叩いてるとは言うものの、平和を謳うだけあっておとなしい事この上ない。いる事すら気がつかないレベルの反対派集会。それに「予算の無駄」なんて主張はその通りだからケンカにもならない。そもそも並んでいるのは全員バッジを首から下げた造船所の職員と制服着た海軍さん。一体何に対するセキュリティなのか。
さすがにこれではマズいと気付いたらしく、5分後に突然フリーパスとなり職員も海軍関係者も一度に中へ。上の人の英断ですね。職員とゲストには朝8時から説明ツアーやるって言ってたのにぃ。今度は報道パスで入ってやる。
で、とりあえずあちこちに鎮座する作りかけのパーツ(マイケル・モンスーア、DDG-1001)を見学。舳先は露天に、お尻は巨大格納庫でその偉容を誇っておりました。また造船所の従業員があちこちで自分の作った部分に関しての蘊蓄を大声で家族友人に話しているので説明ツアーより充実してたかも。彼ら、特に高度な技能を要する船体の溶接工は非常にお給料が良いので羨ましいです。
個人的にはクレーンとドライドックに気を取られてあんまりズムウォルトの写真とってませんすみません。なんかのっぺりしててつまんないしー、きっと川向こうから撮った方がきれいに船が見えるはずだし。
当日余りにも天気がよく日差しがキツかったので、政治家のスピーチを聞かずにシャンペン割りまで珈琲タイム。海軍はコーヒーには真面目です。会場にもコーヒーココアなどのカフェイン系のお飲物がばっちり用意されていました。何やらビュフェもありましたがそこまで長居する気は毛頭ございません。
しかし船体が完成するのは今年末だというのに随分と早く進水。2番艦USSマイケル・モンスーアに場所を空けろというのでしょうか。そろそろデックハウスが来るはず(来ました)なので、それを乗せる本体をきちんとセットしとかないといけないもんね。今は艦首部分がドライドックと一文字になってます。ブルーのドライドックに斜めに筋が入ってるのは階段ですが、これの往復をするとかなりいい運動に。(ここで今年と言ってるのは2014年です。もちろん年内になど完成していません。)
ここまでのおさらいビデオ
Mr. スポック登場
カーク船長だけでは片手落ちなのでスポックさん情報も。友達を連れて観光地巡り中に偶然ズムウォルトの副長さんと邂逅。彼は現在就役前のズムウォルト初号機で慣熟訓練等のお仕事中であり、メリーランドから来た奥様と娘さんをやはりあちこち連れて回っていたのだった。眺めの良い灯台で聞いた話によれば、ズムウォルトがちゃんと完成するまでにはあと4年かかるのでしばらく北国に単身赴任とのこと。普通は進水式から納入までは一年程度、新型艦、新しい級のネームシップとなると2年くらいかけて調整するが4年ってのは驚くほど長い。まあ目新しい装備を付けまくって、あるいは付けたかったけど実用に間に合わないので仕様変更したりと複雑怪奇な様相を呈しているズムウォルト級のことだから不思議ではないがどこまで金食い虫なのか。後ろで「今すぐ沖に出して沈めるべき」などとつぶやいている納税者がいるけど反論する理由は見つからないな。
バルカン式挨拶不可
この副長さん、さすがはスポックというべきなのか真面目で一切感情表現なし。疲れているのかそれともズムウォルトの話に飽き飽きしているのか。で、全然関係ない話をいくつも振ったが反応なし。その分を補うように娘さんが明るくお茶目で愛らしく、こんな娘がいたら楽しいだろうなあと思ってしまった。彼女がお父さんをからかって言うには、スポックなのに例のバルカン式挨拶の手サインが出来ないのだそうだ。「ほらお父さん、やってみなよw」などと囃し立てられても無視するお父さん。まあスタートレックネタはもう一生聞かなくていいと思ってるかもな。
それは非論理的です
で、彼の経歴の非論理的な所はこれが4度目の副長ということ。一般的に海軍での出世というのは小艦艇から始めて大艦艇の偉い人になって行くスタイル。普通2回くらい副長をすれば次は艦長。この「次」段階の人(副長さん達)は候補として公表され、うち数十人が艦長養成コースに投入され、やがてその中から艦長さん達が誕生する。だから4回も副長というのは異例。これが3回目なら、新しい級(クラス)の駆逐艦だから実務能力に長けた経験者を割り当てたということでギリギリ納得いくが4回目となると艦長に向かないと判定されているとしか思えない。おまけに士官学校の同期が同じ船の艦長は厳しい。確かにカリスマ的とは言えないし部下を率いるというか部下がついていくタイプではないかもしれない。艦長には必要な要素なのだが。
副長に長寿と繁栄を
船の副長は人事や総務的な仕事をこなさなくてはいけないので調停調整に忙しい。四半世紀ぶりの新級駆逐艦だから乗組員と技術者は担当分野の経験を積んだベテランをそろえただろうが、新しい装備もあるのでそれ専門の技術者も開発会社から来たりしてさらに面倒そう。これが終わったら引退するとのこと。20年務めれば年金受給資格が貰えるのだがそこですぐ辞めても遊んで暮らせる額にはならない。今24年目なのであと数年ご奉公すればたぶん再就職しなくて済む年金額に。士官学校の4年間分も退役後には加算されるので娘さんの結婚式の費用はばっちり出るだろう。スポックさん、頑張って。ニモイさんもきっと天国から応援してくれるはず。
海上公試運転?来年から本気出す
さて、2015年12月7日、ついになんとしてでも書類上だけでも今年完成したことにしたいバス造船所からズムウォルトが出航。乗ったのはほとんど造船所とレイセオンの人間ですが一握りのズムウォルト乗組員も加わり6日間に100時間超、主に推進機構(IPS)から艦載の特殊戦用複合艇などの諸設備を含むテスト運用を行い、母港に帰って参りました。とりあえず万事順調=第一段階のリスク削減目標は達成できたとのこと。これから数値の分析を重ね、調整と必要な修理改良を重ねてなんとか2016年には納入に漕ぎ着けたいと。レールガンは今のところ3番艦のUSSリンドン・B・ジョンソンに積載予定。
キャプテン・カーク大活躍
しかしさすがはキャプテン・カーク、ちゃんと初回から正義の味方エピソードを重ねていきます。メイン州ポートランド沖40マイル付近で操業中の漁船から船長が胸痛を起こしたと沿岸警備隊に連絡があったのは夜中の3時。ケープ・コッドの沿岸警備隊からレスキューヘリが発信するも、漁船の甲板上から病人をケーブルで釣り上げるのは難しい状態だった。そこで付近にいたズムウォルトの乗組員が艦載艇で漁船から船長を駆逐艦に移送し、そこから無事エアリフトで病院に搬送。テロや重苦しいニュースの多い中、ひさしぶりに明るい話題として報じられました。
狼中年歓迎
これがお色気美女と初代カークならその後の展開がないわけがないのですが、現実世界で助けられたおっさんは沿岸警備隊のお世話になるのはこれが4回目という常習犯らしく、善意の私船に助けられて曳航されてきたのも含めれば5回の前科があるようです。まあエンジントラブルや盲腸炎や胸痛がわざととまでは申しませんが、出航前の準備や修理や健康管理がテキトーでも何かあれば沿岸警備隊呼べばいいと思ってる46歳男なのは間違いなし。何しろ今年9月からだけでももう3回目なのですからハタメイワク。それでも沿岸警備隊は真の正義の味方です。「人命と資源の損失を防げるなら本望です。何度連絡があっても構いません」との模範解答。尊敬します。
ズムウォルト級駆逐艦の無慈悲な命名事情
ズムウォルト級駆逐艦はアーレイバーク級で誘導ミサイル駆逐艦に使っている通し番号を無視してスプルーアンス級の最後の駆逐艦(USS Hayler, DD-997)から続けてDDG−1000に。
DDG-1001はヴェトナム戦争以降海軍では2人目(一人目はマイケル・マーフィー)の名誉勲章受章者にちなみUSSマイケル・モンスーア。1002はUSSリンドン・B・ジョンソン。んなダサい大統領ではなくUSSロバート・A・ハインラインにしろという民間の動きがあったのだが実を結ばず残念。ハインラインはちゃんと士官学校も出てるし、何となくSFチックなズムウォルト級駆逐艦に付ける名前としては面白いと思うんだけどやっぱ「アドミラル(海軍大将)」になってないとあかんか。まあリンドンさんも海将にはなっていないが合衆国大統領=全軍の最高司令官だからね、臨時とはいえ。サインペン大量注文ありがとうございました。ぺんてるさんよかったね。
USSマイケル・モンスーア
2013年5月にDDG-1001 USSマイケル・モンスーアの竜骨(一応今でもそう呼んでますが、実際には4400トンの艦の中央前部セクションです)に取り付けるプレートへの遺族のサイン式がありました。起工式と言ってよいでしょう。マイケル・モンスーア二等兵曹の御両親、サリーとジョージが溶接工の助けを借りトーチで鋼鉄のプレートにイニシャルを刻みました。リッコーバーさんは某所に自分でぐいぐいアーク溶接かましたそうですが、普通はまあプロに手伝ってもらいます。マイケルのお母さんはこの駆逐艦のスポンサーとなりました。進水式で船首ににボトルをぶつけて割る女性がいますね、あれは大抵スポンサーです。幸運を運ぶ女性、船の運命をなぞらえるにふさわしい女性。
だが彼女の息子マイケル・モンスーアは功績を積んで幸せに退役した海将などではない。彼は仲間を手榴弾から守って爆死した25歳のネイビーシールズ。2006年、イラク、アル・ラマディ。イラク陸軍との共同狙撃監視作戦に従事中、建物の屋上に投げ込まれた手榴弾に覆い被さり、シールズ2人とイラク陸軍兵士8人の命を救った。
反乱軍への狙撃を続けるシールズの仲間二人に挟まれた形で援護の弾幕を張っていたマイケル。その彼の胸に当たり目の前に転がった手榴弾。助かる術はあった。彼だけが生き延びる術が。1m背後のレンガの壁。なのにその瞬間彼は手榴弾の上に身を投げた。帰国の2週間前だった。
2年後、彼に名誉勲章が授与される。他にも負傷した仲間を激しい銃撃に身をさらしながら救助した功績で銀星章、最も激しい戦闘地区での数々の作戦行動と功績に青銅星章。彼の棺はSEALsの同志達の金色の徽章で覆われた。もちろんそれらが息子の生きた体の温もりに勝るものであるわけがない。でも。軍に志願した時点で本人も家族もわかっている。いつかこういう日が来るかもしれないのだと。たとえ戦地に赴く事はなくとも、日常の訓練や業務でさえ殉職はあり得るのだから。他にも消防士や警官や土木関係など、危険な職業は多々あるだろう。だが、単なる可能性ではなく死を前提に置いているのは軍だけだ。
自分の子の名がついた戦う船。その起工式で、皆さんお心遣いありがとうございます、いつか子供や孫とまた来る事が出来れば、と語る母親の気持ちはいかばかりであろうか。
2013年末現在、ハンティントン・インガルス(HII)は後部PVLS半分にハンガーなどのユニットを海軍に納入済。デックハウス(艦橋構造物)とVLS残り半分は2014年9月にバスに到着。バス造船所(BIW)で作ってる船体にこれらを搭載します。
そういうわけでBIWの4番埠頭にUSSズムウォルト、地上にUSSモンスーアのモジュールが並びます。けっこう壮観。一緒にアーレイバーク級なんかも並ぶであろうし。また4隻か5隻作っていいよ、どっちにする?ってなお告げがあったからね。そりゃ多い方がいいでしょう。まあズムウォルト級と違いアーレイバーク級駆逐艦は工程も装備も大体決まってるから、新規プロジェクトみたいに想定外の問題解決のための追加に次ぐ追加予算で濡れ手に粟とまでは行かなくても、5隻で3500億円がバス造船所に下賜されます。ズムウォルト級の公称一隻3500億円といい、海軍のどこがどう緊縮予算で困ってるのか見当もつきません。
ズムウォルト:そのド派手な響き
アメリカでZが入ってる言葉はバズワード、音も字もカッコいい。流行ものを作りたいなら是非とも入れたいアルファベット。だからマツダもMAZDA。禅"ZEN"が流行ったのもそれ。この駆逐艦ズムウォルトという名前もアメコミ効果音並の派手な響き。しかもあのステルス形状。否が応でも好奇心をくすぐられます。
名前のせいで余計に有名なエルモ「バド」ズムウォルト海軍大将。通称Z。少佐の部下じゃありません。その男らしい眉毛に違わず、いろいろと逸話はありますが、部下の回想によれば「自分の母が自殺した時、ズムウォルト海軍大将は「海軍がなんと言おうと必要なだけ欠勤しろ」と直々に言ってくれた。とんでもなく下っ端の自分に。その瞬間”Z”は俺の心の中でただの上官ではなくなり、何があってもこの人について行くと決めた」のだそうです。こういう資質は戦争の時に非常に重要です。海軍もそれはわかっていて、カリスマのある人物は若い時から目をつけて重用します。
しかしエルモ・ズムウォルト海軍大将自身は今では戦闘での功績や若くして(49だが)作戦本部長に就任したことよりも、艦上での下士官兵の生活環境の改善(地上宿舎にもビール自販機設置!)や人種差別の軽減に尽力したことで記憶されているかと思います。女性が航空職に就けるよう後押ししたのもズムウォルト海将です。今でもアメリカ海軍では良い環境やサービスを提供した軍関連施設に「ズムウォルト賞」が贈られています。もちろん伝統と歴史を重んじる海軍ですから、良きにつけ悪しきにつけ改革(=伝統の廃止)をしたズムウォルトさんの人気はイマイチですが。
また軍人である息子を癌で亡くしたこと、孫が神経性の病気に悩まされたことから自らが使用を許可した枯れ葉剤の関与を疑い、骨髄移植ドナー制度制定に大きな貢献をしました。そして同時テロの遥か以前から民間大学での対生物化学兵器研究を進めるなど、医学や人道面での数多くの努力を表し民間では最高位の褒章である大統領自由勲章を受章。
他にも先見の明のある指導者に対し贈られるズムウォルト賞もあります。ついでにいうとアメリカ海軍発祥の日というか誕生日もズムウォルトさんが10月13日に決めました。根拠はよく分りませんが英国とケンカ始めた日でしょう。ズムウォルト海軍大将自身は以前艦艇に多く使用されていたアスベスト障害のひとつとされる病によってその生涯を終えました。現在は母校であるアナポリス海軍兵学校の墓地に眠っています。
しかし、これ見るとやっぱ派手な性格だったとしか思えん。周りの雰囲気とのあまりの差異に笑ってしまった。ええ不謹慎ですとも。ばっちり写真取りましたとも。
若き日のズムウォルト
エルモ・「バド」ラッセル・ズムウォルト・ジュニア。彼はアナポリス海軍兵学校ではどんな士官候補生だったのでしょうか。元々は陸軍医官だった父に倣いウエストポイント陸軍士官学校に行くつもりだったのですが、ある日の夕食の席にマーチャント・マリーン(商船隊)に務めるお客様が現れ、海の話を高校生のエルモ君にしてくれました。多感な若者はすぐさま影響を受け希望進学先を海軍兵学校に変更。アナポリスでの専攻は女の子、第二専攻も女性。そのはっちゃけた行動のためやたらとデメリット(詳しくは用語解説をご参照ください)を積み重ねたものの、学業成績がトップ3%と良かったおかげでクム・ラウデで卒業。ただし第二次世界大戦中だったので一年繰り上げ卒業で1943年に任官。
海軍にとって幸いな事に興味は女性第一から海軍一番にシフトしたものの、船酔い体質である事から最初はあまり期待されませんでした。いくら能力があってもゲロっててそれを発揮出来ないんじゃ役立たずです。からかわれるしねー。
だがそこは厳しい試練を乗り越えた士官学校卒業生、意思の力で克服したのかしてないのか、とにかく体力抜群の証明書を年々出しまくり名誉挽回。体力と船酔いはあまり関係ないのだが。。
航海者の守護聖人セント・エルモと名を同じくし、もし改革に必要な権力がないなら力を手に入れるまでのし上がるという信念で多くの改善を成し遂げ水兵達の尊敬を一身に集めたズムウォルト。大戦後、一度は初志に従い医学の道に転向を図るもジョージ・マーシャルに引き止められる。海軍にはまだ君が必要なのだと。こうしてついには海軍本部の長、実質一番偉い人となったズムウォルト海将は当時めちゃめちゃ高かった兵卒の離職率を思いきり改善。兵士の任期が切れそうになると上陸許可が増えたり少しだけルーズな服装やヒゲや長めの髪を許したりと人生が楽しくなるアメちゃんバラ撒き作戦。もちろん甘いだけでは尊敬されない。部下を血の通った人間として扱いつつも仕事の上では有無を言わせぬカリスマ命令口調も兼備。
恐らくその命令能力は士官学校で培われたかと。彼ら士官学校卒業生が本気で命令すると普通の民間人でもビックリしてつい従っちゃう。何度もこの目で見たから本当。単純明快単刀直入、ハートマン方式とはひと味違います。反論が仕事の弁護士や「絶対言うこと聞かない」と公言して士官学校に一日入学したジャーナリストも悔しがってましたからね。
さて、今は亡きズムウォルト海軍大将が自分の名がついた駆逐艦を見たらいったいなんと言うでしょうか。乗組員が少ないので生活空間には余裕があるという触れ込みですが、窓もなく不思議な外見の予算大幅超過の艦。お叱りの言葉でない事を祈るばかりです。
軍事予算縮小への遠い道程
親方星条旗の雇用は大事にされます。バス造船所はおかげで首が繋がり、従業員も住宅ローンの返済の心配をしなくて済むようになりました。軍がいつまでも複座の高い戦闘機や攻撃機を手放さなかったのもナビやガンナーが失業するからだといわれましたが、企業の利権も絡むし半ば本当かも。国防を外注したくないとか従業員を解雇したら技術が失われるかもというだけではありません。
軍縮などせずとも合理化と企業間の価格競争だけで充分予算が余るはずなのですがその日は永遠に来ないだろうなあ。空母並みの値段の駆逐艦作っちゃうくらいだもんなあ。なので冷戦が終わろうとテロがなくなろうと空母はなくならないでしょう。何しろ一隻で何万人も食っていっているんですから、周辺業種まで入れたらどんだけ失業するか。
だからといって失業は絶対阻止しなければ、などと言う組合員根性の人は全員ヨーロッパにでも移住して下さいね。政府関連事業や大企業だけが市場原理から逃れられる謂れはありません。中小企業や自営業に救済なんてないんだからな!
そこを無理矢理税金投入して大企業だけ救済するのが政治家です。アメリカの失業率がこれ以上増えたら絶対有利なはずの現職大統領といえど再選されません。期待してたのに、残念ながらOバマは再選直前に失業率がユルんで首がつながりました。大統領以外の本当の仕事したことない彼にはわかんないんだろうな、無から有は生み出せないこの世の中が。いくら有権者が聞きたい甘い言葉を並べても、それを実現する財源も方策も無しでは余りにも無責任。あと4年もか…。助けてロン・ポール*!
ま、終わったな、アメリカ。ずいぶん前から終わってる気もするけど、なかなか沈まないよな。もしかして座礁してんのか?
注* 2012と2008の大統領候補。元米空軍航空医官。彼の政策「無い金は出せない」は宇宙創世の原理。